声と文字 (ヨーロッパの中世 第6巻) (ヨーロッパの中世 6)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000263283

作品紹介・あらすじ

中世一千年の間に西欧は「声」中心から「文字」優勢の社会へと変貌した。その変化はラテン語/俗語、エリート/民衆、教会/世俗など、中世社会のもつ二重性とどう関わるのか、ユニークな角度から中世世界に迫る。

感想・レビュー・書評

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  • <閲覧スタッフより>

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    所在記号:230.4||ヨチ||6
    資料番号:10196707
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  • OS3a

  • 最初は、1427年シエナでの説教師ベルナルディーノの説教を独特の速記法で一言一句漏らさず記録したベネデット。最後は、自分では書けなかったが、代筆を駆使して帳簿をつけ、富裕な農民として立派な経営をした、おそらく読むことはできたであろうもうひとりのベネデット。古代から中世まで、ヨーロッパを中心に、使われていた言語はラテン語か、俗語か、使われていた文字は何か、文字を知るものと文字を知らぬものの対比、その間に広く横たわる「文字を知るがごときもの」のグレーゾーン。行われてきた言語改革、文字改革。宗教と説教の果たした役割。などなどが述べられる刺激的な試み。史料から、実際に、話されていたことを復元するのは困難きわまりないが、史料と背景を読み込むことでスリリングにせまっていく。/史料を通す際の歪みや偏光を是正して生の声に近づく、歪みや偏光自体に歴史性を読み込む。筆記することによる「声と文字の複雑な絡み合い」=「声と文字の弁証法」の特異性。「声と文字の弁証法」「俗語とラテン語の弁証法」の二項対立の構造とその広がり。俗語の流動性とラテン語の不変性。西欧中世に独特のラテン語と俗語の二重言語体制の生成発展の様相を追い、その構造と特徴を社会生活の広まりのなかで解明すること。刹那文書の内容、外見、具体的な使用法から、中世人と文字の付き合い方を探ること。これらのことが目指される。/ベネデットは、反芻するために説教を記録した。/カロリング・ルネサンスのラテン語改革は、ラテン語の純化と統一により、聖職者のラテン語と民衆の口語との距離が一気に開く。/ブリテン島のラテン語学習者たちの生み出した最大の工夫は「分かち書き」の手法/カロリング・ルネサンスのために書かれたような「初めにことばがあった。ことばは神とともにあった。ことばは神であった」(ヨハネによる福音書、冒頭)/シャルルマーニュの言語改革は、誤りに満ちたテクストは聖書や典礼の理解を危うくするから、こうした危険を排除して神のことばを正しく伝えることが目的であった。/分かち書きの定着を促したのは、黙読の必要/11世紀が「声と文字」の関係の質的転換、声から文字への大分水嶺。書かれたものの量の増大、リテラシーの拡大。読み書きできなくても「リテラシー」を持つ者の存在。読み書き能力の量的増大。/短時間に大量の文書を作成する必要が生じた際の、草書体の出現、証書・カルチュレール・帳簿の登場。/無文字文書、12世紀の欠け歯のナイフまで、儀礼と象徴に満ちた「声の文化」の執拗な持続が見られるが、13世紀末イングランドでは、モノに即した記憶と証明の世界は遠くなりつつあった。/「書記局の偽造」。権力者が代替わりしたときに、以前に発給された特許状が再認されるのがつねで、その際自分が有利になるようひそかにテクストに手をいれること。/中世後期における読み書き能力の躍進は、「文字を知らぬ人」がラテン語を覚え、「文字を知るがごとき人」の段階を経て「文字を知る人」に変容していくのではなく、俗語が文字の世界に進出することで展開。/遍歴商人から商人の定地化。為替などのさまざまな商業技術の発達により。/ラテン語は俗語を文字に導き、書字言語に成長させる役割を果たしていた。/安定した書字言語の影響下で声のみの言葉が書字言語に成長する例は、ほかにも漢文を読み下すことで文字に親しんでいった古代日本人、トルコ語やペルシア語がアラビア語と系統のことなる言葉でありながら文字はアラビア文字を採用した事実などが思い浮かぶ。(この方向もっと推し進めてほしい。というかそういう研究はないのだろうか)/カロリング・ルネサンスのラテン語復興は、神の言葉を正しく伝えるため。イタリア・ルネサンスのほうは神の言葉に対抗して人間の言葉を復権。自然と人間の発見、教会支配からの人間の解放。カロリング・ルネサンスは俗語の抑圧をともなったが、イタリア・ルネサンスは双方で書き、使い分ける。カロリング・ルネサンスがラテン語の古典回帰と反動としての俗語の自立を促し、二重言語体制の出発点となったのに対し、イタリア・ルネサンスのラテン語復興は、二重言語体制を前提とし、そのもとで俗語が優位になっていくなかで行われた。/ベネデットの帳簿の大半は動産、不動産売買、嫁資や小作の契約、債務、債権の記述で、当事者名、購入物品、金額、支払期限が淡々と記される。重要な取引を忘れず、相手に欺かれない証拠とするため。/最後は、中世一千年の「声と文字」の発展の結果としての俗語の確立が「母語の発見」という経過を経て、近代世界がかかえこむ国家、民族、言語の関係という重い課題を予示していることにふれられ、しめくくられる。

  • とてもおもしろいです!ヨーロッパ中世に関心がある人はぜったい読むべき!

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