指ぬきの夏 (岩波少年文庫 160)

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  • Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001141603

感想・レビュー・書評

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  • 活発な女の子

  • 久々の岩波少年文庫ということで、何から手をつけるべきか結構迷いました。  未読(このブログ上はという意味ですけど)の大作シリーズもの(例えばドリトル先生とかナルニアとかゲド戦記とか)にもかなり心惹かれたんですけど、あれこれ考えて選んだ1冊は結局かなり地味目のこちら(↑)となりました。  この物語は初読です。  

    そしてこの本を選んだ理由は実にシンプルで、今現在ばぁばのひざかけを作成中の KiKi にとって「指ぬき(シンブル)」はとっても身近な物体だったから・・・・・ ^^;  実は読み始めるまでは「針さしの物語」みたいに針さし、指ぬき目線の人間観察の物語を想像していたんですけど、実は全然違う構造の物語でした。  「指ぬきの夏」というタイトルではあるけれど、ガーネットという少女のひと夏の経験の物語で指ぬきはその冒頭にチョロっと出てくるに過ぎません。  

    ただこの指ぬきを拾った時からガーネットの周りではいろいろな信じられないような出来事が発生し、ガーネットは「やっぱりこれは魔法の指ぬきだったんだ。  この指ぬきが運んでくれたこの素晴らしい夏をこれからず~っと『指ぬきの夏』として記憶していこう!」というお話で、タイトルが「指ぬきの夏」。  そういう意味では KiKi の期待をあっさりと裏切ってくれちゃったプロットの物語だったんですけど、これがなかなかにいい味の物語だったんですよね~。

    物語の舞台となっているのは1930年代のアメリカの小さな谷間の村です。  イマドキのアメリカ、それもニューヨークとかワシントンとかシカゴとかサンフランシスコみたいな都市部の華やかな舞台ではなく、どちらかというとローラ・インガルス・ワイルダーの「農場の少年」に近い雰囲気の舞台で繰り広げられる物語です。  

    その村ではここ何週間というもの雨が全く降っておらず、その日の気温も43度。(猛暑日なんていうモンじゃありません!)  そんな状態がこれ以上続いたらエン麦もトウモロコシも収穫できなくなってしまうというのに家に届くのは請求書ばかり・・・・。  齢9歳半のヒロイン・ガーネットも家計の苦しさを知っていてとても心配していました。

    ところがその日の夕食後、11歳の兄のジェイと一緒に川に泳ぎに行ったガーネットは、長引く日照りのため水が減って川底が現れたところで砂に半分埋まっていた本物の銀の指ぬきが落ちていたのを見つけました。  その美しさに魅入られたガーネットはその本物の銀の指ぬきを宝物として大事にすることにし、同時に彼女はそれを「魔法の指ぬき」だと信じます。  実際、ガーネットがその指ぬきを拾ったまさにその晩、何週間ぶりで雨が降り、ようやくガーネットも彼女の家族も人心地。  そこからガーネットの楽しい夏の日々が始まりました。

    もう何年もお父さんが「お金が溜まったら建て替えたい」と考えていた納屋を建て替える目途がついたり、その建て替え準備の作業をしているところへひょっこりと各地を放浪してきたエリックという孤児の少年が現れ、住み込みで働くようになったり、ふとしたことで夜の図書館に閉じ込められる羽目に陥ったり、ちょっとした兄妹喧嘩がもとで家出してヒッチハイクの冒険旅行に出ることになったり・・・・・・。  現代の都市生活が当たり前の現代っ子には想像できないだろうほど不便な生活の中にいるガーネットなんだけど、そんなガーネットを見つめる周囲の大人の目も温くて、包みこまれるようで、「古き良き時代のアメリカ」というのはこういう国だったんだろうな・・・・と感じさせられます。

    自然描写や農村特有の品評会の描写が素晴らしく、眠っていた五感の全てが揺り動かされるようなそんな感想を抱きました。  特に好きだったのは以下の記述です。

    暗くなってからただよいだすにおいは、昼間はけっして気づかせない、とくべつなにおいです。  まるでトウモロコシらしくなく、教会にいるときに感じる、ふしぎな、スパイスのようなつんとするにおいです。  道ばたの溝に咲いているシャボンソウが、うす暗闇の中でぼうっと浮きあがって見え、きついあまいにおいをあたりにまきちらしています。

