織田信長 (人物叢書)

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  • 吉川弘文館 (2012年12月10日発売)
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感想 : 11
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 五味先生の書評が25年正月毎日新聞に出ていたので買ってみた。内容は帯書きどおり、要するに信長って褒められ過ぎだよね、という話。分国や親族優遇、異常な短気、裏切りの連鎖を招いた人事など、信長が「なぜ天下を取れずに終わったか」を丁寧に論証。
 前書きで引用していた、五木寛之氏の東京の見方でいうヒーロー信長に対して、地方で聞かれるのは信長への抵抗と憎しみの継承である、という発言は傾注に値する。ツマラナイ改革者信長像を粉砕することは、単に偏屈な歴史マニアの溜飲を下げるだけではなく、信長に敵対した人たちを、歴史の流れがわからなかった愚か者であるかのようにバカにする見方との闘いなのである。
 本土と沖縄(旧植民地という意味では北海道台湾朝鮮樺太も入れていいのかも)、西日本と東日本、日本海側と太平洋側、日本人はすぐに片方をもう片方の上に持って行くわけだが、そうした単純思考に冷や水を浴びせるためにも、歴史を学ぶ事はとても重要。でも、それは別に近代史だけの話じゃないよね、って事ですね。

【読後】

 信長が「最大の戦国大名である」という主張は良くわかった。特に、信長の民政は試行錯誤の連続で、時期によっては荘園復興や当知行の追認など室町幕府と変わりない政策を導入してきた事も面白い。仏教政策など、信長に対した革新性は認められない事、南蛮好きというよりは中国に強烈に憧れを抱いている事なども、一般的なイメージとの差として面白いだろう。

 ただ、分国内で、本領である美濃・尾張の家臣を優先し、その他地域での国人を消滅させる政策を取った、という点については、批判の一方でそれ以外の選択肢があったのかな?という疑問も感じる。徳川政権だって譜代に土地を配っているし、この本で指摘しているように信長の意識していた「天下」概念が畿内中心だったとしたら、室町政権とほぼ同じ分国を手に入れるまで、信長は後数年で十分だったわけだし。そう考えると、結論部分の「信長なんて天下統一とかどこかで破綻したに違いないよ」という結論はちょっと随分挑戦的なような気がした。

 ただ、信長は日本史上でも珍しい「天皇の権威付けを無用と考えた権力者」だという定義と中国趣味の強調には想像力を掻き立てられるものがある。もし信長があと5年生きていたら・・・というのは、やはり面白い妄想であり続けるのだろうな。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 中世史
感想投稿日 : 2013年1月8日
読了日 : 2013年2月18日
本棚登録日 : 2013年1月8日

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