日本レスリングの物語

著者 :
  • 岩波書店
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000242929

作品紹介・あらすじ

女子の活躍にみるように、近年躍進めざましい日本レスリング。その歴史は柔道やプロレスとの交流、確執に始まった。豊富な取材をもとに、日本レスリングの父・八田一朗から、黄金期を支えたスーパースターや天才たち、指導者たち、そして現在最前線で戦う選手たちまで、無数のドラマと多様な人物を描ききる力作。

感想・レビュー・書評

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  • 米満選手が男子レスリングに24年ぶりの金メダルをもたらした夜に読了。プロレス三部作でプロレラーのアスリートとしての物語に光を当て続けてきた作者が、アスリートオブアスリートであるレスラーたちと指導者たちの織り成す日本アマチュアレスリングの歴史を描いています。強くなる=オリンピックで金メダルを取る、というシンプル過ぎるテーマは、逆に複雑な葛藤を生み出しました。その葛藤の中でもがく男達の(女達の)群像劇です。過去の作品と比べ、日本レスリング協会の正史みたいな本なので登場人物も多く、抑えた筆致なのですが、それでも格闘技に対する熱い愛情と格闘家に対する深い尊敬が溢れている本です。それにしてもアマチュアレスリング成立にプロレスが関わっていたなんて!

  • 感動の連続、男泣きの本だ。八田一朗、笹原正三、福田富昭、そして多くの男たちが日本のレスリングを育ててきた。ひとりひとりにドラマがあり、情念がある。その流れの先に、現在最強の日本女子レスリングがある。そして、日本の男子レスリングもまた、かつての最強をほしいままにした時代を取り戻すことを願う。

  • 大好きなスポーツノンフィクション作家・柳澤健さんが日本のアマチュア・レスリングの歴史について詳細に記述したもの。相変わらずマニアックで思わず読み込んでしまう内容。

    五輪で数限りないメダルを獲得したアマレスはとどのつまり、八田一郎、福田富昭という2名の日本レスリング協会・会長によって創られた、というのがこの本の骨子のように思える。即ち、日本体育協会で加納治五郎の秘書をしていた八田一郎が早稲田大学に設立したレスリング部が日本レスリング協会の嚆矢であり、戦前戦後を通じて八田は君臨し続け、先進的な発想と持ち前の行動力で日本のアマレスを世界レベル、そして世界一のレベルに押し上げた。

    対する福田は八田の死後、紆余曲折の会った日本レスリング協会を立て直しつつ、私財、公財を投じて少年レスリングの道場や女子レスリングの競技そのものを創設、育成し、現在の女子レスリングの黄金時代を作り上げた。

    見た目に地味で、見る側のリテラシーが相当に問われるレスリングに対してここまでの情熱を持って取り組み、様々な努力や苦労しながら世界的な成果につなげる。。他の分野にも通じる"何事かを成す者たちの物語"が柳澤テイストで淡々と書かれている良書だと思う。

    強いて言うと、アントニオ猪木やクラッシュギャルズになるような何らかのアングルやフォーカスがこの本には希薄で、歴史を叙述する色が強かったのが、ファンとしては残念といえば残念だったが。。

    この本に出てきたメダリスト列伝は、リオ、東京へと続くだろう。今後のアマレスから目が離せない(笑)

  • 文字通り、日本レスリング界の歴史を綴った一冊。

    内容は、個々の選手の話ももちろんあるけれど、どちらかというとレスリング協会や指導者側の話が多め。
    印象に残ったのは、何と言っても八田一朗。
    そして、レスリングは決して男子だけのものではなく、キッズや女子と地続きであることを感じた。

  • 柳澤健のノンフィクション大作。
    今回はプロレスモノでは無く、なんとレスリング。ちょっと前まで
    アマチュアレスリングと呼ばれた、男女オリンピック正式種目である。

    古くから週プロを読んでいる読者にはお馴染みの「日本レスリングの父」
    こと八田一朗が築き上げ、笹原正三、高田裕司という天才を世に出し、
    一時はリアルに世界一だった日本レスリングの栄光と挫折が、過不足無く
    描かれているのは見事。

    ただ、吉原功やマサ斉藤、サンダー杉山や谷津嘉章、馳浩などのアマ出身
    のプロレスラーの話題が殆ど出て来なかったのがちょっと残念。おそらく
    作者はこの話題を意図的に避けていた気がするのだが、どうなんだろうか?

