- Amazon.co.jp ・本 (228ページ)
- / ISBN・EAN: 9784000615815
作品紹介・あらすじ
真理と正しさへの関心が失われると、懐疑はたちまち過激となり、相対主義へと姿を変える。フェイクニュース、陰謀論……、危機の時代と言われる今だからこそ、正しく疑う実践の技を身につけよう。「これぞ!哲学」と唸らせるような説得力ある議論とともに、一人ひとりが懐疑の本質を心得たうえで自信を持って生きること、謙虚に生きていくことの大切さを伝える。
感想・レビュー・書評
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読了日 2023/10/25
たしか「哲学の劇場」で紹介されていて(そのとき吉川さんは手に持ったばかりだった)、面白そうだなと思って買った。
実際、通読してみて、正直少し難しかったがとても興味深かった。
これは訳者あとがきからの引用で、
懐疑の態度には三軸あり、それをそれぞれどのくらい取って組み合わせるかで、懐疑論には色々な問題が出るという話。
ひとつは程度。たとえば「砂糖が身体に悪い!」と聞いて、全砂糖をなくす生活に振り切るか、そういうこともあるねと控えるか。
ひとつは規模。たとえば「人工甘味料が身体に悪い!つまり人工のものはすべて身体に悪い!」と懐疑の目を広げるか。
ひとつは向き。外に向かう(お前は間違っている)か、内に向かう(自分は間違っている)か。
健全で小規模な懐疑論に基づく生き方が、よりよく生きるためには必要なのだ。という訳者の話はとても良く理解できた。
この知識を持ってもう一度読み直せば、さっき読んだときの、あのツルツルの壁を登れていないような感覚を更新できるかもしれない。 -
「それってあなたの感想ですよね」が小学生の流行語になってるらしい。これも懐疑論というか相対主義の一種と言えるだろう。本書はそれらに反論する形で論証していくという、ある意味マジメな内容ではある。とはいえ、論説としてのインパクトは懐疑論に軍配があがるので、総じて面白味に欠ける部分はある。だからこそ必要だとも言えるのだろうが。
ただし、過度な懐疑論を真に受ける人は少数派だろうし、殆どの人は「思考実験」として割り切っている部分があるように思える。それをマジメに検証しているところか本書の野暮なところでもあり面白い部分でもある。結局は認識論に基づいて、信念や知識がどのように形成されるのか、という極めて古典的かつ現代においても重要な哲学的テーマが述べられているように思える。という意味では有益な書であると言えるだろう。
著者の結論としてはアリストテレスの徳や中庸を参考にしつつも、ピュロン派の探求の精神等々を用いて「自信を持ち、かつ謙虚であれ」というようになってはいるが、最後がちょっと「倫理的」になってしまったのはオチとしてどうなんだろうという気もする。