会社ではネガティブな人を活かしなさい (集英社新書)

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  • 集英社 (2021年12月17日発売)
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■全体的な幸福感が高いときには仕事の満足度と転職の関係性が弱くなる。一方、全体的な幸福感が低いときには仕事の満足度が低い人ほど転職する。つまり仕事の満足度が高いか低いかに関わらず全体的な幸福感が低い人ほど転職しやすい。
■第1章「幸せ(ポジティブ)な従業員は業績を上げるのか」まとめ
・気分がよくなると情報処理能力が上がるが、その効果は長く持続しない可能性が高い
・家族の不幸により情報処理能力は下がるが、時間がたつとその影響は小さくなる
・幸せだと成果が出るのは労働意欲が増すからではなく、効率的に働くようになるため
・従業員当たりの売上高は仕事の満足度とは無関係
・全体的な幸福感が高いときには、仕事の満足度が高くなくても転職をしない可能性がある
・仕事の満足度が高いほど企業価値が上がるが価値がかくなるまでには時間がかかる
・従業員を幸せにする労務管理は費用対効果から推奨できない可能性が高い
・生徒の学力向上には先生が幸せであるよりも家庭環境や教授法の改善の方が効果的
■意外にも交渉の途中で怒った感情に変わる相手の方が一貫して起こっている相手よりも良い印象を持たれる。
 ずっと怒っている人は、そういう性格だと思われて嫌われてしまう。逆に途中から怒る人は理由があったから怒ったと解釈されて、それほど不快に思われないらしい。一方、交渉の途中で怒りから幸せな感情に変わる相手は、一貫して幸せな感情を示す相手よりも悪い印象を持たれる。
■交渉結果を有利にまとめたいのであれば、ただ怒ればいいわけではなく幸せな感じで接し始めて、途中で怒るのが得策となる。また、途中から怒る人は一貫して怒っている人よりも良い印象を持たれるので今後の関係性の観点からも望ましい。
■第二章「不幸せ(ネガティブ)な従業員ほど重要だ」まとめ
・仕事た正当に評価され、自分の感情が認識できる状態では、不安は創造性を向上させる
・認知能力が高い人は心配症であるほど管理職としてのパフォーマンスが良好
・力関係の強い人は怒ることで交渉が有利になる
・最初から怒っているよりも途中から怒り出す方がよい交渉結果を導ける
・途中で怒りだす方が一貫して怒っているよりも良い印象を持たれる
・怒ると一時的に創造的になる
・身体的接触を伴う競技のアスリートは怒りでパフォーマンスが向上する可能性がある
・暗記のような学習では怒っている先生に指導された学生の方が高い学習効果を示す
・ネガティブな気分の人は組織の存続が危ぶまれるとき協調的に行動する傾向がある
・ネガティブな気分の人は、ポジティブな気分の人より慎重に考える
■マインドフルネスとは直訳すると「心(マインド)が満ちていること(フルネス)」。わかりにくい概念だが、一般的には「価値判断をせずに一瞬一瞬に意識を向けること」と定義されている。キーワードは「現在」。目の前のことに集中していない状態である「マインド・ワンダリング」(心がさまよっている状態)の反対と考えればわかりやすい。
■マインドフルネスにはポジティブ心理学のようなほかの手法とは違う特徴がある。それは、価値判断をしないこと。悩みや苦しみは、良い・悪い・正しい・間違いという価値判断に起因するからだ。例えば、人はこうあるべきだと思っていると、そのように振る舞えない自分を不甲斐なく感じて、自分自身を責めてしまう。そのため、マインドフルネスでは悩みや苦しみといったネガティブな感情が沸いても、無理にそれを抑圧しない。心が反応するのは自然だし、感情に善悪や正誤はない。ありのままの現実を受け入れることでかなり気分が楽になる。ただし、悩みや苦しみなどの感情が解消されるわけではない。ただ、身の回りの出来事に過敏に反応しなくなり、以前よりも動揺しなくなる。すると悲観的に考えなくなる。
■第3章「マインドフルな従業員」まとめ
・ストレスが多い職場ではマインドフルな従業員ほど良い業績
・マインドフルネス瞑想により集中力が増加し、記憶力も向上
