歌うカタツムリ――進化とらせんの物語 (岩波科学ライブラリー 262)

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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000296625

感想・レビュー・書評

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  • カタツムリを題材とした進化生物論という、凡人にはほとんど縁も馴染みもない話を、ここまで読ませる内容に仕上げた著者のサイエンスライターとしての力量に脱帽。
    一読するとその意味が味わえる「進化とらせんの物語」という副題も秀逸だし、ものの見方が凝り固まってしまうことを「3.14とはなんですか、と聞かれて『円周率!』とマッハのスピードで答えるも、ホワイトデーに思いが及ばない勉強熱心な甲斐性なしがその例である」と書いたり、とにかくライターとしてのセンスが秀逸。
    本題であるダーウィン以降の生物進化に関する学説の激突も、いい意味でプロレス的で、とっつきにくい内容であるはずなのに、読む手が止まらない。しかも、著者は若手研究者と思いきや、1960年生まれの教授で、かつ、一般向けの著書はこれが初めてという二重のビックリマークが付く。いろいろな意味ですごい本。

    それにしても、本書に数回出てくる、日本人研究者の研究成果に関するくだり…「これは世界的にも極めてレベルの高い斬新な研究だった。だが残念なことに、論文はどれも、海外の研究者の目に届きにくい国内の雑誌に発表されたため、海外にはほとんど知られることがなかった」 
    著者の無念さがひときわ印象に残る。

  • おもしろかったので、2回続けて読んだ。リチャード・ドーキンスの本を読んで、種分化を進める主要な力は自然選択で決まりと思っていたが、話はそう簡単ではないようだ。環境への適応とは関係のない遺伝的浮動も、種分化に大きな影響があるらしい。それにしても、カタツムリの研究だけを題材にして、自然選択説と中立説の論争の歴史を語ることができるとは意外だった。それほど多くの研究があるなんて、生物学者にとってカタツムリはよほど魅力的と見える。スティーブン・ジェイ・グールドや木村資生の名前が出てきたので、ドーキンスの登場を期待して読み進めたのだが、これはかなわなかった。著者が「あとがき」で「事情通の読者の中には、登場すべき重要人物がいない、と思われた方がいるかもしれません。」と書いたとき、誰を念頭に置いていたかは知らないが、ドーキンスがカタツムリの研究をしていたという話は聞いたことがないなと勝手に納得した。歴史がものの見方や考え方を拘束する例として、「3・14は何ですか、と聞かれて、「円周率!」とマッハのスピードで答えるも、ホワイトデーに思いが及ばない勉強熱心な甲斐性無し」(102ページ)が挙げられているのは、著者の実体験だろうか。余計なお世話だが。イギリスから著者の研究室にやってきたポスドクが「雨上がりの青葉山キャンパスで、たまたま大きなヒダリマキマイマイが道の上にたくさん這い出しているのに遭遇し、どれもそろって殻が左に巻いていることに感動して以来、殻の巻き方向を決めている遺伝子が何なのか、その探求のほうに夢中になってしまった。」(180ページ)という下りを読んで調べてみたら、左巻きの巻き貝は珍しいらしい。知らなかった。いつかカタツムリを見つけたら、どちらに巻いているか見てみよう。最終章のカタツムリの絶滅の話は、読んで悲しくなった。2017年8月6日付け読売新聞書評欄、日経サイエンス2017年9月号「森山和道の読書日記」。

  • 題名に惹かれて読み始めたが,副題にあるように進化と歴史の物語そのもの.カタツムリ研究に絞られてはいるが,全ての生き物に当てはまる命題.ダーウィンに始まり,宣教師ギュリックの気の遠くなるようなカタツムリ研究から綿々と続く進化の謎に迫る攻防.いろいろな学説,繰り返される理論,難しくはあるが,興味深いものだった.
    出来れば,系統樹やマイマイの写真も添付して欲しかった.

  • カタツムリの研究史を時系列に、世代ごとの人物に焦点を当てながら紹介。登場人物はグールドしか存じ上げなかった。時代によって浸透していた考え方に違いがあるのは印象的。 個人的には海棲の貝類がどのようにして上陸を果たし、ナメクジやカタツムリに進化していったのか、の方が気になった。 環境、同種や捕食者による圧、遺伝のランダム性など、影響要素が多すぎるため、生態系への理解を深めることへの難しさがよく分かる

  • 進化を決定づけるのは環境への適応なのか、運や偶然に類するものなのか。新たな発見があるたびに揺れ動いてきた、その研究史はカタツムリのような螺旋を描く。
    カタツムリ(マイマイ)の研究がその焦点になってきたという、その歴史を概観する一冊。
    「歌うカタツムリ」はかつてハワイにいたと伝えられる。そのハワイのカタツムリ研究が歴史の始まりだった。しかし、ハワイでも、ミクロネシアでも、小笠原でも、研究の対象になったカタツムリは外来種によって絶滅状態に追いやられたという話がエンディングに控えている。

  • 素人目にはカタツムリの研究なんて、なんと地味なことかと思うが、本書はカタツムリを通して生物進化の仕組みや生物進化論の歴史を語る。
    進化とは、偶然と環境適応(自然選択)が綾なすもの。適者生存などとは言うが、偶然や自らが背負ってきたものからは逃れることはできない。進化論自体も、この両論をグルグルと回ってきたのだという。
    カタツムリの螺旋とうまく掛け合わせて、読み物としても面白い。

著者プロフィール

1968年、神奈川県生まれ。高校教諭。
1998年、第41回短歌研究新人賞受賞。歌集に『飛び跳ねる教室』『今日の放課後、短歌部へ!』『短歌は最強アイテム』『グラウンドを駆けるモーツァルト』、小説に『90秒の別世界』、共編著に『短歌タイムカプセル』、編著に『短歌研究ジュニア はじめて出会う短歌100』などがある。歌人集団「かばん」会員。國學院大學、日本女子大学の兼任講師。

「2021年 『微熱体』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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