ヒトラーの経済政策-世界恐慌からの奇跡的な復興 (祥伝社新書151)

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  • 祥伝社 (2009年3月27日発売)
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巧みな演説で大衆を扇動した独裁者、諸外国相手に自らの理想の帝国を築こうとし、ヨーロッパ全体に戦火の嵐を巻き起こした男、ホロコーストで大量のユダヤ人を虐殺した男、そして最後は追い詰められて自らピストルで頭を撃ち抜き、波乱の人生の幕を閉じた。その様なイメージしか思い浮かばないヒトラーだが、近年はその政治的経済的手腕を評価するような書籍も多くあり、過去の暗いイメージとは大分変わってきている。勿論、ヒトラー始めゲーリング、ゲッペルスにヒムラー、そしてアイヒマン等、後世に悪名を残す人材に支えられた国家社会主義ドイツ労働者党、通称ナチスがしてきた事実は人類史上恐るべき悪事である事に変わりはない。
その様なヒトラー及びナチスがどの様にして表舞台に現れ、その後どうやって第一次大戦後のベルサイユ条約下で荒んだ国家を短期間で建て直していくか、主に経済・財政政策を中心に見ていく内容。
当時ドイツは前述の条約により天文学的な賠償金を課され、永久的に諸国の奴隷になるしか選択肢の無い様に見えた時代。よく知られるアウトバーン建設などの大規模公共工事による失業対策に始まり、労働環境の改善、海外資本を呼び込み復活した工業力や輸出産業、政治の面でも力で近隣諸国を押さえつけて来たのかと思いきや、意外にも当初は驚くほど平和的に領土拡大を成功させていく。その手腕たるや現代政治家ではまず居ないだろうと読み進める中ではっきり認識する。勿論その背後には様々な経済施策を繰り出したシャハトに代表されるように、その道の大家を積極的・効果的に登用し、現代社会にまで残る数々の輝かしい制度作りを推進できた事が評価に繋がっている。ベルサイユ体制下のドン底の生活状態、世界恐慌、そして周辺諸国(特にフランス)の決して上手くない仕返し等、どれも現在の状況とはあまりにかけ離れており、当時の様な極端な状態だからこそ上手く行った点は多いだろう。とは言え、有給休暇制度に定期健康診断、従業員の福利厚生、8時間労働などの今では当たり前の制度がここナチスによって作られてきた事実には、最初に書いた様な、単なる悪の組織というイメージだけが戦後に敢えて作られたと言う記述に納得感もある。
繰り返すがナチス・ヒトラーを単純に賞賛する内容とは違う。冷静に手腕を評価し、現代社会がそこから何を学ぶべきか考えるための書籍である。

読み終えた皆さんは今後オリンピックを見るたびに総統(フューラー)の姿をスタジアムに見るのではないだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年4月8日
読了日 : 2023年4月8日
本棚登録日 : 2023年2月25日

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