・マインドフルネスの訓練で仕事の満足度が増加し感情的消耗感が減少
・職場でのヨガやマインドフルネスの訓練で睡眠の質や自律神経のバランスが改善
・マインドフルネスの訓練はストレスからの回復力(レジリエンス)を向上
・マインドフルネス瞑想を含んだプログラムは燃え尽き症候群を改善する可能性がある
・ストレス管理プログラムによって医療費の請求が下がる可能性がある
・上司がマインドフルであれば部下の疲弊度は低く業務評価は高い傾向にある
■部署が成果を出すのは怒っていて強面の上司かそれとも幸せそうで元気な上司なのか。アムステルダム大学のファンクリーフらは実はどちらがよいかわからないとしている。効果的な接し方は部下たちの性格による。
 彼らの研究によると協調性(若しくは調和性)の低い部下のグループでは怒っている上司の方が成果を発揮したのに対し協調性の高い部下のグループでは上司が幸せな感情を示した方が成果を発揮した。つまり、ケースバイケース。
■上司と部下の相性
 協調性の高い部下には上司の幸せな感情がうまく作用し、逆に協調性が低い部下には上司の怒りの感情がうまく作用する。協調性の高い部下は他人に礼儀正しく接し、競争よりは協調を好む傾向があるため、上司にも自分を同様に扱ってくれるように期待する。また、幸せの感情は友好関係や社会的繋がりを促進するので、仲のいい関係を好む協調的な個人とは相性がよい。
 一方、敵意や論争と関係する怒りの感情は協調的な人とは相性がよくない。社会の調和を重視する部下にとっては上司の怒りは受け入れがたい。部下の期待と上司の感情表現が一致しないと上司の怒りは成果をもたらさない。
 協調性の低い人の場合も同様な理由だ。協調性の低い人は議論になることも多く論争になることを躊躇しない。また、怒りは敵意や論争と関係するので非調和とは矛盾しない。このため、部下が社会の調和を重視しないときには上司の怒りは許容範囲であり部下の期待と上司の感情表現が一致するため上司の怒りは成果と結びつく。
 このほかにも仕事の負担の感じ方に違いがみられた。協調性の高いグループでは幸せそうな上司よりも怒った上司の下で働いた方が作業量が多いと感じていた。怒っている上司の下で働いた部下たちは、その相性の悪さゆえに仕事を負担に感じたのだろう。一方で協調性の低いグループでは怒っている上司と幸せな上司の間で部下が感じる仕事の負担感に差がなかった。
 上司の在り方に関して、部下に優しく接するべきか、それとも厳しく接するべきか、どちらも間違っていない。上司と部下の相性が重要。グループのパフォーマンスへの影響は、上司の感情表現が部下によってどのように判断されるかにもよる。結局は相性。
■リーダーの情動表現と作業の性質について、リーダーが幸せな情動を示した場合には分析的な作業よりも創造的な作業において良好なパフォーマンスを示した。一方、リーダーが悲しむ情動を示した場合には創造的な作業よりも分析的な作業において良好なパフォーマンスが示された。また、リーダーが中立的な情動を示した場合には創造的な作業と分析的な作業の間でパフォーマンスの差はみられなかった。
■第4章「テレワーク時代の幸福な働き方」まとめ
・在宅勤務により従業員のパフォーマンスが向上。離職を抑制し、企業業績もアップ
・在宅勤務に向かない従業員の存在や、キャリア形成への悪影響といった懸念もある
・主観的なウェルビーイングは組織の業績と正の相関があるが、その程度は大きくない(若しくは主観的なウェルビーイングは組織の業績を決める一要因に過ぎない)
・協調性の低い部下のグループでは怒っている上司の方が成果を発揮
・悲し気な(幸せそうな)上司のもとでは部下の分析的な(創造的な)パフォーマンスが向上
・部下による上司の評価は、仕事の成果とは一致しない:幸せそうな上司の方が悲し気な上司よりも部下による評価が高い
・怒った(幸せな)リーダーの方が情報に基づいて理性的に判断する(感情的な反応をしやすい)グループのパフォーマンスが良好

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年6月27日
読了日 : 2022年6月27日
本棚登録日 : 2022年6月27日

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