四丁目の夕日 (扶桑社文庫 や 4-1)

著者 :
  • 扶桑社 (1999年12月1日発売)
3.78
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本棚登録 : 406
感想 : 53

「私は山野一の漫画そのものは大好きだし、よく出来ていると思うけど、彼の1番好感を持てる部分というのは、刃でめメッタ切りした相手を尚も機関銃でハチの巣にしてしまうような、殺る時は容赦しません、徹底的にやりますよ、というような彼の作家的態度だ」……(解説・根本敬より)

80年代のサブカルコミック、漫画雑誌『ガロ』等を語る上で避けて通れないのがこの作品、「三丁目の夕日」ならぬ『四丁目の夕日』である。私は『ガロ』という前衛雑誌の存在を、ねこぢるという作家を契機に知ったのだが、そんな彼女の衝撃的な作品の数々を読んでいくうちに浮かび上がって来たのが、ねこぢるの夫であり同じく漫画家の山野一だった。して、読む前から不穏な感じを抱きつつ、私は初めてこの山野一という作家の作品、その本質に触れてしまったのだ……。

内容自体はとてもシンプルで、ねこぢるのような超次元的さや、理解不能な場面はほぼなく、むしろリアリティのある、腥ささえ感じる、所謂「鬱」展開が多かった。聡明で堅実な主人公、別所たけしの別所家が不幸のどん底に落ちる、落ちる、落ちる、落ちる、落ちるで……。冒頭たけしのセリフ「なんなんだろうなこの“差”は……」のまさにその“差”が、後半でかなりジクジクと胸を抉る。不幸な事故から不幸な巡り合わせ。すべてが徒労。所詮うまくいかない。心の支えも、希望もない。(◻️チガイになったたけしがマンホールの下で「たけしきち」をつくり、そこで自分の輝かしいであったろう別の世界を幻想するシーンがあるのだから、より一層、である。)ラストに少しだけ希望を持たせてはいるものの、どうしても拭いきれない“不穏さ”が蟠る。「『第二の人生の出発だ』なんて終わり方しとるけどな〜、もうこれどうしようもないやろ」と読者の私でさえ思ってしまう。別所たけし……なんて可哀想な主人公なんだろうか。

しかし、私はこの作品にある種のリラクゼーション、あるいはカタルシスを感じる。それは解説の根本敬が実に言い得て妙なことを言っていて、(僭越ながら)私からすれば、山野一の漫画以上に摯実な精神リンチができる漫画は無いのではないか、と思ってしまったのだ。これはねこぢるにも言えることだが、山野一は「タブーに挑戦してすらいない」のだ。それが私を魅了してやまない。それが何よりも私にとって『四丁目の夕日』を特別な作品にした重要な要素で、リラクゼーション的な憂鬱を感じた原因だと思う。

まとめると、この話は酷い。しかし、狂おしいほどにすばらしい。私にはこれからこの作品が自分へのリラクゼーションを得るための大切な一作になることを、今からひしひしと感じざるを得ない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年12月6日
読了日 : 2021年12月11日
本棚登録日 : 2021年12月6日

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