“かつて夢中で読んだ人も、まったく読んだことがない人も。
いまあらためて知る、戦う少女たちの物語”
(1)魔法使いと決別すること――バーネット『小公女』
(2)男の子になりたいと思うこと――オルコット『若草物語』
(3)資本主義社会で生きること――シュピーリ『ハイジ』
(4)女の子らしさを肯定すること――モンゴメリ『赤毛のアン』
(5)自分の部屋を持つこと――ウェブスター『あしながおじさん』
(6)健康を取り戻すこと――バーネット『秘密の花園』
(7)制約を乗りこえること――ワイルダー『大草原の小さな家』シリーズ
(8)冒険に踏み出すこと――ケストナー『ふたりのロッテ』
(9)常識を逸脱すること――リンドグレーン『長くつ下のピッピ』
目次を見ただけで胸がキュッとなる女性は多いのでは?私自身もかつてこれらの作品を夢中になって読み、思いっきり感情移入していた元少女です。
著者の斎藤美奈子さんの文章が温かく、勇ましく、辛口がピリッときいていて、読んでいるうちに気持ちがどんどん前向きになる。少女小説の登場人物達との再会の場を用意し、「あなたが今輝かしい大人ではなくても、すっかり妥協を知った人生を送っていても、元少女よ、共に生きよう!強く生きよう!!(あ、男子もいたんだった)」と熱いエールを贈ってくれる同窓会の幹事さんのよう。
私自身はもうちょっとしっとりとした気持ちで読んでいた『若草物語』も、斎藤さんの手にかかれば勇猛果敢な元少女応援歌!
ところで、あらためて「少女小説」とは何か。
斎藤さんによれば、「少女小説」には四つの共通した特徴があるそうだ。
①主人公がおてんばで規格外な少女であること。
②主人公の多くがみなしごであること。
③友情・同性愛が、恋愛・異性愛を凌駕すること。(これに関連して、「少女小説」では、ジェンダー規範に則った女の子らしい女の子が主人公の親友や姉妹として存在する。私自身が通った大阪の小学校を思い返すと、「ジェンダー規範に則った女の子らしい女の子」の方がよっぽど規格外だった気もするが)
④作品内で「少女期からの卒業」が盛り込まれていること。
この四点を基本の視点として、当時の社会背景も織り込みながら、「少女小説」の代表的9作品を読み解いていく。
特に『ハイジ』の解説が面白かった。再読が楽しみになる新たな視点をたくさんもらった。
●なぜアルプスが作品の舞台として選ばれたのか。
●都会なくしてリゾート地は成立しない。「そうだ、スイスへ行こう」
●都会生活はハイジの人生に何をもたらしたのか。
●ペーターの扱い・立ち位置
●ハイジの無邪気さの正体は?
●『ハイジ』は過酷な資本主義社会を生き抜く子どもたちの物語
●少女たちに向けた『ハイジ』の裏メッセージとは?
『ハイジ』という小説はとても面白いが、ハイジという少女は私にはちょっと掴みどころのない不思議な子だった。斎藤さんの「ハイジは過剰適応じゃないのか」「夢遊病は単なるホームシックなのか」との指摘で、リアルな少女の姿をやっと感じ取れた気がする。
そうだ。言われてみれば、皆に愛されるハイジの「子供らしさ」は大人が好む「子供らしさ」だ。子供って結構不機嫌だったり、警戒心が強かったりするものだし、そんなにすぐに新天地に馴染める子の方が少ないだろう。
ハイジに立派な後見人も付いてめでたしめでたしというラストに対しても、斎藤さんはスパパパーーーンッと一刀両断。笑ってしまう反面、「ハイジ良かったなあ、羨ましいなあ」と思った過去の私の軟弱さがちょっと恥ずかしい(笑)
私は大学4年生の夏に、一度少女小説に再会している。
大学図書館内をぶらついていたときに児童書コーナーが異様に充実していることに気付き、懐かしの絵本から読み始め、童話、昔話と進み、福音館の『秘密の花園』に辿り着いた。『大草原の小さな家』、『ピッピ』、『小公女』、『ハイジ』、『赤毛のアン』、『あしながおじさん』……本書では紹介されていない作品も手当たり次第夢中で読んだ。
久しぶりに再読してみると、子供の頃はヒーローのように強く、格好良く見えた少女たちの孤独や弱さもよく見えるようになっていた。反対に嫌なヤツと思っていた登場人物たちの言い分や事情を理解できるようになっていた。子供の頃にはよくわからなかった/ちょっと物足りなく感じた小説の結末が、心にじんわりと沁みるようになっていた。
自分は変わったのだなとその時に知ったが、少女たちや登場人物たちの新たな一面を知ったことで、かえって作品への愛着は増したように思う。自分の胸の内に、少女たちがまだ笑顔で生きていることに気付き、それも嬉しかった。
成人式や大学の卒業式に出席しなかった私にとっては、あの再読体験が「少女時代からの卒業式」だったかもしれない。
※実は本書で紹介された9作品のうち、『二人のロッテ』だけは読んでいない。これは読まなくては。でも本当のところ、9作品全部今すぐ読みたいくらい。読書熱をガンガンあおられてしまった。
※Audible利用(7h1m)
読了まで3日間(1.1倍)
- 感想投稿日 : 2023年3月5日
- 読了日 : 2023年3月5日
- 本棚登録日 : 2023年3月5日
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