    わかる、わかる。  この感覚。  夜の闇で視界が遮られることによって何故か嗅覚みたいな他の感覚が鋭敏になって「昼間とは何かが違う」と感じられる不思議さ。  実はその匂いは昼間も同じように漂っていたかもしれないものでもあれば、昼夜の寒暖差が産む特別なものかもしれないわけだけど、慣れ親しんだはずの場所もまったく異なる表情を見せる不思議にワクワク・ドキドキする感覚。  これって夜も照明の力で昼間並みに明るく、人いきれで寒暖差も少なくなってしまった現代の都会では絶対といっていいほど感じられることのない特別な感覚だと思うんですよね~。

    そういう意味ではこの物語、とっても良質な児童書ではあるものの、イマドキの子供たちがどれくらいこの内容に興味を持ったり、この物語世界をイメージすることができるのか、ちょっと不安に感じました。  KiKi のようにもともと田舎モンで子供時代に土に触れた経験があり、そして今もLothlórien_山小舎で世捨て人みたいな暮しをしている人間にとっては余りにもリアリティに溢れた素敵な物語だったんですけどねぇ。

    さて、この物語が結構気に入ったので、せっかくのこの機会に岩波少年文庫にもう1冊収録されているエンライト作品に読み進んでいきたいと思います。  次の作品は「土曜日はお楽しみ」です。

  • 9歳のガーネットが拾った指ぬきが、いろんな奇跡をおこしていく。
    実際に魔法を使うわけではないけど、ガーネットがそう信じるところがいいな。
    シトロネーラのおばあさんのお話(サンゴのネックレス)はすごく身近に感じたし、図書館に閉じ込められるなんてすごいってかんじたし、豚を一生懸命育てるなんてすごいって思いました。
    農業が常に身近にあってガーネットもお手伝い以上のことをしているのがエライ!

  • 主人公のガーネットは9歳の女の子。
    おおらかな世界だな。どきどき、わくわく、とガーネットの嬉しさがこちらに伝わってくる。指ぬきの魔法を作っているのはガーネットだ。
    アメリカ、図書館、家出。4~5年むけ。

  • おてんばでちょっと向こう見ずなガーネットのある夏の楽しい冒険。といっても、農場に暮らす日々の延長の中での出来事が、とても活き活きと描かれています。
    ある夏というのは、ガーネットが川の中で見つけた銀の指ぬきを見つけた夏のこと。それから、ワクワクドキドキの素適なことが始まったというわけ…。
    エリザベス・エンライトの作品は初めて読みましたが、はちきれそうな主人公の躍動感と、彼女の家族や周りの人々の率直であたたかな気持ちと自然描写がとてもよく伝わってくる。
    ガーネットのひと夏と共に、読後は爽快な気分になれました。

  • ちょっと昔なら子どもがこんな冒険ができた。
    今じゃ危なくて危なくて、させてもらえません。
    せめてお話の中だけでも、小さい冒険楽しんでくれ。

  • 大草原の小さな家のローラを思い出させる、おてんばでやさしい女の子のお話。タイトルにもなっている指ぬきが活躍するわけじゃないけど、ひと夏にたくさんの事件や冒険がおこるのが、けっこうハラハラさせる。挿絵が地味なのはしかたないか。

  • 星3 2010年2月21日

     谷口さんの訳ということで手に取った一冊です。
    懐かしい時代(開拓時代-ローラ・インガルスワイルダー作大草原の小さな家シリーズ-と
    現在の中間でしょうか。農業が十分生きていた時代のお話)が舞台で、
    9歳の元気なはねっかえりの女の子ガーネットが主人公でした。

     とても丁寧に、自然と農業の様子が描かれていて、
    たったひと夏のお話ですが、暖かく、優しくなる一冊でした。
    自分に(日本での)田舎、農業の記憶があれば、なおいっそうだと思います。
    色と匂いとがよみがえってくる感じがします。

     ただ、良質な児童書であるとは思うのですが、
    今の子供がどれくらいこの内容に興味を持つ・面白がれるのか、
    またイメージすることができるのかが、正直疑問に思いました。
    私は、逆に中・高年層で、土に触れたことのある人、田舎がある人、
    田舎に住んでいる人の方が楽しめるかもしれない、と思うので。

     個人的には、自分がこの時代に生まれていたら、
    絶対農業を楽しんでいただろうなと思いました。
    もちろん、大変だとは思います。不安定ですし。
    でも、やっぱり、今だって、食べていけるのであれば、と思いますから。

     それにしても、自分が子供だった頃は、ガーネットほど手伝いはやらなかったなぁと、
    ちょっと反省もしました。全然に近いかも。だめな現代っ子でした。
    手伝っていたら、もっとこの本を堪能できたのに、なんて。

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