バカ格差 (ワニブックスPLUS新書)

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  • ワニブックス (2018年1月11日発売)
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谷本真由美
コンサルタント兼著述家。公認情報システム監査人(CISA)。1975年、神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院にて国際関係論および情報管理学修士を取得。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。日本、イギリス、アメリカ、イタリアなど各国での就労経験がある。ツイッター上では、「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いツイートで好評を博する。趣味はハードロック/ヘビーメタル鑑賞、漫画、料理。著書に『キャリアポルノは人生の無駄だ』(朝日新聞出版)、『日本人の働き方の9割がヤバい件について』(PHP研究所)、『日本が世界一「貧しい」国である件について』(祥伝社)、『不寛容社会』(ワニブックスPLUS新書)など多数。

日本人はこのような世界的な格差拡大自体を自覚し、どうしたら自分の生活を守れるのか、資産を増やすことができるのか、富裕層をよく研究したほうがよろしいように思います。  格差が悪いと嘆いていても、自分の雇用は守られませんし、資産を増やすことはできません。評論家でいるのをやめ、主体的に行動を起こすときなのです。

日本人が直面するバカ格差の中で、最も深刻なもののひとつは「情報のバカ格差」です。  自分が巻き込まれていることに気がついていない人があまりにも多く、また、損していることを知らない人も多いのです。

ITを使いこなした人たちはさらに豊かになっているのです。  つまり、稼げるのは、プログラミングのような分野であり、コンピューターを使いこなせる人間は益々高い報酬を得られ、そうでない人は困窮していくということを理解しているか、そしてそのようなスキルを身に着けたかどうかで、貧富の差が明確になってしまう、という未来が実現しているのです。 「情報のバカ格差」、要するに知っているか知らないかで、這い上がれるか、滑り落ちるかが決まるのです。

これもITを使いこなすことで豊かになる方法ですが、コンピューターの電源の入れ方さえわからない人は稼ぐ機会を見逃しているわけで、「情報のバカ格差」の典型です。

 コンピューターを使いこなせる人、使いこなす方法を知っている人、コンピューターから適切な情報を得られ、分析できる人たちが今後はより豊かになっていきます。  暗記力が優れていても、計算が早くても、そんなことはコンピューターに任せれば良いので、なんの付加価値もありません。試験で高得点を取れるよりも、ネット広告の仕組みを理解し、儲かる仕組みを作る人のほうが豊かになれる時代です。  それに気がついていない日本人は、今日も子どもにせっせと計算ドリルをやらせて時間を浪費しているのです。

つまり高度成長期には、大企業に就職することはクオリティーの高い生活が保証されたのと等しかったのです。  またこういった会社は、従来は雇用が安定していましたし、日本の労働法では北米や欧州北部のような解雇制度は実現していませんでしたので、一旦採用されれば長期の生活の安定が保証されました。  大きな会社の社員であるということはそれだけ豊かな生活を送っている人間だという証明になったのです。  これは結婚相手を探す未婚の女性にとっては大変魅力的なことでしたし、お金を貸す金融機関や物を売りつける小売企業にも良い顧客として認識される条件でした。  こういった社会の前提があるため、就職先を探す学生にとっても、何の仕事をやるかというよりも、どの企業に所属するかということが大変重要な意味を持ちました。  いまだに新卒の就職活動時に人気企業ランキングといったものが発表されて、多くの学生が特定の企業に集中します。

非正規雇用の人は徐々に増えているので、近いうちにおそらく労働者の半分以上に達するでしょう。製造業の会社の場合、正社員はたったの2割という部署があったりします。  つまり会社というものがかつてのように安定した存在ではなくなり、大企業や優良企業であっても、正社員の椅子は限られ、しかもリストラもあるので、生活の質を長期にわたって保証してくれる存在ではなくなってしまったのです。  ところが日本人の考え方や感覚というのは急に変わるものではありません。  景気が良かった頃の感覚を抱えたまま、いまだに会社が個人の生活の質やアイデンティティーを保証してくれると思い込んでいる人が数多くいます。特に昭和の高度成長期を支えた世代は時代の変遷についていけない人も多く、子ども世代に大企業至上主義の価値観を押しつけることもあります。  ですから実質的に考えると、専門やアイデアを武器に個人事業主や自営業として働いたり、今伸びている分野のベンチャー企業に所属している人のほうが、大企業に勤める人よりもはるかに報酬が高く、資質も優れているにもかかわらず、従来的な考え方のまま、大企業に入れば一生安泰だと考えるような人が大勢いるのです。

一方で他の先進国では「どこの会社で働いているか」ということはあまり重要ではありません。  なぜなら比較的雇用規制が厳しい欧州北部であっても、北米であっても、会社は簡単にリストラをするので、大企業であれ、中小企業であれ、基本的に雇用が安定していないからです。

