ポピュリズムとは何か

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000247962

作品紹介・あらすじ

現代世界を席巻している「ポピュリズム」。だが、そもそもポピュリズムとは何を意味するのか。民主主義とどのように区別できるのか-。気鋭の政治思想史家が、古今の様々なポピュリズム現象やポピュリストの論理を緻密に分析し、「人民を代表するのは自分たちだけだ」という反多元主義的な語りに注目して明確な定義づけを試みる。ポピュリズムへの対処法に関しても示唆に富む一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 東洋経済2022430掲載 評者:田野大輔(歴史社会学)

  • 田野さんの書評より 2022-05-02

  • ポピュリズムという曖昧に用いられがちな言葉を民主主義、とりわけ多元主義の観点から定義した本。結論で簡潔にまとめられているので、途中やや読みづらいところがあっても問題ない。

  • 今年一番興奮した読書かもしれない。久しぶりに本を付箋だらけにしている。ポピュリズムについての理論分析と実態の検証が非常に上手く、バランスよく織り編まれている一冊だと思う。米国の歴史背景だけでなく、取り上げられている地域、人が幅が広く、その様相を見るに世界には今まさに「幽霊が徘徊している。ポピュリズムという幽霊が」という状況であると感じる。そして語られている内容が身近に感じられて怖くもある。著者はポピュリズムを教義というよりロジックとして捉え、その主張・言論と行動を分析した上で対処法を示し、最終的に7つ(原著のドイツ語では10)のテーゼにまとめている。独語原著は独国内政治についてより理論的に分析されているらしい。2017年秋の独総選挙についてのコメントを知りたい。また本書に対する反論を示した山本圭の論考も読まねばと思う。

  • ポピュリズムについての本は複数読んだが、ポピュリズムの定義に正面から取り組んでいる貴重な本といえる。同名の中公新書は「何が起こっているか」の確認として有用だったが、本書は民主主義の歴史から広く例をとりながら解説してくれており、概念の整理に向く。トルコ含むヨーロッパ、北米、南米における新旧の例がふんだんに紹介されている。
    アジア・アフリカの例は出てこないが類似のことが起こっているのは間違いないので、別の本を探したい。

  • 難しかった。
    ポピュリストが出てくるその本当の問題を考えなければならない。動かないといけない。ポピュリズムを排斥するのではなく、様々な話を聞くことが現在の多様性(すべての人の自由と平等)に繋がるのではないか。
    また、私も半多元的になっていないか。広い視野で見れているかを考えさせられる本だったと思う。

  • 注目の若手中堅政治学者によるポピュリズム解説書.ポピュリストに共通する論理などその手口の整理が分かりやすい.

    総じてポピュリズムへの警戒,危険視の色合いが強く,ポピュリズムの積極的意味についても取り上げるカス/クリストバル『ポピュリズム』(白水社)と合わせて読むとバランスが取れるかと.

    ミュラーによる本書の方がポピュリズムの論理とその民主政への危険の説明が手厚くかつ分かりやすいので両方読むべきでしょう.

  • 著者はポピュリズムを民主主義の敵であると否定的な立場から論じている。なぜなら、ポピュリストは反エリート主義的であるとともに、反多元主義であるからである。換言すれば、反エリート主義であることはポピュリストであるための必要条件であるにすぎない。すなわち、ポピュリズムは民主主義が本来想定する多元的で多様な利害から成る社会を真っ向から否定するのである。
    ポピュリストは一部の人民を真の人民と見なし、彼らはひとつの声で話すことが可能であり、政権を獲得したポピュリストに正確に命令委任を発することができるとしている。それゆえ、ポピュリストが国家を植民地化し、大衆恩顧主義や差別的法治主義を実践することは、そうした人民の道徳的な良心に支えられて公然と行われ、これを批判することは困難である。また、ポピュリストかをレファンダム(国民投票)を要求することもあるが、それは真の人民の意志だと既に決まっていることが追認されるのを意図しているにすぎない。
    ポピュリズムが政治があまりにも人民から乖離している状況を是正するという主張も有力であるが、著者は、一部の人びとが実際に代表されていないことを明確にする可能性を指摘した上で、この主張に対しても否定的である。
    かと言って、ポピュリストを政治から排除することはナンセンスである。なぜなら、そうするとポピュリストの反エリート主義的な主張を事実として正当化することになってしまうことになってしまうからである。ゆえに、政治アクターは彼らの主張を真摯に受け止め、彼らと対決していくことが肝要である。

    比較的コンパクトな本ではあるが、今後ポピュリズムについて検討していく上では必読となるであろう。それだけ、定義しにくいポピュリズムというものを多様な知見も頼りにして捉えようと試みている。正直なところ、初学者である自分にとっては難解な箇所も多々あったが、結論にて本文で検討したことが簡潔にまとめられており有難い限りである。翻訳者の先生のあとがきも大いに参考になる。

  • 現代の政治を特徴づけているポピュリズムについて分析されている。
    これまで明確な定義が与えられていなかったポピュリズムを著者は定義しようと試みる。
    民主主義は「人民」を主権者として定める。しかし「人民」はひとりの人間のように単質ではなく、多元的である。したがって、民主主義の特徴は、議会制民主主義による討議にある。そこでは意見の不一致が前提とされ、その不一致を討議することで誰もが納得できる妥協点に導いていくことが理想とされる。
    これに対して、ポピュリズムは最初から「人民の同質性」を前提にし、「多元性(多様性)を排除」する。ポピュリストはエリートを攻撃しながら、「われわれこそは人民であり、われわれではない者はそうではない」と主張する。彼らは、「われわれ」に属さないものを潜在的な敵とみなす。その「敵」が、エリートであったり、外国人であったり、移民であったりする。それが嘘であってもかまわない。ポピュリストにとっては、陰謀論が嘘であることが自明でも、それが排斥のための論理として機能すればよいのだから。
    ポピュリストは、抽象的人民の「一般意志」(ルソー)が議会制民主主義に阻害されることなく直接的に表現されることを望む。(著者は明言していないが、これはファシズムに近づくだろう。ポピュリズムはファシズムに至る前段階であると言える。)
    エリートを批判する大衆的な政治運動のすべてをポピュリズムと呼ぶことに著者は反対する。ポピュリズムであるための必要条件はその排他性にある。したがって左翼ポピュリズムは左翼にとっても有望な選択肢ではないことになる。
    私見では、ポピュリズムが世界中で流行ったのはインターネットの普及の影響が大きい。SNSはポピュリズムにとって最適のツールとなった。ポピュリストは「マスメディアは嘘をついている」と述べ、SNS上でどのような嘘をつくことができるからだ。トランプの「ポスト・トゥルース」や日本の「ネトウヨ」もSNSの登場と関連させて考えなければならない。

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著者プロフィール

(Jan-Werner Müller)
1970年ドイツ生まれ。ベルリン自由大学、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、オックスフォード大学セント・アントニーズ・カレッジ、プリンストン大学などで学び、オックスフォード大学で博士号を取得。2005年よりプリンストン大学政治学部で教鞭をとり、現在、プリンストン大学政治学部教授。邦訳書に、『カール・シュミットの「危険な精神」――戦後ヨーロッパ思想への遺産』(中道寿一訳、ミネルヴァ書房、2011年)、『ポピュリズムとは何か』(板橋拓己訳、岩波書店、2017年)がある。

「2017年 『憲法パトリオティズム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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