ブラックボックス

著者 :
  • 講談社 (2022年1月26日発売)
3.10
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本棚登録 : 2851
感想 : 295
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この物語の中で、何度も出てくるフレーズ「ずっと遠くに行きたかった。今も行きたいと思っている」と、「ちゃんと生きると言うこと」。
主人公は湧き上がる怒りの感情を抑えられず、それが原因での失敗を何度も繰り返す。誰かのために何かをするタイプでもなく、自分の生活を満足させるための努力をするわけでもない、今出来ることの中から無難なものを選んで、なんとなく生活しているような。本人の中ではそれで良しとは思っていないのだけれど、だからと言って変わるために何か、という風でもない。
おそらくその微妙な、俗に言う「ちゃんと生きるということ」と自分の差が、本人の中でフラストレーションになっているのかな。
「ずっと遠くに行きたかった」と思うのは、本当は、変わりたいと思う気持ちが底にあるからなのかなとわたしは思った。

ずっと暗く、恨み節を聞かされているような重たい空気だったけれども、後半になり刑務所の中での場面では、考える時間が増え、毎日変わらない規律の中で自分を振り返り、終盤ではほんの僅か、明るい方へ顔を向けたように思えた。


芥川賞受賞作、と言うのは実はあまり読まない。元々ミステリばかり読んでいると言うのもあるけれど、読後感というか、なんだかどよーんとした澱みたいなものが自分の中に生まれて、どうにも心地が良くないことが多いから。
だけどもそれはつまり、物語に引っ張られて、普段の自分では考えなかったことについて、深く考えさせられていると言うことなのかも知れない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: オーディオブック
感想投稿日 : 2023年1月13日
読了日 : 2023年1月12日
本棚登録日 : 2022年12月20日

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