学力低下は錯覚である

著者 :
  • 森北出版 (2008年6月27日発売)
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長女は現在中3ですが、彼女が使用してきた教科書を見て私が30年前に使用していたものと比較すると(記憶に残っているものですが)その薄さに愕然とします。「ゆとり教育」は失敗だったと国はもう気づいていて、既に教える内容を増やそうとする試みがなされていることが、次女(現在小5)の教科書を見ると感じられます。

従ってそれを補うために、私の住んでいる所では、殆どの人が別に塾に通っています。塾、予備校と7年間も通った私は、子供には同じ思いをさせたくないと思っていましたが、現実に長女が5年生の1月の時に気づいて、慌てて塾に通い始めさせました。

「学力低下」は、私の中では当然のことなのですが、この本のタイトルを見て、どういう根拠で論理を展開しているのだろうと思い、手にとってみました。志願者が減っている中で、定員を一定にしていれば、学力レベルが変わらなくても、学生の学力は下がって見える(p39)というのは納得できました。

統計の結果とは、解釈の仕方・議論の持って行き方によってはいかようにもコントロールされてしまうということを肝に銘じておく必要がありますね。また大学への進学率ですが、私の時代(1989年:男33%、女15%、合計24%)から大きくアップ(51,36,44%)している事実に驚きました。

以下は気になったポイントです。

・OECDが行った学力調査は、2000,2003,2006年で母集団が変化している、全てに参加した国で比較すると、読解力:7→13→11位、数学:1→4→6位、科学:2→1→3位となり、数学以外は順位が上下している(p29)

・これまでと高校生の学力レベルが全く変わらなくても、大学の入学定員を減らさなければ、大学志願者が減るごとにどの大学においても学力の低下は下がる(p39)

・1992年から2007年までに18歳人口は1992年比較で63%にまで減少した、現在偏差値50の学生は昔で言えば偏差値42程度、この前提は大学志願者が横ばいとしている、実際は50(p41)

・上位者の学力分布は、正規分布ではなく、べき分布になっている、上位に行けばいくほど学力差が極端に大きく開いてくる、資産分布と似ている(私のコメント)(p42)

・昭和45年も平成17年も、男子の4人に1人は、工学系(25.624→25.92%)に進学している、女子も合わせると21→17%となる(p67)

・但し、志願者数でみると、1992年と2005年比較において、工学部志願者:66→37万、医歯薬:19→26、理:19→22万であるので工学部の人気が下がっていることは事実(p70)

・日本の場合、修士修了者は、その同期入社(学卒入社)の最高ランクに位置づけられるが、博士の場合には、それまでに費やした費用(2500万程度)を回収できるほどには考慮されない(p83)

・難易度の高い国公立大学出身者のアンケート結果から、社会科学男子の生涯年収:4.15億円、工学士男子:3.67、工学修士男:3.54、文系男子:3.53、文系女子:2.46億円である(p85)

・生涯年収が5000万円も異なるのは、文系において最も稼げる「金融業を含めた」社会科学系と、医学部歯学部を含まない工学系一般を比較した額である(p87)

・立地によって大学の人気がかなり異なってくる、年少人口比、人口比が2005/2035年比較で0.55/0.8となってしまう地域にある大学(秋田、和歌山、青森、長崎、山口、奈良、北海道、徳島、愛媛、新潟、岩手、高知)は危険な状態になる可能性が大きい(p111)

・科挙は、西暦587~1904年の清朝最後の年まで実に1300年以上も続いた官吏登用試験、試験内容は四書五経に関するもの(p119)

・初等教育から大学院まですべてを含めた教育費において、私費負担が最も多いのは韓国、次いでアメリカ、日本、ニュージーランド、メキシコ、イギリスである(p127)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本
感想投稿日 : 2012年4月23日
読了日 : 2009年8月9日
本棚登録日 : 2012年4月23日

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