民主主義の逆説

  • 以文社 (2006年7月15日発売)
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感想 : 4
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本書は、「ラディカル・デモクラシー」の政治理論家、シャンタル・ムフの90年代後半の論稿を集めた論文集です。彼女は近年、自説を一から展開するというよりも、現代の自由民主主義論に対する批判的考察を通じて自説を浮かび上がらせるスタイルを取っているようで、本書でもロールズやハーバーマス、他の討議民主主義者たちの「合意論アプローチ」への批判が中心的な内容となっています。

彼女は、政治的領域における「合意」の条件を探究する現代の自由民主主義論が、それ自体権力の産物である「理性」の存在を前提にしている点(第1章)、民主主義の条件である「境界」の問題について無関心である点(第2章)で欠陥を有しており、それらは「自由」と「平等」の両立不可能性から生じる問題であると指摘します。そして第3章では、ヴィトゲンシュタインに依拠することによって、そもそもこれらの欠陥の要因は政治理論の方法論としての「合理主義」の限界にあることが明らかにされ、「差異」を受け入れられるような方法論のオルタナティブが提示されていきます。

以上のような批判的考察を経て、第4章後半では彼女の提起する「闘技的民主主義」が簡単に説明されています。
そこでは、これまでの政治理論が除去しようと努めてきた「権力」的要素や人間関係にまつわる「抗争性」が逆に前面に押し出され、「対抗者」間の「闘技」する場としての「政治」が描かれます。
ここで言う「対抗者」の関係とは、相手の掲げる理念は真っ向から批判するけれども、お互いに理念を擁護する権利は認め合っている状態を意味し、そしてこのような「対抗者」関係が、お互いにせん滅し合うような「敵対」関係に転化しないように環境を整備することが、自由民主主義の役割として提示されます。また、ここで言う「闘技」は、合理的な説得を用いたものではなく、お互いに一種の改宗を促すような「情熱」によって争われるものとして描かれています。
一方で、民主主義の条件である「統一性」は、討議民主主義者たちの主張する「合意」ではなく、C・シュミットの主張した「同質性」でもなく、闘技の場での自由民主主義への倫理的指示の共有という「共通性」に求められています。簡単に言えば、自由民主主義の諸理念の解釈を巡って争うのが闘技の場であるが、自由民主主義そのものへの支持は共有されているため、「統一性」は担保されるということのようです。この辺りは記述が少なく、自分の理解力では理解できませんでした。

最後に第5章では、それまでとは異なり、イギリスの「第三の道」に見られるような現実政治の中道路線が批判の対象とされ、右翼-左翼対立への回帰が促され、最終的には新たな左翼の取るべき戦略まで詳細に論じられていいきます。ここでは、反グローバリズムの理念やベーシックインカムなどにも言及されていた点、興味深かったです。


本書を読み終わっての率直な感想としては、彼女の自説が展開されている箇所が少ないこともあり、「闘技的民主主義」理論の的確な把握には至らなかったように思います。ただ、彼女の理論に興味を持てる内容ではあったので、今度別の著書に当たってみようと思います。

慣れてないと読みにくい内容だと思いますので、政治理論に関心のある方、おすすめです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 政治理論・思想・社会学
感想投稿日 : 2012年9月23日
読了日 : 2012年9月23日
本棚登録日 : 2012年9月23日

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