つるの おんがえし (いわさきちひろの絵本)

著者 :
  • 偕成社
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感想 : 18
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784033030500

感想・レビュー・書評

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  •  「つるのおんがえし」といえば、小学校の国語の教科書にも載っていた、昔話の定番といった印象だったのが、本書の文を書かれた、松谷みよ子さんの『この絵本について』に於いて、各地方それぞれで微妙に設定が異なることを初めて知り、そのちょっとした違いで、こうも印象が変わってしまうものかという驚きが、私には新鮮だった。

     そして本書の場合は、鳥取に残る『鶴が女の子になって、子どものいない、じいさま、ばあさまのところへやって来る話』で、既にこの時点で、私の知っている、独身の若い男の元へお嫁さんとしてやって来るというストーリーと、大きく異なっており、娘と妻とでは、どちらがより心を動かされるのかといった明確な答えは無いものの、ここでの違いは、松谷さんが、民話を訪ね歩いたときに胸を打たれた話を元にして選んだと思われることから、コミュニティの存在がとても大きいのではないかと思う。

     何故ならば、若者と妻とでは、二人の幸せな世界で充分完結出来るところを、本書では娘の存在が、それまで長い年月を、二人で寂しく暮らしていた、じいさま、ばあさまの元に、子どもたちや村人達を引き寄せ、その賑やかで楽しい雰囲気を共有出来る喜びがあったからに他ならず、それはきっと、一度手にしてしまったら、もう二度と失いたくない程の、この上ない幸せだったのだろうと思うからこそ、最後の有名なあの終わり方には、より身に沁みるものがあった。

     松谷さんの文といわさきちひろさんの絵というだけで、ありきたりなお話も味わい深いものへと変化を遂げるのが良く分かるような、その叙情性は、それぞれから自然と滲み出る優しさと温かさで満たされながらも、文と絵とが見事に噛み合ったまとまりには、読み聞かせ絵本としての完成度も窺わせて、いわさきちひろさんといえば、子どもの絵を真っ先に連想してしまうが、始まりの、凍えそうな雪景色の中でも穏やかな表情を変えずに歩き続ける、じいさまの姿や、淡い水彩でやわらかく描いた中にも、繊細さや気品を感じさせる鶴の絵に魅せられてしまい、見ているだけで、すっとお話の世界に入り込んでしまう。

     その中でも、ひときわ印象付けられたのが、微妙に混ざり合った色の中で、きりりと存在する白色であり、初めて女の子が、じいさま、ばあさまを訪ねたときの、上から羽織ったお召し物も可憐な、紺色の夜の中でも浮き立つような白の美しさとは対照的に、鮮やかな色を纏った子どもたちと遊ぶ絵に於ける、彼女の白い着物から感じられる一種の儚さには、まるでこの後に待ち受ける結末を想起させるような、一抹の寂しさを放っているようでもあり、そこには白という色の持つ、純粋さや清らかさの意味合いが深ければ深いほど、どこまでも真っ直ぐな精神が宿っているのだと感じられる反面、それを汚すような行いには頑として厳しいものがあるといった、そんなかけがえのないものであったことを、もう少し認識すべきだったのかもしれない。

     それでも見るなと言われれば、つい見たくなってしまうのが、人間の性というもの。それを責めるつもりは全く無いし、私にその権利は無い。

     しかし、そんな状況でも、それを守り続ける者がいることも確かなのだろうと思い、そこには良くも悪くも、古くから印象付けられてきた真面目で義理堅いという、日本人固有の素晴らしさは未来永劫、変わることはないのだ、という思いを乗せているようであった点に、却って、日本人の持つ一つの純粋さを感じられたのである。

  • たくさんある「つるのおんがえし」
    でも
    やはり
    まつたにみよこ・ぶん
    いわさきちひろ・え
    やはりこれを読みたい!と
    女房より娘になっての話に惹かれます
    洗練されたやさしいことば
    なによりちひろさんの絵!

    正に昨日、東京の「いわさきちひろ美術館」で
    ちひろワールドに浸って帰ってきたところです
    彼女の「命」にそっと触れてきました

    ≪ やくそくは とわの別れに つながって ≫

    • はまだかよこさん
      たださんへ

      おはようございます
      民話は、勝手に「まつたにみよこ」と決めています(笑)

      そして昨日は「ちひろ美術館」へ
      神戸か...
      たださんへ

      おはようございます
      民話は、勝手に「まつたにみよこ」と決めています(笑)

      そして昨日は「ちひろ美術館」へ
      神戸から、新幹線となにやらややこしい電車に乗って行った甲斐がありました
      都内の友人に道案内してもらいながら

      こじんまりとした美術館ですが「想い」がぎっしり詰まっていました
      安曇野へは、むかーーーーし、行ったことがあるのですが
      ちひろさん、ますます好きになりました

      わざわざコメントありがとうございました
      2024/03/17
    • たださん
      はまだかよこさん、お返事ありがとうございます♪

      東京への長旅、お疲れさまでした。
      いつか、私も安曇野の美術館に行ってみたいです(*'▽'*...
      はまだかよこさん、お返事ありがとうございます♪

