誰のために法は生まれた

著者 :
  • 朝日出版社 (2018年7月25日発売)
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感想 : 41
4

このタイトルだけではなかなか読む気になれない(笑)

きっかけはとても気に入った著書「絵を見る技術 名画の構造を読み解く」の著者秋田麻早子さんのブログで絶賛・紹介されていたからだ
かなり前のことなので内容も覚えていないが、興味深くぜひ読んでみたいと思いずいぶん前に入手しており、ようやく着手できた

映画や戯曲を観たあと、法学教師がカジュアルに中高生と問答する

最初にあらすじがあり、そこから生徒との対話形式で紐解かれるため、非常に読みやすい
しかしながら内容は深いため、なかなか考えさせられるのだ!うーむ


■「近松物語」
ここでは「グルになった集団を解体する」、「グルになった集団に対抗する」ために法はあることが学べる
・追い詰められた一人の人に肩入れする
・意外にも…頭を動かすより、直感と感じることが大切
 その人の苦痛に共感する想像力
 これがないと何が問題かつかめない
 そういう問題を感じ取る力のために古典が有効
 
■「自転車泥棒」
(有名な映画ですね 残念ながら観ておらず…)
舞台はイタリア
貧しい親子のなかなか救いのない話だ
ここでは「占有」の大切さ優位性について学べる、「所有」とは違う
ある人がある物に関わっている
その物に高い質がある方が勝ち、とても良い状態で保持している
つまり人から盗んだ物は占有にはならない
例)土地の占有と所有
占有:環境や住む人たちも大事にしてそれに相応しいきれいなものを建てるような土地の持ち主
所有:とても閑静な住宅地に、ここは俺の土地だから勝手だ!とケバケバしいビルや風俗店を建てる


■プラウトゥス(ローマの喜劇作家)
こちらでは「カシーナ」と「ルデンス」が取り上げられている
軽く「カシーナ」を紹介
今でいうパワハラ、セクハラの世界で権力とセコくて見え透いたテクニックを使って、おっさんが若い女性をモノにしようというゲスな話である
これをドタバタ劇みたいな感じで最後は面白おかしくハッピーエンドだ

ここでは本来の政治について学べる…
(ここでの)政治とは→権力を排除し、個人の自由を守るためにある仕組み
まず法があって、一旦ブロックする(個人を守るために)そうしてから、ゆっくり政治、つまり裁判で正義を追求する
「カシーナ」でいえば、権力があるからってゲスなことをしてもちゃんと最後は成敗されるのだーということを、より具体的に知的に説明してもらえる
古典の力の凄さも教えてくださる
人間の歴史の土台を作ってきたものだから古典は素晴らしいという
古典を土台に社会が動いているとのこと(これは法律以外でも感じることだ)


■ソフォクレス(ギリシャの悲劇詩人 ソプクレスとも オイディプス王の作者)
こちらでは「アンティゴネー」、「フィロクテーテース」を取り上げる

ソフォクレスはデモクラシーの問題を取り扱っている
デモクラシーは政治がもっと高度になったもののはずなのに、いつの間にか友と敵だの利益だのという発想になっていて、原点を忘れているんじゃないか…という角度から切り込んでいる

そのために必要な原理
・連帯が大事
・完全なる孤独の一人となる
一見、矛盾しているようにも思えるが、以下のような説明がある
個人を一層自由にし、皆で連帯してボスと集団を解体するぞ、という自由ばかりでなく、一人一人が自分の幸福を追求する自由というものをもたらす
ややこしいが、たとえ他人がどんなに迷惑を思おうとも、その人が自分の幸福を追求している以上は喜んで許す
もっと集団から遠くなったように思えるが、みんなが応援団のようになるので結果的には集団を生み出す
集団が個人を犠牲にしていくのを批判する
完全なる孤立した1人が連帯すること
これが、本物の連帯とのこと

さらに「フィロクテーテース」になると「連帯」+「かけがえのないものを承認」となり、さらに上をいく
追い詰められた個人を排除すると結果社会全体が破滅だという教訓になっている

ギリシャ人たちは言葉の自由をとことん追求
実際言葉の自由が、どうしたら社会の中で実際に実現して、本当に自由になれるのか…
それを考え抜いた上での作品とのこと

いやぁ、ギリシャ神話深い!哲学だ!
(ソフォクレスの作品は、せつない運命ややりきれなくて物悲しい…だけじゃなくこういう読み方もできるのかぁ
 実に興味深い 現代人に必要な教えがたくさんある!)

最後は実際の最高裁判所の公式判例があげられる
原文ではちっとも理解できないが、もちろんここでも対話式で解説が入るので理解できる


と簡単に言うとこのような内容である


「法」の視点が変えられた!
先生の質問で中高生の視野がどんどん開けていく
のだが、こちらも同じように、ああ、そういう見方があるのか!となんともA・HA体験ができる体感的読書とでもいうのか…
よくもわるくも常識に縛られた頭の硬くなった大人にガツンと効く!
法ってガチガチのものじゃなくて、歴史を紐解けば、やさしさと思いやりに満ちたものだったんだなぁ
なんだか時代が進むにつれて、大切な根本がなくなっていっているんじゃないかなぁ
そんなことをシンプルに考えた
法律のベースってこういうことだよね?

表題からは想像つかないほど読みやすいが、内容は正直難しい
表面的にしかまだ読めていないと思うが、それでも読む価値は十分ある
法律以外の部分でも古典の大切さ、読み方、ギリシャ戯曲や神話の面白さ(もっと知りたい、読んでみたい!)に触れることができる

桐蔭学園の皆さんのスマートさにも感心
若者の明るい前向きな姿勢は気持ちが良いし、日本も捨てたもんじゃないな…と安心する

完全なる理解がなくても触れるだけで知的好奇心を十分満たしてもらえる良書!

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年6月16日
読了日 : 2021年6月16日
本棚登録日 : 2021年6月16日

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