ですから、こういった地域において個人の判断材料は、その人は何ができるのか、その人が実際にどのぐらい稼いでいるか、どのぐらい資産があるか、人間的に面白い人かということになります。所属しているのが大企業だろうがベンチャー企業だろうが、個人事業主だろうが、あまり関係がありません。  金融機関からお金を借りる場合も同じで、借金や住宅ローンの金利はその人がどこで働いているかということよりも、どのぐらい稼いでいるか、どこに住んでいるか、前年どのぐらい稼げたのか、過去にお金をきちんと返済したか等々、「個人の活動に関してのこと」が査定の対象になります。

一方で韓国やインドでは地縁や血縁も大事で、どこの組織に所属しているかということも重要視されることがあります。どちらも権威主義なところがあり、就職する際は大きな組織を好む人が少なくありません。そういった点では若干日本と似たところがあるかもしれません。  いずれにしろAIやIoTで世の中が大きく変わっている時代に、いまだに高度成長時代の感覚で会社名によって人を分類する日本人は時代錯誤なのではないかと思います。  これこそ日本人を苦しめるバカ格差のひとつであります。

さらに適材適所でもないのです。機械をいじるほうが得意な人にマネージャー職をやらせたり、ものを書くことが得意な人に営業をやらせたりしています。人それぞれ得意なこと不得手なことがありますが、特性やスキルを無視して年次で昇進させたりしているのです。

北米や欧州北部、中国だと、重要なのは肩書きだけではなく「いったいどのぐらいの報酬がもらえるか」です。

大金持ちなので自分が思ったことを好き放題に言いまくります。  利害関係を気にする貧乏政治家には真似できません。  アメリカでは「政治的に正しい」発言をするべきだ、というのが当たり前になっているので、人種差別、性差別、年齢差別にあたることは「思っていても」「言ってはならない」ことになっています。多くの「政治的に正しい人」は言いたいことが言えません。 「不法移民は強制送還しろ」「中東から難民を受け入れるな」「中国人に不動産を売るな」なんてことを言ったら大問題になってしまいます。  心の中では思っていたとしても、実際口に出したら社会生活もキャリアも終わりです。  そこで、本音を包み隠さずズバッと言ってくれるトランプ氏が大人気になったのです。  トランプ氏の人気は今のアメリカがどうなっているのかを考えるとよくわかります。   70 年代から 80 年代に比べると貧富の差が拡大し、多くの中流階級が没落しました。トップ1%は豊かになりましたが、中流以下の家庭の実質賃金は下がりまくりです。  大学の学費は高騰し、多くの人は学資ローンの支払いに苦労します。しかし学費が高い有名大学を出た「エリート」で、なおかつ親のコネがなければ良い仕事は得られず、一生這い上がることができないのです。  国民の大半はそんな「エリート」階層とは無縁の生活を送っています。気が付くと近所には最近やってきた外国人移民ばかり(自分の祖先が移民だったことは忘れているが)。  製造業は中国工場に移転。安定した職場はなくなり、「エリート」ではない自分が就けるのは、スーパーの店員やハンバーガー屋といった一時間いくらの仕事です。  オバマ氏が何かを変えてくれると期待していた人は大勢いましたが、在任中に実質賃金は下がり、自分の仕事は海外に移転し、近所のビルは中国人に…

 アメリカでは、オバマ氏は演説はうまいが、実績が伴わないダメ大統領だと考えている人が少なくありません。絵に描いたようなリベラル(=意識高い系)であり、本音を語らないところも気に入らない人が多かったのでしょう。  トランプ氏が大統領になったことは日本では驚きをもって伝えられましたが、アメリカでは必然的な流れがあったということです。  ところでトランプ氏の娘さんであるイヴァンカ・トランプさんは、トランプ氏と違い大変理性的な常識人であることで知られていますが、イヴァンカという名前が出るたびに大笑いするイギリス人が少なくありません。  イヴァンカ、イヴァンカ、イヴァンカと連続して発音すると「I wanker」(アイワンカー)と聞こえるからです。イギリス英語では「私は自慰するしか能がない人」という意味を持つのです。

 次にお金を貯めるには節約するほかありません。ただしこの節約というのは、やり方が難しく、お金は本当に使うべきときには使わなければ意味がありません。  例えば自分が大事にしているお客さんや身内に対しては、ケチらずにお金を使うべきです。  また、健康や自分の身を守ることに関してはケチってはいけません。  一方で節約できるものは徹底的に節約するべきです。  例えば100円ショップでの買い物はしないという節約の考え方があります。  100円ショップのものは安くても質が低いため、壊れやすかったり結局買い直さなければならないことも多く、買いに行く手間、時間などを考えると実は損なんです。若干値段が高い専門店やホームセンターで長持ちするものを買ったほうが、総コストが低い上に時間の節約になります。それで生まれた時間はリラックスしたり仕事の勉強をする時間にあてればいいんです。

