村に火をつけ,白痴になれ――伊藤野枝伝

著者 :
  • 岩波書店
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本棚登録 : 829
感想 : 89
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000022316

感想・レビュー・書評

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  • 思春期の頃の私のアイドル、伊藤野枝。こんな風には生きられないよね、やっぱり、となって遠ざかってしまったけれど、これを読んだら、当時の自分が、なんで彼女をかっこいいと思っていたのか、思い出した。青くさかったり、齟齬があったり、無茶があったり、多分そばにいたら仲良くはなれないだろうけど、自由への強い思いとか、心意気とか、行動力とか、ことごとく自分には見つけられないものが憧れだったんだな。
    著者の弾ける文章が、野枝の力強さを、ポップに、ロックに描いていて、その人生の終わりを知っているのに、その疾走感にわくわくした。
    彼女がもう少し長生きして、その思想を深めていくことができていたら、どんなことを語ってくれていただろう。惜しいとしか、言いようがない。

  • 伊藤野枝をご存知でしょうか?

    何を隠そう私は知りませんでした。
    皆さんも知りませんよね。

    3人目の子供が女の子だったらのえという名前をつけようと決めていました。
    オアシスのノエルギャラガーにちなんで。

    なかなか被らない良い名前かと自負していたところ、私の周りで2人だけある女性の名前を口にしたのです。

    『のえって、大杉栄の愛人の?』

    知りません。
    なんなら大杉栄も知りません。
    すいません、不勉強で。

    その2人は、義理祖母と弟でした。
    2人の共通点は読書量の多さです。

    それにしても聞きづてならないのは、『愛人』という点です。愛する我が子の名が、誰かの愛人(歴史的愛人)の名と重なっているなんて!

    愛人のレッテルは強烈ですが、どういう経緯で?という事で、本を手に取りました。

    読んでわかったのは、愛人というレッテルは伊藤野枝の知性と先見性、行動力を疎むあまり、その存在の都合の悪さ故に、貼られたレッテルだったいう事です。

    著者がかなり伊藤野枝のことが好きなことが読んでいてわかりますが、そのおかげもあって私もかなり魅力的な人物だと感じました。

    確かに、本能のまま破天荒な人生を歩んでいる部分もありますが、言ってること、やってることはかなりまともだと思います。

    それも時代が今と全然違う、世の中の女性に対する考え方が今とは比べ物にならないくらい疎かにされている環境の中、その地位向上(←こんな表現すらないくらいの時代に)のために必要な発言をし、行動をする。喧嘩を売りまくる!

    彼女やその周りの仲間たちが作り上げたものが、その後の基礎になっているように感じます。

    関東大震災の混乱に乗じて暗殺されますが、やはりその先見性を疎まれ、怖がられていたのだと思います。

    死をも恐れず、女性の地位を、人権を、そして個の存在を主張し続けた、こんなロックな人は他になかなかいないかもしれない。

    我ながら良い名前をつけたものだ。

    愛人?
    アナキスト?
    ふん、なんとでも言いなさい、あなたがなんと言おうと、私はのえちゃんなのよ!!

  • 伊藤野枝については瀬戸内寂聴さんの「美は乱調にあり」「諧調は偽りなり」で読んで、その世間の一般常識など蹴散らして猪突猛進に自分の行きたい道を突き進む生き方に一時期夢中になり、ある意味憧れもした。なのでこの本の作者が心酔するが如く筆が躍る様に野枝の生き様を追う姿にとても共感した。ただ野枝の残した文のその思想を作者の言葉で噛み砕く箇所はとても分かりやすく説明されて納得し有り難い所と、余りに過激な言葉を選んで使っていて私にはちょっと腰が引ける所もあった。

  • こういう人がいたから女性の社会的立場は変わって来た。わたしが大学に行ったり自由を謳歌したりしていられるのも、野枝さんのような方がいたからだ。ありがたい。

    結婚制度はいらない、中絶は認めるべき、職業としての売春も認めるべき……人としてまっとうに生きるとはどういうことか、問い続け、闘い続けた。

    あとがきより。「性を商品として売っている娼婦たちは、それを仕事としてやっているのにハシタナイとか、賤業婦とかいわれてしまう。ほんとうは主婦だって、家庭に囲いこまれ、でもそれをおおいかくすかのように、あいもかわらず家族道徳が説かれている。男女がセックスをしたら、一体化したような快感をあじわうだろう。愛しあうカップルはひとつになれるんだ、契りをかわして結婚しようよ、家庭をつくろう、それがひととしての自然なんだ、だからそれをこわしてはいけないと。ウソッぱちだ。ひとはひとつになっても、ひとつになれないのだから。でも、ひとつになれるとおもいこむことによって、みんな夫とか妻とか、そういう役割をすすんでひきうけてしまう。(略)チクショウ、チクショウ。そんなのぜったいゆるせない。きっと、野枝が生涯をかけてぶちこわそうとしてきたのは、これだったんじゃないかとおもう。」
    確かに。その通りだと思う。

    文体が「かっこいい」「しびれる」「チクショウ」など、私情丸出しで驚いた。こうした硬めの本?にしては珍しいのでは。自費出版の本のような…少し違和感をもちつつ、でも一方では楽しみつつ読んだ。

  • いやぁ、面白かった。評判がいいというのは知っていたけれど、読んでみてよかった。

    幸徳秋水とか大杉栄とかそのあたりの歴史の部分ってあまりよく記憶していないのは、学生時代に勉強をさぼっていたからか、その部分の授業が薄かったからなのか、よくわからないが、ちょっとこの時代をもうちょっと知りたいという好奇心もむくむくと。

    著者の語り口は好き嫌いが分かれるだろう。私も途中鬱陶しいなぁ‥と思うものがあったのだが、あとがきを読んで、ああいいなこの感じ‥と思うようになった。

    参考文献もきちんとあげられていて、あとからいろいろ読みたい部分を読むのにも便利そう.