      東京への長旅、お疲れさまでした。
      いつか、私も安曇野の美術館に行ってみたいです(*'▽'*)
      2024/03/17
    • はまだかよこさん
      たださん、
      おススメですよ(⌒∇⌒)
      絵を見なくてもよい美術館だそうです
      まわりがとても安らぎます

      ちひろさんについては、今回の...
      たださん、
      おススメですよ(⌒∇⌒)
      絵を見なくてもよい美術館だそうです
      まわりがとても安らぎます

      ちひろさんについては、今回の方が
      グッとくるものがありました
      年齢のせいかな アハハ
      2024/03/17
  • UniLeaf では、この絵本に透明点字シートを挟み込んで製本した、ユニバーサル絵本を貸し出ししています。
    状況が「読みたい」になっている本はお貸しできます。
    「いま読んでいる」になっている本は貸出中ですが、ご予約いただけます。
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    • ryotaさん
      貸出希望です。
      貸出希望です。
      2013/08/12
  • [人間に命を助けられたつるが、自分の羽をぬいて美しい布を織るという民話を、淡く美しく描きます。英米でも翻訳されて好評です。   4才から]

  • 2023.2.17 2-1

  • 日本の昔話を少しずつ一緒に読み始めています。娘には優しいお話、という印象。(6歳)

  • 冬の来た日、おじいさんが罠にかかった鶴を助ける。
    おじいさんとおばあさんのもとに旅の娘がやってきてそのまま娘になる。
    お正月なのに何も出来ないことを残念に思う2人に娘は決して覗かないようにと言って3日掛けてきれいな布の織る。
    こちらから値段は付けないようにと言われ、売りに行くととてもいい値段で売れる。
    買ってきたお餅などを近所の子供たちに振る舞う。
    二度目の機織りのとき、近所の人たちもやってきて、自分の娘なのだから少しくらい様子を見てもいいだろう、と近所の人に言われ、おばあさんも気になっていたために覗いてしまう。
    あのとき助けられた鶴だと言い、娘は鶴の姿になり飛んで行ってしまうのだった。

    値段をつけないように、近所の人にそそのかされるというのが珍しい。

  • ε=ε=ε=ε=ε=ε=┌(; ̄◇ ̄)┘
    一体何が起こっているのか。このままで大丈夫なのだろうか。
    …どうやらそれは過去から現在、現代から未来にかけて、
    私達が問い続けてゆかなければならない課題のようである。σ(^_^;)

    かつて私たちは、弱かったことがある、美しかったことがある、優しかったことがある。
    しかしいつの間にかそうしたことを忘れて私達は無意識のうちに傲慢になってしまった。
    今日もおつうははたを織る。
    みずからの体をやせ細らせて、機を織る。ヽ(;▽;)ノ
    私達は飲み食い享楽しているばかりではないが、
    つうを痩せ細らせているのは私たちだ。

    この物語がなぜこれ程までに私たち日本人の心を打つのか、
    それは過去から未来に続く私達、人間にひととしての生き方あり方を
    この物語が私たちの心に深く問いかけているためではないだろうか。
    ああ、どうか決定的なその日が来る前に、
    私達は自分たちの冷たさ、罪深さを認め、
    おつうを抱き締め、はてしない大空の中で、
    おつうと楽しく暮らす道を探すべきではないだろうか。
    ああおつう、
    ごめん、
    本当にすまなかった。
    君に、もう一度会いたい。合掌

  • 2012.5.20.sun

    【経路】
    図書館。
    「つるにょうぼう」と「つるの恩返し」の違いを見たくて。

    【感想】
    つるの恩返しは、つるを助けたお爺さん夫婦の元にちいさな女の子が現れ、つる女房では若者の元へ美女が現れる。
    解釈によると、前者は村の習慣で、こどものいるうち同士で屋根の藁をしきあったり助ける「結」があったがこどものいないうちは省かれるというのでこどもを授かることが有難く、また後者では、土地を持たない次男坊が雇われて田畑を耕すような境遇ではなかなか嫁をとることが出来なかったので女房を授かることが有難かったという背景があるというのが興味深かった。

    【内容メモ】
    ・おじいさん
    ・矢が刺さっている
    ・女の子
    ・そうじ、おかゆ
    ・こどもであふれ
    ・つるの錦、100両
    ・親なんだから
    ・おばあさんが覗いて

  • つるのおんがえし

    若者じゃなくておじいさんおばあさん
    のぞいちゃうのはおばあさん

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著者プロフィール

1926年、東京生まれ。1944年頃より童話を書きはじめ、1956年、信州へ民話の探訪に入り、『龍の子太郎』(講談社)に結実、国際アンデルセン賞優良賞を受ける。以来、民話に魅せられ創作と共に生涯の仕事となる。日本民話の会の設立にかかわり、松谷みよ子民話研究室を主宰。著書に『女川・雄勝の民話』(国土社)『日本の昔話』『日本の伝説』『昔話一二ヶ月』『民話の世界』(共に講談社)『現代民俗考』8巻(立風書房)など。

「1993年 『狐をめぐる世間話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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