- Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
- / ISBN・EAN: 9784903951003
作品紹介・あらすじ
祝、第6回小林秀雄賞受賞!
村上春樹はなぜ世界中で読まれているのか? デビューから『アフターダーク』までを貫くモチーフとは? なぜ文芸批評家から憎まれるのか? 村上春樹が発する倍音とは? 雪かき仕事はなぜ世界を救うのか? ベストセラー『下流志向』のウチダ教授がハルキ・ワールドの秘密を解きあかす画期的な文学論登場。
「私たちの平凡な日常そのものが宇宙論的なドラマの「現場」なのだということを実感させてくれるからこそ、人々は村上春樹を読むと、少し元気になって、お掃除をしたりアイロンかけをしたり、友だちに電話をしたりするのである。それはとってもとってもとっても、たいせつなことだと私は思う。」(本文より)
感想・レビュー・書評
-
久しぶりに、スッキリできる書籍に出会った。
もやが急に晴れたとは、まさにこのこと。
いつものことだけれど、村上作品の解説本の類に手を伸ばしてしまう。
私にとって、作品そのものは意味がわからないのに面白いはじめての作家であり、ずっと好きだという気持ちがやまない。
ハルキストとしての初めの一歩を娘が村上春樹に興味を持ったことで、反芻している。好きだと自覚してからは、本当にずっと好きだと思っていたけど、自覚してからだって、好きの内容は意外と様変わりしてきたと思い至る。
で、読みなくなった。他人が語る村上春樹を。
内田樹は共感材料が多い、語り口が楽しいし、多分、この人のことを人として好きだ。内容、言葉遣いを通して、私が見ている人柄をとても素敵だと思っている。わかる!そうありたい!と思っている延長にいる人。延長というのは、分かるし、共感できるけれど、学びが多いという意味だ。
村上春樹ことはじめのころ、私が何者か、理解できないミュージシャンやお酒なんかがよく出てきて、煩わしさを感じていた。今は以前ほど露骨ではないのか、私が慣れたのか、実は私の知識が増えたのか、わからないけど、そう思うことはなくなった。そのあたりの内田樹の解説からして、唸りっぱなし。それらの役割と私の距離感を理解する。ふーんから、はじまり、期せずして、面白いと私が感じる根本的な理由が掴めたような気がしているのだ。
村上春樹が文壇でよく言われない直接的な理由はなんとなく知っていたつもりだし、ハルキストってそれさえも勲章みたいに思っているから、掘り下げて考えてこなかった。文壇から否定されているメカニズムには、ほーっと思ったし、それが文学そのものに繋がるところでちょっと熱くなる自分を感じた。
読書が好きだし、物語が好きだ。私が学生だった時代、小説は下らないという価値観が残っていたし、私にも物語が好きなんて女子供の言うことぞという感覚もあった。文芸論も、文化論も好きだがけれど、考えると、これは自分が小説・物語を好む理由が欲しかったからと説明できるかもしれない。文学とは何か!その価値とは何なのか!突き詰めて、学んでもよかったなと今では思う。きちんと、今でも好きだから。
それでも、もっぱら日本の小説ですが、読書が趣味ですと卑下して言ってしまう。自分の面白さと文学的価値は基準が違うし、文学的価値がない読書は堂々と胸を張れないように思ってきた。
私は小説をこよなく愛しているので、小説以外で震えることは本当に少ないのだけれど、小説そのものではなく、ましてや、具体的な小説について解説している箇所でもないのに、心が震えた部分がある。
家族とは欠落と不在を持って、意識される集団であるということ。ひいては、人間とは、失うものに価値を求め、美しさを説くものという内田氏の持論。恐ろしい、祖母と父の死に面した時、また、それから新しい家族を持った時、私が考えた幸せも悲しみも亡き祖母と父を想う気持ちだった。娘を育てている今、振り返るとこも、常に祖母も父も健在だった日のことで、それは、幸せと共にハルキストに成長していく、私の人生そのものだった。家族になのか、春樹になのか、自分になのか、さらにないまぜなのか、そこに強力に感傷的になる自分がいて、少し混乱したりもした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
もしあなたがプロヴァイダの解約をしようとする。
本棚の奥底から引っ張り出してきたマニュアルに記載されたダイヤルに電話をかけてみたら、あらかじめ録音された人の声が聞こえてくる。
その清く正しいリズムの案内を聴き終えて促されるままに番号を押す。
すると、また清く正しいリズムの音声が再生されて彼女が話し終えるのを待つ。
村上春樹の解説本とはそういったものだ。
ひとつの小説から世の中の理へと帰納する。
あるいは、文学の本質に迫ろうとする本は解説本というだけの価値では留まらない。
そして、それがこの本だ。 -
わたしは中1から村上春樹が好きで読んできたし、何度も何度も読んだけど、わたしの読み方はまだまだだなあと思った。
こんな読み方があったんだ、と驚くと同時にこれだけ何度も繰り返し読んで来てもまだ新しい面がいくつもある春樹の小説は本当にすごいと思う。春樹の小説が好きなのは何度読んでも違った発見があって、何度読んでもわからなくて、でも居心地が良いから何度でも読めるためだと思う。
しかし内田さんが春樹論を書いてるとは知らなかった。ソシュールについての文章を読んで、この人は頭も人も良さそうだと思っていたが、無意識のうちにわたしの好きな価値観の匂いを感じ取ってたのかも。やっぱり春樹の小説が無意識レベルまで深くわたしの根っこに関わってるんだと思う。
内田さんのわかりやすくリベラルでユーモラスな語りもとても良かった!素敵な人だなあ。他の作品も読みたいです!-
「何度読んでも違った発見があって」
何となく、アレ?と思いつつ。前に読んだ時の印象を心の中に探すのですが、見つからずにいます。
それだけ多様...「何度読んでも違った発見があって」
何となく、アレ?と思いつつ。前に読んだ時の印象を心の中に探すのですが、見つからずにいます。
それだけ多様なイメージが湧くんだろうな。と一人納得しています。2012/09/11
-
-
f.③2023/10/03
f.②2017/5/6
f.2007/12/22
p.2007/9/25 -
「『1Q84』やエルサレム・スピーチをウチダ先生はどう読んだのか? ハルキ文学の読み方がもういちど変わる!」
-
思ったより難解だった、また時間を置いて挑戦してみたい。
-
「何かが、欠けているもの。」
『自分以外、全てのもの。』だよな。
-
人間には根源的に共通した部分がある。
「世界」に読まれるっていうのは
きっとそういう事でしょうね。
外国語に翻訳された文章を再度日本語に翻訳しても原文と同じ文章が出てくる。
根源的に、みんな井戸を抜けるし孤独だしパスタ作るし走るし泳ぐのだ。 -
村上春樹は好きではないが、その作品を手掛かりに披露される内田樹の知見には、相変わらず唸らされるところがある。