以前香港で似たようなことを目撃しました。  私の友達の親類は大変なお金持ちなのですが、服はボロボロです。足元は一年中ビーチサンダルです。割引券を使えるところでは徹底的に使っていました。しかしお客さんを接待するために使うベンツは金色の大変高価な車種でした。  つまりお金を節約するべきところでは節約し、使うところでは思いっきり使う。その繰り返しにより富を蓄積してきたのです。  さらにお金を賢く使うにも貯めるにも、重要なのは勉強です。  もちろん経済学やファイナンスの勉強も大変重要なわけですが、それ以上に重要なのは幅広い教養を得ることです。  例えば歴史や文学は一見お金を貯めたり使ったりすることには関係ないようですが、世の中の動きを理解し、先を読むのには大変重要です。歴史は必ず繰り返しますから、過去から学ぶことは可能です。人間はそれほど賢くはありません。  文学は異なる文化圏の人々の心の中を知るのに役立ちます。ですから様々な国の文学を読むことは重要です。  この他に文化人類学や芸術といったものを学ぶこともとても重要です。それを通して異なる文化や異なる美意識を身につけることができるからです。  そうすると世界情勢もだんだんわかってきますし、外国の企業に投資するときはそういった知識が意外と役に立ったりするのです。  情報は今ではネットで無料で学べたりしますから、お金もかからず暇も潰せますし、本当に一石二鳥です。

「日本は今後発展途上国になってしまう」と過激なことを言っている人たちもいますが、私は日本人の教育レベルやインフラの水準を見る限り、そこまでひどいことになるとは思っていません。国力というのはその国の人たちの教育レベルや倫理のレベルで決まります。日本はまだまだレベルが高いのです。

 こういった諸外国の状況に比べると、日本の格差というのは大変小さいものです。昔に比べると治安が悪くなったとはいっても、世界的に見ると最も治安が良い国のひとつです。ですからバカ格差があるとはいっても、世界的に見ると実はそれほど深刻な問題ではないのです。  しかし、それを知らない人も多いので、微小な格差に頭を悩ませてしまうのです。  やはり外の世界を知らないと視野が狭くなってしまって、どうでもいいことで苦悩してしまうものなのです。

日本には様々なバカ格差がありますが、自分自身の軸というものがあれば、そんなことは気にならなくなるものです。  自分自身の軸とは何かというと、自分が信じるものであったり、自分が良いと評価するものです。  それは自分の好きな本であるかもしれないし、何か好きな価値観かもしれません。好きな風景かもしれないし、自転車に乗っているときに顔に感じる風かもしれません。  それは自分が起きている時間に、自分が幸せだと感じることです。  人生は楽しむためにありますので、そういった自分が良いと思うものを常に意識していることは、自分の人生をより充実したものにしてくれます。  そういった軸になるものがあれば、目の前にどんな格差が現れようともどうでもよくなるはずです。  格差というのはあくまで他人との比較にすぎませんから、相対的なものです。しかし自分の軸は人と比較するものではありません。あくまで自分が良いと思うもの、信じるものです。それに対して他人がどう言おうと関係はありません。  会社や学校で格差を感じても、家に帰れば自分の好きな石を眺めて過ごす、気に入った本を読む、木彫りに熱中する、犬を可愛がる、自転車に乗ってどこかに行く、困っている人を助ける、メソポタミア文明の秘密を探る、そういった人生の軸になる楽しみがあれば、何事もやり過ごせるというものです。

 我々が直面する格差の中には、ちょっとした知恵や勇気を出せば改善できるものもあります。  そのひとつは適切な節約生活であったり、経済や社会のことを勉強することであります。知識さえあれば、地道にお金を貯めて、堅実に投資をして、経済的な格差を乗り越えられることがあります。  さらに、他人の言うことは気にせず、見栄を張らないといった意識も、これからの時代、大いに大切です。  自分が人生で大切にしたいことを見極め、やりたいと思うことだけやれば、生活はもっと意味のあるものになるでしょう。  そしてとにかく自覚するべきなのは、人生は有限であり、自分と他人を比較するのは本当に時間の無駄であるということです。そんな暇があったら盆栽の手入れをしたり、気の利いた卵焼きでも作る研究をしたほうが有意義ではないですか。  格差はあれど、人生に与えられた時間は平等です。限られた時間をいかに使うか。それが格差を自力で乗り越えていける唯一の方法なのです。

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感想投稿日 : 2023年12月11日
読了日 : 2023年12月9日
本棚登録日 : 2023年12月9日

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