朝鮮総連 (新潮新書 68)

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  • 新潮社 (2004年5月1日発売)
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朝鮮総連と聞くと太平洋戦争に日本が敗戦し、当時大量に日本に連行され強制労働させられていた朝鮮人の解放目的で設立され、その後北朝鮮へ影の献金をし続ける闇組織といったイメージがある。正式名称「在日本朝鮮人総聯合会」は概ねその様な経緯を現在まで辿る。本書は朝鮮総連の成り立ちや、これまでの活動実態について、元総連に所属していた筆者が実態について明らかにしたものである。但し、筆者の考え方や思想が余りに過激な方向に向かってしまうと筆者の身の危険にも繋がりかねない為、あくまで事実の羅列に重きを置いて語られ、それに対する筆者の想いや判断は極力除外されている。よって朝鮮総連の歴史研究という見方をするのが適している。
朝鮮総連は北朝鮮の機関であるから、当然ながら本国の影響を大きく受けるが、その思想は金日成の独裁を正当化するための理論である「主体(チュチェ)思想」をベースに置き活動している。そもそも北朝鮮が実態が判りづらい国であることから、当然総連自体が闇に包まれた「影の組織」的なイメージを持たれる事が多いが、実際には日本国内に暮らす在日朝鮮人の統制組織という側面が大きい様だ。
本国はミサイル発射や核実験で多額の資金を必要とするから外貨獲得の手段の一つとして、日本国内に住む在日朝鮮人からの献金は重要だ。そうなると日本国内での朝鮮人の経済活動や教育が重要になる。よって朝銀が融資により資金援助し、その利益を本国に還元する構図がなければならない。そうした利益循環はバブルの時代の不動産業やその後のパチンコ業などでは一定の効果をもたらした物の、バブル崩壊と共に立ち行かなくなり、結局拉致被害者を人質とした身代金ビジネスも必要になる。北朝鮮との直接外交窓口を持たない日本では北朝鮮窓口としての存在にもなる。
但しやはりそこは未熟な社会・組織と言わざるを得ないのか、金が絡めば権力の集中や裏金の存在、地位への固執が存在し、徐々に求心力を失っていくといった悪循環が過去にはあった様だ。何処の企業もそうだが(日本の企業でさえも)、本来の組織の目的から外れ、そして忘れ去られ個々人の利益追求に向かってしまうのは人間の弱さに加え、北朝鮮という未熟な社会の一端を表している様に思える。但し近年の同国の報道から見る発展の兆しも見逃せない。国民生活は相変わらず厳しいであろうが、いよいよ核兵器を保有し、宇宙にまで偵察衛星を飛ばすところまで来ている。その背景には恐らくはこうした総連の様な組織と資金力が支えになっているのではないかと思う。
いずれにしても、北朝鮮の真の実態が見えない中で、相手にするのは難しい。こうした書籍から一つでも情報を手に入れ、北朝鮮という国を考えるための参考にするのは良いだろう。何より過去に日本が朝鮮半島併合により自分で蒔いた種である。そこから目が出て、敗戦という栄養で育った木から、いつしか食べたら毒になる真っ赤な実が日本海近辺に落ちている。そう考える事で、物騒な国だとただ決めつけるだけでなく、彼らと将来に向けてどの様に会話していくかヒントがある様に思える。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年12月10日
読了日 : 2023年12月10日
本棚登録日 : 2023年8月16日

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