ヨーロッパ覇権以前 上: もうひとつの世界システム

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (287ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000023931

作品紹介・あらすじ

近代成立のはるか前、ヨーロッパから中東、中国に至るユーラシアの陸海は、すでにひとつの世界システムをつくりあげていた。豊かな視野で構想された新しい「全体史」、待望の邦訳。

感想・レビュー・書評

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  • ☆1(付箋4枚/P287→割合1.39%)

    原初の市場形成の雰囲気が伝わって面白かった。

    “人口密度が比較的に低く、発展レベルが高くなく、輸送システムが貧弱な社会では、定期市という現象が見られる。定期市の本質は、商人たちが巡回路をたどりながら、規則的な間隔をおいて顧客に商品をもってくるという点にある。
    こうして、現在でもまだ定期市が開かれている北アフリカには、スーク・アルミハース(木曜市)、スーク・アルアルバアー(水曜市)、スーク・アッサラーサー(火曜市)という名の町が存在する。”

    ネットで調べると、四日市も4のつく日に市を開いたのが名前の由来だとか。ふーん、そうなんだねえ。
    ウォーラーステインの「世界システム」へのアンチテーゼだそうなのだけど、ウォーラーステインちらっとしか読んでないから、そちらはスルー。

    ***以下抜き書き***
    ・研究によって得られた顕著な発見のひとつは、13世紀の交易者の間では類似点が相違点をはるかに上回っていたことであり、そして相違点があらわれる場合には、いつも西方が遅れをとっていたことである。
    >>/> ウォーラーステインの「世界システム」と比較して。

    ・地域的なサブシステムの上には、世界都市を橋渡しする世界システムが存在し、しかもこれらの都市は相互の「取引関係」を一段と強めようとしている。フリードマンとウォルフが、日本航空から提供された原図を用いて「世界都市」図を作成したことは意義深い。東西に偏りをもつ従来のメルカトル図法にとって代わって円錐図法が主流となりつつあるが、飛行ルートは「主要な」世界都市がどのような関係にあるかを正確に描き出すからである。
    >>/> アメリカン航空とか、ユナイテッドエア、BAじゃなくて、日本航空だったんだ。理由があるのか、ないのか。

    ・人口密度が比較的に低く、発展レベルが高くなく、輸送システムが貧弱な社会では、定期市という現象が見られる。定期市の本質は、商人たちが巡回路をたどりながら、規則的な間隔をおいて顧客に商品をもってくる(地方の市は、通常、消費財のために週一回開かれる)という点にある。
    こうして、現在でもまだ定期市が開かれている北アフリカには、スーク・アルミハース(木曜市)、スーク・アルアルバアー(水曜市)、スーク・アッサラーサー(火曜市)という名の町が存在することになる。
    >>/> 定期市は毎日開く商店の手前なんだ。物産市なんか日本ではまだあるけれど、システム的には原始的なんだな。

    ・13世紀の半ば頃までに、この監視人たちは独自の勢力に成長した。伯とは別の印章を使用し、「大市記録簿」に契約の要約を記録し、同意事項を公証し、その履行を強制した。しかし、彼らの究極の武器は、負債を払わなかったり、契約上の約束を履行しなかったという点で有罪であることが判明した承認を、その後大市から締め出すということであった。これは明らかに非常に厳しい罰則だったので、将来の利益に対する機会を失うリスクを敢えて冒す者はほとんどいなかったようだ。しかし、そこまでは至らないとしても、監視人は、債務不履行者の商品を差し押さえて、それを債権者のために販売することができた。
    シャンパーニュとブリの伯たちによって提供されたこの特別な制度が、定期市に対する不自然な独占状態をつくり出した。
    >>/> 物流に有利な地理的には別の場所も考えられるのに、何がシャンパーニュとブリを選ばせたのか。強力な胴元が場を保護するということ。

  • 本書はその内容がそうであるように,今の私の知的興味のさまざまな分岐の交差点で出会った本であり,その出会いに感謝して来年度大学の講義で教科書として使おうと予定している。
    私は他の3人の研究者仲間と,ジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』というベストセラーの批評論文を書いた。私の担当は英語圏地理学におけるこの本の扱いを調査したものだったが,そのなかで本書を知った。本書は西洋中心的な世界史の見方を乗り越えるような最近の1冊として挙げられていたもので,そのなかで翻訳されているものは他にアンドレ・グンダー・フランクの『リオリエント』があった。フランクの存在はそれこそ,ウォーラーステインを知った時に勉強した従属理論の代表的論者として知っていて,ウォーラーステインの最後の弟子といわれる山下範久氏が『リオリエント』を翻訳したことで知っていた。アブー=ルゴドのことはその時初めて知ったのだが,珍しい名前なので覚えていた。
    最近,明治学院大学の講義のためにサイードの『パレスチナ問題』を再読した。その際に,アブー=ルゴドの名前に再会したのだ。どうやらサイードと仲がいいらしい。ということはやはりアラブ人の名前か。明治学院大学の講義では山川出版社の高校教科書『詳説 世界史B』にお世話になったのだが,この教科書は私が受けた高校の世界史の印象と随分違ってイスラームにそれなりに比重を置いたものだという印象を受けた。私も研究者のはしくれなので,教科書執筆者の名前を調べてみると,筆頭著者の佐藤次高氏はやはり「アラブ・イスラム史」が専門だという。そして,その後手にとった本書を見れば,彼が翻訳者の筆頭になっているではないか。
    まずは上巻,目次から。

    序論
     第一章 システム形成への問い
    第一部 ヨーロッパ・サブシステム
      古き帝国からの出現
     第二章 シャンパーニュ大市の諸都市
     第三章 ブリュージュとヘント――フランドルの商工業都市
     第四章 ジェノヴァとヴェネツィアの海洋商人たち
    第二部 中東心臓部
      東洋への三つのルート
     第五章 モンゴルと北方の道
     第六章 シンドバードの道――バグダードとペルシア湾

    本書はウォーラーステインの世界システム論を根本から批判するわけではない。15世紀以降にヨーロッパを中心とした勢力が世界を覆っていくというウォーラーステインの議論に基本的に賛成しながらも,それ以前に決してヨーロッパが世界のなかで進んでいたわけでもなければ,ヨーロッパ文明なるものがヨーロッパで純粋バイオされたわけでもないということを,1250-1350年という時代のヨーロッパ,中東,アジアの歴史を辿ることで明らかにしようという内容。
    そういう目的でありながら,ヨーロッパから先に記述していくってところがニクい。そして,市場という商業ネットワークの形成を描くことで,ヨーロッパがいかに中東とアジアと結ばれているのか,しかも資本主義が誕生する以前の商取引において,ヨーロッパはけっして中東やアジアに対して優位に立っていたわけではないという。
    印刷の関係上,第二部の途中で上巻が終わってしまう。中東といいながらもモンゴルから記述するというのもありがたい。私も講義のためにマルコ・ポーロの『東方見聞録』とそれをめぐる2冊の歴史書を読んだことがあったが,それ以来,ヨーロッパと中国の関係を媒介するモンゴル帝国という存在が気になっていたのだ。
    とりあえず今回はどうせ講義資料を作る際に再読する必要があるということで,あまり精読していない。そもそも精読できるほどの知識がないため,なかなか私にとっては難しい読書だった。この中途半端な理解のまま学生に伝えることのないように,9月までに関連する図書も読んで勉強したいところだ。

  • 1402夜

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