    とにかく読み応えは抜群。
    正直レスリングに全く興味の無い人には響かないかもしれないが、最近の
    女子レスリングを見て面白い!と思っている人は是非。もちろんロンドン
    で米満達弘の金メダルに感動した人たちにも!

  •  競技人口の少なさにもかかわらず、オリンピックで優秀な成績を収めている日本の男女レスリング。その礎を築いたのはのちに「日本レスリングの父」とよばれることになった八田一朗、その人だった。
     関係者に緻密に取材し、歴史の真実を掘り起こした『1976年のアントニオ猪木』などで知られる著者、この作品にも魂のこもった取材が行われている。
     昭和初頭、世間には柔道と相撲のあいのこくらいの認識しかないなか、八田が自ら海外へ赴き、レスリング先進国から人を入れ、私財をつぎ込み、政治の力も利用して、あの手この手でいかにして極東のこの地にレスリングのタネをまいたのか。名選手の数々がいかに日本レスリングを発展させていったか。モスクワオリンピックのボイコットがどんなに選手を苦しめたのか。まさに見て来たような緊迫感で描かれる。
     たんなる人物列伝ではおさまらない。ナイル川からインダス川にはさまれた人類文明の発祥地・中心地でレスリングは騎乗術・弓の技術とならぶ武術の基本でありつづけたこと。現在でも世界のレスリング強国がこれらの版図のなかにおさまっていること。一方、近代オリンピックはヨーロッパ貴族のための存在であったため、レスリングとの相性がいいわけではないということ。グレコローマンスタイルは19世紀においていわゆる「プロレス」的な人気を博していたことなど、レスリングの歴史やそのトリビアも盛り込まれていて興味深い。
     レスリングに興味があればもちろん、スポーツノンフィクションのなかでも最高に面白い読み物のひとつだと自信を持って断言できる。

  • オリンピック競技から除外されそうになって話題になっているレスリングというスポーツが、日本でどのように発展してきたかを振り返るノンフィクション。
    レスリングが日本のお家芸、などと言うのは大嘘で、日本のレスリングはごく一部の奇特な愛好家の熱意と奉仕によって発展してきたことが分かる。
    手首の取り合いには合気道の技術が、投げ技には柔道が応用されるなど、その時々の選手の工夫やアイデアのエピソードも面白い。
    もちろん日本以外の各国も様々な戦術、技術を磨いている。
    こんな面白いスポーツをオリンピックから外すなんて、どうかしている。

  • 資料ID:21204600
    請求記号:788.2||Y

  • 柳澤さんという期待通りの一冊。
    創始者八田の執念とその活動が魅力的。ベニハナの青木創業者との関係で、彼がそのアイデアを出していたとは驚き。
    史上最強と言われた高田祐司、モスクワ五輪でその活躍が出来ていれば、という悲劇も史実として面白い。
    近年の話では、女子レスリングの認知を急速に普及させた福田富昭の活動は画期的。
    中京女子大の校長が全然やる気なかったのに、五輪で金取ったら自分の功績にして参議院で当選したなどは、何ともトホホなことだが、カリスマ性のあるトップが身体を張って普及させたという事実は、驚異的なことだと思った。
    米満選手の金も見事的中させてます。

  •  近年、女子の活躍をみるように、日本レスリングの躍進はめざましい。そんなレスリングの歴史を様々な角度から見つめている。格闘技ファンはもちろん、そうでない方も楽しく読むことが出来る、おすすめの一冊である。ぜひ、読んでみて下さい。
    (匿名希望 教育学部 国語)

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒。文藝春秋に入社し、「週刊文春」「Sports Graphic Number」編集部等に在籍。2003年に退社後、フリーとして活動を開始。デビュー作『1976年のアントニオ猪木』が話題を呼ぶ。他著に『1993年の女子プロレス』『1985年のクラッシュ・ギャルズ』『日本レスリングの物語』『1964年のジャイアント馬場』『1974年のサマークリスマス』『1984年のUWF』がある。

「2017年 『アリ対猪木』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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