富士山大噴火と阿蘇山大爆発 (幻冬舎新書)

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  • 幻冬舎 (2016年5月28日発売)
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 各章ごとに「まとめ」があり,専門的な内容であるにも関わらず分かりやすく書かれてある。
■マグニチュードが1大きくなると地震のエネルギーは約32倍。2大きくなると1000倍大きくなる。
■マグニチュードが9以上の地震は数百キロメートルを超える範囲で大断層が動く。そのエネルギーはほぼ日本の年間総発電量に匹敵するほど。
■3.11後,日本列島では8つの火山で噴火が起きたが,6つは地震とは無関係な場所にある。
■御嶽山は80万年前から活動を始めていたが,歴史時代には噴火の記録が残っておらず,かつては死火山と考えられていた。
■地震が噴火を誘発する場合は地震に関連した現象によって,マグマ溜まりが刺激を受けてマグマが上昇を始める。
■日本列島周辺は4つのプレートがせめぎ合う地球上でもまれな地域で列島の下へ沈み込む2つのプレートは地震を起こしやすい条件を備えている。
■日本海溝から沈み込む太平洋プレートは地球上でもっとも古く約2億歳で,冷たくて重いため年間8センチメートルもの高速で押し寄せてきて,東北日本を圧縮する。
■南海トラフから沈み込むフィリピン海プレートは1500万年前に誕生した若いプレートで温かくて軽いプレートのため簡単には沈み込めず,その反作用として西南日本を強烈に圧縮する。
■日本列島は3.11以降「火山活動期」に入ったとは言えないというのが筆者の結論。
■列島にはいつ噴火してもおかしくない火山が110もある。
■プレートが地球の表面を覆っている理由は地球の中心が5000度を超える高温であるため。マントルは堅いプレートの下で対流している。
■プレートテクトニクスが作動しているのは太陽系惑星の中で地球だけ。
■国内高さランキング20位以内の半分以上が地球史の中で最も新しい地質時代である「第四紀」(約260万年前以降)の火山。
■地殻を太らせてゆくマグマは二酸化ケイ素などの軽い成分が濃集しているためマントルに比べるとずっと軽くなり,この軽い地殻が地球時間では流れるマントルの上に浮いていて,それがだんだんと分厚くなる。この地殻とマントルの釣り合いを「アイソスタシー」という。
■イギリス諸島では数千万年前を最後にマグマの活動がなかったため,それ以降地殻は成長していない。
■富士山の体積は約550立方キロメートル。富士山を全部崩してその土砂を使うと瀬戸内海の半分以上を埋め立てることができるはず。
■富士山の圧倒的な大きさの原因は伊豆半島を含む「伊豆・小笠原弧」が本州にぶつかっている「衝突帯」であるため。
■日本列島の火山は陸上だけではなく海域にも多く分布しており,富士山をしのぐ超巨大火山がいくつもある。
■日本最大の火山は富士山ではなく東京の南約1,130キロメートル,小笠原諸島父島の南南西に位置する噴火浅根火山(北硫黄島)であり,富士山の体積の6倍にも達する。仮にこの火山が陸上にあるとしたら,その裾は富士山の約2倍,高さは5,500メートルに達する。
■火山観測活動で噴火を予知することに成功した例は2000年の北海道有珠山西山噴火。しかし,噴火予知は短期的若しくは直前に限られており,何年も前に噴火を予知するいわゆる中長期噴火予知は現状では不可能。
■「島原大変肥後迷惑」
・雲仙眉山の崩壊による岩屑雪崩が有明海に突入し高さ10メートルの以上の津波が発生
・15,000人の犠牲者
■カルデラ
・釜や鍋のような凹みのある道具を意味するスペイン語に由来
・火山活動によってできた直径2キロメートル以上の窪地を指す
・浸食カルデラ:火口が侵食されて少し大きくなったもの
・馬蹄型カルデラ:山体崩壊により生じたU字型の窪地
・陥没カルデラ:地下に大量に溜まっていたマグマが一気に噴き出した結果,地下に巨大な空洞ができ,その天井が崩れてカルデラとなるもの
