アメリカの経済学者 ジョン・ケネス・ガルブレイスの経済学的なスタンスを、主著である3作(『ゆたかな社会』、『新しい産業国家』、『経済学と公共目的』)を軸に解説すると共に、その他の幅広い文筆作品から彼の思想を概観したガルブレイスの解説本。
「今こそ読みたい」とタイトルにある通り、GAFAに代表される巨大企業による市場独占とその影響、新自由主義に対する再評価の機運、その他にも環境問題や女性の社会進出といった、現代にも通じるテーマについてガルブレイスがこれらをどのようにとらえていたかも言及されています。
前半では主著の3作を紹介しながらガルブレイスの経済思想が紹介されます。
印象として、ガルブレイスの経済思想は異端。その上挑発的とも感じます。
『ゆたかな社会』では、生産側によって演出・創作された購買欲求によってアメリカ経済が過度な消費経済に変遷し、それが民間と公共の資本バランスをいびつにし、結果的に環境問題など様々な社会影響を及ぼすに至ったする論を展開しますし、『新しい産業国家』では、いまや大企業の「計画化」作用が経済全体をコントロールしていると説きます(計画化という言葉自体、社会主義の計画経済を連想させるという意味で挑発的な語彙選択だと思います)。
どれも学校ではお目にかかれない内容です。
後半では上記3作以外の文筆作品からガルブレイスの主張が紹介されます。
軍産複合体への理解と危惧、レーガン・ブッシュ(パパブッシュ)政権における「発言力を持った一部選挙民」(=「満足せる選挙多数派」)による不公平な経済・社会構造、バブルの分析とその崩壊の予言など、どれも卓見だと感じます。
(ただでさえ名文家だったということもあり、経済学者よりも文筆家のほうが輝いて見えるくらい・・・)
また著者である根井さんは経済思想史が専門だということで、要所要所に当時の経済思想の潮流が解説されており、これがまた非常に参考になります。たぶん私は根井さんの経済思想史の著作も購入することでしょう。
ガルブレイスはケネディ大統領とも知己の関係であり、政治スタンスは一貫してリベラルだったそうです。そんな彼が今にも続く保守潮流を「リベラルの後退」と捉えていたのは興味深いと思います。
個人的にもこの潮流は保守が勢いを増したのではなく、リベラルが凋落したためだと考えている(アメリカではリベラル政権が誕生しましたが、その取り巻きの思想は極端でありバランスを欠きます)のでこの辺も興味深いと感じました。
- 感想投稿日 : 2021年3月28日
- 読了日 : 2021年3月28日
- 本棚登録日 : 2021年2月28日
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