貧困と飢饉

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000019248

感想・レビュー・書評

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  • ノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・センの著書。飢饉の原因分析を食料供給量の減少(Food Availability Decline: FAD)ではなく、交換権原の悪化によるべきと主張する。
    センが示した地域全体の食料供給が減少しなくとも食料価格の上昇や失業といった交換権原の悪化によって飢饉が発生しうるというのは当時としては画期的だったのだろう。飢饉に対する解として物資の直接支援ではなく、雇用の創出や社会保障の実現といった経済的なアプローチを提示していることは今日においても意義があると思う。
    ただ、個人的には交換権原の概念を導入しなければこの結論を得られないのかは疑問に思った。飢饉の発生には、交換権原という個人の潜在能力ではなく、低開発国の社会的条件に本質的な問題があるような気がしてならない。

  • 前に読んだセンの著作(訳本)より、後に出ているんだけれども、実はセンが書いたのはもっと前だったんでした。失敗。
    でも、相変わらずわかりやすかったです。前半のフレームワークの部分を真面目に読んだら、最後のあてはめ部分は結構ざっくりいける感じ。

    要点は、飢饉というのはただ「食糧の量」から見ていても分析にはあまりに限界があって、飢饉を引き起こす原因は、あくまでその人々の権原の問題なんだ、ということです。

    個人的には、緊急支援的な部分にも、より一般的な開発部分にも興味があるのだけれど、大家がここまで正面から緊急援助的なところを取り上げてくれるのも珍しい気がして、共感がもてる。

  • アジア人初のノーベル経済学賞を受賞した、アマルティア・センの出世作。
    権原(エンタイトルメント)理論を解説した本。

    大規模な自然災害が発生し、それが飢饉を引き起こしたとしたら、その原因は何だろうか。
    一般的に考えれば、食料の総供給量の減少が大規模な飢饉を引き起こすと考えられる。しかし、センはそこを批判する。

    全ての人は権原によって生活している。自給自足の農民でない限り、食料を手に入れるにはそれ相応の財が必要である。この財集合を手に入れられない場合、人は飢饉に陥る。つまりこの場合は交換権原の剥奪といえる。

    本の後半はケーススタディになっているが、どの場面においても主張は変わらない。すなわち、飢饉は米の総供給量減少(FAD)によって引き起こされたものではなく、権原の剥奪によって起こったものだということだ。
    例を挙げると、バングラデシュでの大飢饉が発生した年の米の総供給は、前後年と比較してもピークであった。また、困窮者割合が多かった県においては、米の一人当たり供給量は増加していた。
    従って、FAD説による飢饉の説明はできない。

    一方、米価に焦点を当てると、飢饉の年に大幅に上昇していた。また、死者の大部分は貧農、すなわち自給できない農民であった。そして大規模な洪水によって雇用が減少したのである。従って、飢饉の原因は貨幣と米の交換権原の減少によって引き起こされたものだとセンは結論付ける。

    理論だけではなくケーススタディを交えているので、権原理論は理解しやすいだろう。しかし、いくつかの点において納得できない点も多い。
    例えば、バングラデシュの例では、職業別にみたときに、飢饉による死者のトップは一般労働者であった。しかし、本書では農民の交換権原減少しか解説されていない。農民においては、土地の所有量である程度の説得力を持たせているが、果たして一般労働者をうまく解説できるかは疑問である。

    どっちにしろ、権原理論を理解するには必読であることには変わりない。

著者プロフィール

1933年、インドのベンガル州シャンティニケタンに生まれる。カルカッタのプレジデンシー・カレッジからケンブリッジ大学のトリニティ・カレッジに進み、1959年に経済学博士号を取得。デリー・スクール・オブ・エコノミクス、オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、ハーバード大学などで教鞭をとり、1998年から2004年にかけて、トリニティ・カレッジの学寮長を務める。1998年には、厚生経済学と社会的選択の理論への多大な貢献によってノーベル経済学賞を受賞。2004年以降、ハーバード大学教授。主な邦訳書に、『福祉の経済学』(岩波書店、1988年)、『貧困と飢饉』(岩波書店、2000年)、『不平等の経済学』(東洋経済新報社、2000年)、『議論好きなインド人』(明石書店、2008年)、『正義のアイデア』(明石書店、2011年)、『アイデンティティと暴力』(勁草書房、2011年)などがある。

「2015年 『開発なき成長の限界』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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