■縄文時代以来,日本人は巨大カルデラ火山の噴火に遭遇していない。
・厖大な量のマグマを一気に噴き上げ,火山灰と火砕流が広い範囲を覆い尽くす
・過去12万年ではM7以上の巨大カルデラ噴火が日本列島で少なくとも10回は発生
・支笏湖の西,約50キロメートルに位置する洞爺カルデラでは約11万年前に大規模な噴火が発生
・九州には4つの巨大カルデラが集中している。最大は阿蘇カルデラで東西18キロメートル,南北25キロメートル
■阿蘇カルデラは一度の噴火で形成されたものではない
・約27万年前,約14万年前,約12万年前,約9万年前に噴火
・最後の噴火では火山灰が北海道でも15センチメートル降り積もり,大規模火砕流は九州中部のみならず現在の山口県や天草諸島まで達した
・この噴火は阿蘇山最大の噴火であるのみならず過去約260万年(第四紀)の間に日本列島で起こった最大規模の噴火
■マグマの語源:糊のようにネバネバしたものを表すギリシャ語
■有馬型温泉の源は長い間謎であったが,最近になって南海トラフから沈み込むフィリピン海プレートから絞り出された高温水がその起源である「プレート直結温泉」であることが解った。
■地球の内部を溶かしてマグマを作る方法
①温度が上がること
②圧力が下がること
③水が加わること
■二酸化ケイ素成分の多い流紋岩質のマグマはとにかく軽く,このような性質のマグマが巨大なマグマ溜まりを作るとそのマグマ溜まりには大きな浮力が働き,その天井全体を押し上げて破壊しようとする。天井の地盤がこの力に耐えきれなくなると,天井のいたるところに割れ目ができて,そこでは圧力が下がる。その結果割れ目の部分での発砲が急速に進み,更に割れ目が成長することになる。こうしてマグマ溜まりが地表と直結し噴火が起きる。
■災害の大きさと頻度との間には「ベキ乗」(累乗)の関係がある。
・災害の規模が大きくなると頻度が急激に少なくなる
・「ベキ乗則」といい,万有引力の法則,円の面積と半径の関係も「ベキ乗則」に従う
・世の中の富は一部の人たちが独占しているという「パレートの法則」も「ベキ乗則」
・AKB48総選挙の結果も「ベキ乗則」に従うらしい
・地震の規模と発生頻度との関係も「ベキ乗則」であり,「グーテンベルグ・リヒター(GR)則」と呼ばれる
・日本列島で起きてきた火山噴火の規模と頻度は一つの関係式で表すことはできない
・山体噴火とカルデラ噴火は噴火様式が異なる
■日本列島の110ある活火山のうち,巨大カルデラ噴火を起こした火山は7つであり,北海道と九州にしか分布していない。つまり,この地域に限って融解ゾーンで作られた流紋岩質マグマが上昇・集積する条件が揃っている。
・巨大カルデラ火山は歪み速度が小さい地域に分布
・東北地方や中部地方は火山が密集するが歪み速度が大きい傾向があり巨大カルデラ火山は存在しない
■現在は,およそ過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山を「活火山」と呼んでいる。
■それぞれの事象が小さい確率で全く独立してランダムに起こる場合,その発生確率は「ポアソン分布」で示される。
・今後100年間にM7以上の巨大カルデラ噴火が起こる確率は1%弱(M8程度はその3分の1程度)
・箱根の強羅噴火クラス以上の巨大噴火は2%弱の確率
・阪神淡路大震災発生日前日における今後30年間の地震発生確率は0.02%~8%
■一つの火山の形成史を地質学的に明らかにするには一人の地質学者が一生をかけるくらいの時間が必要であるが,論文の数もそれほど稼げないので,現在の日本の大学はそのような学者を抱えるつもりがない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2016年7月10日
読了日 : 2016年7月10日
本棚登録日 : 2016年7月10日

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