「ふれる」ことの哲学―人称的世界とその根底

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (385ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000019842

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  • 論文集。表題の論文をはじめとして、著者のメインフィールドであるカントとその周辺を扱ったものや、小林秀夫論、ピアジェ論などを収録している。文体が思ったよりも文学的・詩的というか、いわゆるフランス現代思想的なので面食らった。そういえばドゥルーズへの参照が、論証のカギになる部分で多く出てくるのが印象に残った。ただし、ドゥルーズもこの点について述べているといった参照で、本文に引用して論じるものではない。

    例えば「ふれることの哲学」では、触れるとあるので触覚の話かと思いきや、そこからはるかに発展している。それは例えば、「ふれるという経験の、このような相手のいのちや宇宙の深さに、一息のうちに参入するという特徴、しかも、いわばより正確にいえば、相手と自分を含む一つの力動的な場の布置に一つの切り口を通して算入するという特徴」(p.22)という記述からもうかがえる。語源的解釈もやや牽強付会に見える。こうしたキーとなる事実を確認する部分で論拠となる参照がないのがとても危うい。分かる人には分かる、そう感じられる人には感じられるといった印象を持つが、哲学ってそれでいいのだろうか。

    カントの哲学を同時代に深く引き込ませて、かの理性批判の背景を描き出すのはこの人の特徴であり、とても面白い。カントとサドの比較(元ネタはラカン)、カントと同時代の批判者(ハマンとヤコービ)についてはかなりうまく書かれている。後者はハマン、ヤコービ、カントの三者をその実在論的、観念論的傾向から整理されている。さらに、カントの最後期の自然哲学を巡る草稿の可能性も面白かった。

    最後の人称的世界の成立を巡る長大なピアジェ論は相当果敢な試みだが、これはどう評価されるのだろうか。少なくともこの着想を継いでいった人はいるのだろうか。ピアジェ自身、現在どう評価されていることやら。当論文ではピアジェ自身しかほぼ引用されず、その後の認知心理学や発達心理学の展開がフォローされていない。群性体groupingsという、束の対象に対して可換群となる操作を定義した(ほぼピアジェのこの理論で以外では使われない)数学的モデル(命題と命題の間の連言をmeet、選言をjoinとしたブール代数の上に、否定や逆を表す4つの操作を入れたもの)まで熱心に追っている。だが構文論と意味論の区別もない(ピアジェにはもちろん無いが、かといって1980年台に論じる際に無視してよい話ではないだろう)し、どうも空回り感を覚えた。

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