宗教の本性: 誰が「私」を救うのか (NHK出版新書 656)

著者 :
  • NHK出版 (2021年6月10日発売)
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『感想』
〇著者は自分の信じる宗教以外にも寛容で、否定はしないところに好感が持てる。だからほかの宗教を冷静に分析できる。

〇宗教にのめりこんでいる人って、自分たちが正しい、他は全部間違っていると疑いもなく言ってくる。そう言うなら正しいのは1つしか存在せず、世の中のほとんどが嘘ということになる。それなら自分の信じる道が正しい確率はほぼないよ。

〇資本主義というイデオロギーは宗教だという意見には納得する。金を稼ぐことが行動規範となるのなら、それはもはや宗教。

〇宗教は選ぶものではなく出会うものか。確かに商品のように見比べて自分が一番良いと思うものを決めているのではない。それよりも環境で自分の意志とは関係なく決められている。そこから変わる人もいるのだが、それも出会いだ。

「フレーズ」
・釈迦は「人間の苦しみの原因となっているのは欲望(煩悩)であり、演技の法則を理解し、法則を踏まえたうえで正しい生き方を選択すれば、欲望は消滅し、心の安寧が得られるはずだ」という結論にたどり着きました。(p.76)

・「超人間的な秩序の信奉に基づく人間の規範や価値観の体系」というのが、ハラリさんが提示した宗教の定義です。(p.87)

・私たちは生まれながらに資本主義や共産主義といったイデオロギーにどっぷり浸かって生きているため、一定の法則(超人間的な秩序)が自分の思考や行動を支配していることに気づきません。しかし、じつは誰もがイデオロギーを信じて生きています。(p.88)

・人にとって、自分が死ぬということ以上に重大な問題はありません。理に叶っているかどうかは二の次で、一番重要なのは、その人にとって説得力のある言葉かどうかです。その話を聞いた本人が信じて、本人が救われるのであれば、それはその人にとって、まぎれもない真実だということです。(p.142)

・宗教の本性(p.151)
 1)ハラリさんのような客観的視点で見るなら、超越存在の力を前提とする従来の宗教はもはやその信憑性を失いつつあるが、その代わりに、科学的世界観を背景とする、別形態の現世完結型宗教が我々を取り巻いており、その意味では今も昔も、我々人間は宗教世界に浸かりながら生きている。
 2)しかしその現代型の宗教は、科学的世界観を前提として成り立っているため、現世で生きている人間の社会だけを救済対象にしている。したがって、死にゆく者の、死に対する恐怖を取り除くことはできない。我々現代人は、従来の宗教が果たしてきた「死の恐怖の完全除去」という効用を享受することのできない立場に置かれており、一人ひとりが個別に死と向き合わねばならない、絶望的な状況に陥っている。

・宗教には、よいか悪いかの絶対的な基準は存在しないと思っておいたほうがいいでしょう。置かれた状況や立場によって、見えているものは違います。たとえ大多数の人の目から見て悪い宗教だったとしても、当事者がそれを心から信じ、生きる支えにしているとしたら、それはその人にとってはよい宗教ということになるのです。(p.194)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 哲学
感想投稿日 : 2021年9月3日
読了日 : 2021年9月2日
本棚登録日 : 2021年9月3日

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