思い出の青い丘: サトクリフ自伝

  • 岩波書店
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (311ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000002349

感想・レビュー・書評

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  • ローズマリー・サトクリフ(1920年12月14日 - 1992年7月23日)の自伝。
    イギリス児童文学の代表作家さんで、憧れが強すぎて手も出せずに来た。
    ところが「世界の児童文学をめぐる旅」の中では5作品も採り上げられている。
    これはもう読まねばと、ついに一気読み。読んでみて本当に良かった。
    今を生きる若い人たちを勇気づける箇所がいくつも見つかった。

    一ページ目でいきなり本人の写真に出くわして軽い衝撃を受ける。
    こちらを真っすぐに見ながら微笑んでいる。
    しかしひと目で障害をかかえたひとだと分かってしまう。
    小さな身体、小さな手。
    ああ、この手で油絵を描き、やがて作家としてペンを取るようになったのか。
    若き日に美術学校で学び、精密な画風で高い評価を得るが、胸のうちから湧きだす彼女の声を表現するには、絵画では枠が狭すぎた。
    子どもに読んでもらう本を書き始め、友人に送った原稿は縁あってとある出版社に。
    そして第一作目となる「ロビン・フッド」の依頼にこぎつける。
    本書は、幼児期から作家として歩みだすまでのお話だ。

    乳児期に罹患した病のため、四肢に不自由を抱えた人生だった。
    海軍大佐だった父。完璧な子育てを目指す母は激しい躁鬱気質。
    ひとりっ子だった彼女は、この母に振り回される。
    飼っていた二匹の犬の思い出や友だちとの「ごっこ遊び」。
    病院での治療の場面もいくつも登場する。
    毎日本を読んでくれる母。
    その選書に反抗して、あえて読み方を覚えなかった時期もある。

    恋をし、愛を知り、やがて敗れる。
    彼女の愛した男は、頭はお前だが肉体は他の女を求めるという男だった。
    彼女は孤独だった。ひとりの友だちもいなかった。
    障害を持った女性に、社会は全く居場所を与えなかったのだ。

    私が好きな言葉がある。
    「父には、私にも傷つく権利があることが分かっていなかった」
    娘である自分の身を案じ、過剰なほど口出しする両親。
    母親にいたっては、どうすれば娘が一番傷つくかを知っていてコントロールする。
    後年それを思い出して語る部分だ。
    「傷つく権利」・・なんて良い表現だろう。
    言葉はひとを傷つけることもあるが、出来ればひとと自分とを解放するものでありたい。
    皮肉なことだがこの家庭環境こそが彼女の創作の原点だったのだろうか。

    障害に負けずに名作を書き続けた人生。
    などという陳腐な表現は使いたくない。
    ローズマリー・サトクリフは小さな身体に時空を超える翼を持っていたのだ。
    愛も憎しみも身体の痛みも越えて、限りなく自由に広々とした世界を飛ぶ翼。
    だから今でも、多くのひとを魅了する作品を生み出せたのだ。
    さて、次はどの作品を読もうか。果たしてついていけるかな。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      nejidonさん
      二日間ガサゴソと整理をしていたのですが、探している本は何故か見当たらず、、、
      今日の収穫は、職場にあると思っていた宮崎駿...
      nejidonさん
      二日間ガサゴソと整理をしていたのですが、探している本は何故か見当たらず、、、
      今日の収穫は、職場にあると思っていた宮崎駿「本へのとびら」
      それによるとサトクリフ「第九軍団のワシ」を、古代の東北に移して映像化を試みようとしたらしいです。
      2020/12/30
    • nejidonさん
      猫丸さん。
      宮崎駿さんのその本は、読みたいリストに入っています。
      いやぁお手元にあって良かったですね。
      サトクリフの作品を映像化しよう...
      猫丸さん。
      宮崎駿さんのその本は、読みたいリストに入っています。
      いやぁお手元にあって良かったですね。
      サトクリフの作品を映像化しようとしてたのですか?!
      頓挫したということかしら。もったいない話ですね。
      どなたか継承してくれないかなぁ。
      いや、私は先ず原作を読まねばです!
      2020/12/30
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      nejidonさん
      頓挫した企画は沢山ある筈。猫が知っているのは「長くつ下のピッピ」
      逆にカタチになったのが「千と千尋の神隠し」
      色々な元ネ...
      nejidonさん
      頓挫した企画は沢山ある筈。猫が知っているのは「長くつ下のピッピ」
      逆にカタチになったのが「千と千尋の神隠し」
      色々な元ネタの中の一つ「クラバート」のアニメをご覧になられ『僕なら、もっと面白いモノが作れる』と仰言られてから20年くらいして実現。
      2020/12/30
  • ローマン・ブリテン四部作の作者は、感性豊かで、聡明で、やや学者肌なのかなと思っていた。この本を読むと、少女時代のサトクリフは、とてもお茶目で、優等生的でもなく、芯がしっかりしているけれど、ごく普通の女の子という印象を受けた。モンゴメリーの『エミリー』に夢中だったというのも、嬉しい意外性。
    職務に忠実で家族を愛する海軍大尉の父と、吟遊詩人の素質を持ち、躁鬱傾向のある母に育てられた。特に母の影響は大きかったようで、そうか、サトクリフは歴史研究者ではなく、吟遊詩人に近いのかと納得した。だから、サトクリフの作品に引き込まれるのか…
    「母は、……一本の銀のスプーンに彫られていた一族の紋章を見せてくれました。それは口から血を流しているオオカミで、その下には『傷つけども勝ちたり』というモットーが彫られていました。」(p.138)
    こうしたエピソードは、作品の世界に繋がっていく。

    王立美術院はじまって以来の婦人院長になるのが夢で、ずっと小説家になりたかったわけではないというのも、何となく好ましかった。
    入院と辛い治療を繰り返していたけれど、そのことに囚われ過ぎずに、現実を受け止めている姿が素敵だと思った。

  • この自伝を読むと、経験をベースにサトクリフの作品群が出来ていることが、よくわかります。
    子供の記憶と大人の洞察力、想像力、どれが欠けても、あの作品達は生まれないんだなあと。

    作者の障害に関し、親も医者も良かれと思って必要のない手術や苦痛を伴う医療行為をしていたようです。
    児童の病気治療に関ても(今も充分ではないかもしれませんが)、当時に比べれば、格段に進歩してるんだなと思います。

    恋人や家族など、デリケートな部分に関しては、知人を配慮する必要があったのか、物足りない一面もありますが、作品が出来る背景を推察するには、充分な内容です。

    ご自分でも細密画家として優れていたと言っていますが、風景、人物描写の巧みさや、顧客のニーズの読み方など、画家と作家で方向性は違いますが、成功する上での共通点が垣間見えます。

  • 障害を持ってても、頑張りましたねー

  • ともしびをかかげて、辺境のオオカミ、アーサー王シリーズなど、たくさんのYA向きの小説を書いたサトクリフの自伝。
    この人が障害を持っていたことは知りませんでした。
    両親のことや子供時代のこと、そして恋愛まで素直に書かれていました。
    私は素晴らしい児童文学を知るのが遅すぎたと後悔しています。

  • 猪熊葉子訳
    安心して読めます。
    自伝です。

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