    自分の頭を使わないから、奴隷になるというこの思想にはすごく共感。

    野枝の結婚についての自分のようにこんな思想を持っていても、家に大杉といるとお茶とか出したりしちゃう‥なんて書いちゃうあたりがかっこいい。
    そうそう、正直な人ってかっこいいんだよねぇ。

  • 大杉栄の恋人だった伊藤野枝の評伝。とにかく野枝はわがままで、やりたいことをやりたいだけやっていくんだけど、それがすごくかっこいい。極端だから敵も多かっただろうし、若くして殺されてしまうけれど、こんなに堂々と言いたいことを言った人間というのはなかなかいないと思う。お金がなくったってなんとかなるという楽観的な考えが、権力や金に媚びない強さの源流なんだということを改めて認識した。

  • 「資本家にたよったり、カネをかせいだりしなけければ、生きていけないという感覚をふっとばす。自分のことは自分でやる、やれる。それを行動にしめすことがだいじなのである。」
    人生は暇つぶし、という人もいるが、暇つぶしは暇つぶしでも、全力で、濃い暇つぶしをしたい、と思う。

  • "現代のアナキスト"と自称する栗原康氏。
    彼の書いた『伊藤野枝伝』は熱いが、危険な匂いもしてくる。爆けるアナーキーな文体は、人によって好き嫌いが大きく分かれそうだ。
    明治から大正の時代。28歳で大杉栄と共に虐殺された野枝の人生をザクッと知るには良い一冊だ。

    • Shogoさん
      今よりずっと自由を主張しづらい時代に因習にとらわれずに駆け抜けた女性の伝記です。アナキストとは必ずしも結びつかないと私は思う、前のめりな文体...
      今よりずっと自由を主張しづらい時代に因習にとらわれずに駆け抜けた女性の伝記です。アナキストとは必ずしも結びつかないと私は思う、前のめりな文体に最初はかなりとまどいましたが、一気に最後まで読めました。平塚らいてふさんや青山菊枝さんのほうが素敵に思える部分も多々ありました。
      2022/11/21
    • ナオさん
      Shogoさん、コメントを有難うございます。
      伊藤野枝について書かれたものを以前から読みたいと思っていました。村山由佳さんの本も読んでみて、...
      Shogoさん、コメントを有難うございます。
      伊藤野枝について書かれたものを以前から読みたいと思っていました。村山由佳さんの本も読んでみて、時代を疾走した一人の女性の生きざまを見せつけられた思いがしました。
      ( =アナキストかと言われれば、言葉にしづらいですが…)

      本棚の中に『二十歳の原点』があり驚きました。
      2022/11/21
    • Shogoさん
      ナオさん 自分の単なる読後の感想程度に残そうとしましたが要領得ずにコメントになってしまいました。ナオさんのコメントも見て書いたという意味では...
      ナオさん 自分の単なる読後の感想程度に残そうとしましたが要領得ずにコメントになってしまいました。ナオさんのコメントも見て書いたという意味ではあながち間違ってはおりません。ありがとうございました。
      2022/11/21
  • 面白くて一気に読んだ。文章にリズムがあって、ふざけていて?筆者の熱い気持ちが伝わって、疾走感、読み終わって息が上がってる感じ。タイトルもいい。
    伊藤野枝の評伝といえば、遠い昔、学生の頃に読んだ瀬戸内寂聴「美は乱調にあり」。内容、雰囲気ほとんど覚えていないが、なんか憧れを感じていたような気がする。ものすごく平凡な人生を送って、あの頃の私に謝りたい気分だ。いや、今からでも遅くない!と言いたいが、伊藤野枝は28歳で亡くなってるんだもんな。
    高等小学校卒業の写真が14歳に全く見えない。

  • まさに「爆裂評伝」。

著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。東北芸術工科大学非常勤講師。専門はアナキズム研究。著書に『大杉栄伝 ―― 永遠のアナキズム』(夜光社)、『はたらかないで、たらふく食べたい ――「生の負債」からの解放宣言』(タバブックス)、『村に火をつけ、白痴になれ ―― 伊藤野枝伝』(岩波書店)、『現代暴力論 ――「あばれる力」を取り戻す』(角川新書)、『死してなお踊れ ――一遍上人伝』(河出書房新社)、『菊とギロチン ―― やるならいましかねえ、いつだっていましかねえ』(タバブックス)、『何ものにも縛られないための政治学 ―― 権力の脱構成』(KADOKAWA)など。

「2018年 『狂い咲け、フリ-ダム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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