素晴らしい世界 (2) (サンデーGXコミックス)

著者 :
  • 小学館 (2004年5月19日発売)
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ソラニンの映画化に代表されるように、浅野いにおの作品の勢いが止まらない。
大学生活、ところどころ話題になりながら手に取り、それとない共感を覚えた。そんな人が多いのではないだろうか。

そこにいけばオリジナリティが手に入れられるように錯覚させてくれる、ビレッジヴァンガードという店では常にプッシュされ、読んで虚無感に浸ることがちょっとしたおしゃれのものさし。
そんな扱いを受けてきた作家だと感じる。


ひどい言いようをしてしまったようだが、浅野いにおの作品には少なからず泣かされている。


浅野いにお作品に描かれる人々のベースとなる背景はだいたい似通っている。
そこそこ社会の汚さに触れて、かつて見ていた夢が現実では叶わないと悟っている。
かといってすべてを諦めて人生をドロップアウトするでもなく、中指を立ててがなりたてるでもない。
どうしようもない日常に夢とか希望を描くでもなく、淡々と過ごし、喪失感をためこんでいく。
だけど、簡単に夢を描くことを諦められるわけもなく、時にその我慢のしわ寄せが日常をブレイクスルーする。



だいたいこんな感じではないだろうか。
こういった物語への僕たちの世代からの共感は、どんな評論家が分析して言葉にしようと、なかなか腑に落ちず、得も言われぬ違和感が胸にこびりついて離れない。

では、そんな僕らの00年代の青春ってなんだったんだろう。
景気は右肩下がりで、政治は方向を指し示すどころか汚職、凶悪犯罪が増え、拝金主義が横行。教育は崩壊し、ニートが増加。
ニヒリスティックに言うならば、僕らは喪失感に満ちた時代を生きてきたわけである。
そしてそれにより本来描けたはずの美しいものを失ったような気がして、何かを奪われたかのようにしかたなく日常を生きている。
これが浅野いにおに共感しそうな人が感じている00年代の背景ではなかろうか。

ネガティブで偏向的な考え方だ、と指摘されればそのとおり。
だが人は、心の奥にしまいこんだコンプレックスをくすぐられるのに弱いのか。
浅野いにおの演出する閉塞感や虚無感、そこで足掻く人物に多くの若者が共感しているからこその人気なのだろう。



しかし、浅野いにおのマンガって共感できない人には全く共感できないとも思う。
だって短編でも長編でも、人物は基本的には満たされているわけ。
しかも時代とか環境のせいにして、自分で能動的に考えて殻を破ろうとしていない。
その果てに悲しいとか虚しいとか言われたって、それって単なる甘えじゃない?と。
実際にそうも思う。
まあ一つの物語にすべての人の共感を求めるなんてナンセンスだから、とにかくがむしゃらに前に進もう!しっかりがんばっていけば道は開けるよ!っていうしっかりとした、ポジティブな人に浅野いにおで泣け、っていうのは、ジャンプをおかずにしろ、っていうくらい無理難題だろう。


がんばらなきゃ。だけどその果てにはなにか、もっと大事なものを見失いそうで怖いなあ、みたいなピーターパン・シンドローム的な、いつの間にか大人になっちゃったなあみたいなぼんやりした僕のような人間には、やっぱりじんわりとしみこんでしまうのだ。



最後に。
正直なところ、僕は何か大きな欠落を抱えているわけでもなく、どうしようもない喪失感を持って生きているわけでもない。
追い続けてきた夢はなく、ただ眼の前にあることをひたすら積み重ねただけだし、忘れられない恋があるわけでもない。

だから僕は浅野いにおを好きというにはどこか後ろめたい気がしてしまい、ちょっと斜に構えて読んでしまうのだ。僕はただこの喪失感のようなものに耽溺したいから読んでいるんじゃないか?ってね。

結局泣くけど。

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感想投稿日 : 2010年5月11日
本棚登録日 : 2010年5月11日

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