今昔ものがたり (岩波少年文庫 568)

著者 :
  • 岩波書店
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001145687

作品紹介・あらすじ

大どろぼうの話、いもがゆの話、大きな鼻の和尚さんの話、命知らずの武士の話、きつねや化け物との知恵くらべ…。「今は昔」と語りつがれ、平安時代の人びとの生活と心をいきいきと伝える『今昔物語集』から、ふしぎで面白い39話。中学以上。

感想・レビュー・書評

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  • 「今昔物語集」の中から39のお話を少年少女向けに現代語訳している。この中でも「鼻の和尚」「五位と利仁将軍」「は、芥川龍之介が「鼻」」「芋粥」として小説化している
    芥川龍之介だとこんな感じ。
    https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4101025010

    今昔物語を現代語訳したものでは「池澤夏樹編纂 日本文学全集」も読みました。
    https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4309728782#comment


    さて、この岩波児童文学はの現代語訳が良い。平安時代の人々の暮らしや考え方が生き生きと感じ取れる。それは時代が変わって今とは違う部分もあるし、何年経っても人間の根源として理解できるものもある。
     仏への考え方が見られる「悪人往生」、良いことをしたらそれが戻ってくるという「盗人の恩返し」、身分の違いがあるからこその平等でもあった「施しにも礼儀を」などは、貧しかったり恵まれなかったりするからこそ、人間としての芯を持ったり他人との繋がりを大事にしないといけないという世の中を感じる。
     この時代の武士のあり方や豪快さは「五位と利仁将軍」「夜道のお供」「充と良文の決闘」でみられる。しかしその豪快な武士が牛車の車酔いでひどい目に合ったという「牛車に負けた三豪傑」もあり率直さと言うか田舎モンも都の風習の前にはからっきしよねという感じも出ている。
     盗賊の話も多い。盗賊にあうことは日常茶飯事であり、身分が低くても高くても盗られたら取り返しようがない。豪胆に撃退したり(「実印僧都と追い剥ぎ」)、ユーモラスに自衛したり(「追い剥ぎよけの妙案」「すわりこみ撃退法」)、お互い命がけの交渉をする場合もある(「人質を取った盗人戸に源頼信」)。盗賊側が主人公のものでは「袴垂」のように個人で有名な盗賊や、「つり鐘どろぼう」のように敵ながら大仕掛けさには舌を巻くしか無いお話も。
     もののけや幽霊も身近な存在だった。「赤ん坊を抱いた女」は幽霊退治なのだろうが物悲しさも感じる。「妖しい杉の木」「真夜中の葬式」「古い空き家の怪」などは、化かす動物や幽霊は怖い存在だろうけれど、現在となっては化ける狐や狸なんてかわいいじゃないかーという気もちょっとする(笑)
     役人のセコさ「欲深信濃守」、職人の意地「腕比べ」、信心よりも現世の欲の強い僧侶「毒殺計画の失敗」、貧しい者が今で言う偽装表記でクラス「干し魚を売る女」など、色々な階層の人物が、称賛されたり呆れられたり。この当たりの庶民の生き方は今でも十分にわかるところだ。

  • 全31巻。1059もの説話が入っているという今昔物語集からの、中学生向けにまとめられたもので、全部で39話。
    芥川龍之介の「鼻」や「芋粥」「羅生門」「六の宮の姫君」などの原型がこちらで読める。
    これは何としても芥川作品を再読したいところ。
    一読したところでは、こちらの方がはるかに面白いように思える。元の話が持つ時代臭が濃厚で、生々しさも上回っている。

    それはそれはバラエティ豊かで、命知らずの武士の話や大泥棒の話、清々しいますらおぶりの武士もあれば怪力の僧侶の話、手におえない乱暴者が登場したり薄気味の悪いお話もあったり。
    開いた口が塞がらないほどの欲深な国守も出てくるし、用意周到な泥棒の話もある。
    興味深いのは、「おとぎ草子」で「大江山の酒呑童子」を退治した源頼光の兄弟である源頼信や、頼光の四天王と言われた郎等も登場して、これがまたすこぶる小気味の良いお話だったりする。

    生き生きとした描写は、「源氏物語」や「枕草子」などの貴族中心の文学とはまるで違い、「今は昔」どころか「昔は今」と言いたくなるほどお話が身近に感じられる。
    どれほど時を経ても、人間の営みはさほど変わらないものだとつくづく思わせられる。
    「もののあわれ」だの「優美・優雅」などは知ったことではない。
    悲惨で残酷な世の中を生き抜く滑稽さは、現代にそのまま通じるではないか。
    庶民はいつもずる賢くしたたかで、俗塵にまみれている。

    思わず笑ったのは、頼光とともに勇名をとどろかせた豪傑たち3名が、物見遊山で都に出たものの牛車の中でさんざんな目に遭ったという話。
    このお話の頃は、武士はまだ田舎者に過ぎなかったというのがよく分かる。
    (知らないことは間違って当たり前なのにね。それを笑うなんて・・・イケズやわぁ)
    39話ではちと物足りないので、もっと読むことにしよう。

  • 『今昔物語集』は、原文では部分的にしか読んだことはない。
    定番だけど、芥川龍之介の翻案もの、それから田辺聖子のアンソロジーなどで親しんできた。
    本書は杉浦明平のリライト。
    若い読者をターゲットにしたレーベルだからか、痛快で勢いのある話が多い。
    怪力坊主実印僧都の話とか、狐や鬼と渡り合う話はもちろんだけれど、稲荷詣でで妻に浮気をとっちめられる重方の話や三豪傑が牛車に酔ってしまう話は、(お下品だけど)文句なく楽しい。

    田辺聖子のだと、親子関係の話や信心の話の印象が強かったのだけど…このあたりが編集の妙なのかも。
    編者の個性が見えて面白い。

  • 今昔物語ってどんなお話なんだろう…?
    という方にオススメ!

    現代文になっているのでとっても読みやすい!

    現代の私たちから見ると「こんなオチってアリ?」っていうことも多々あるけど、そこがまたおもしろい!

  • 平安時代に編まれた全31巻、1059話の大書「今昔物語集」の中から、厳選された物語が収められています  実際の「今昔物語」の方は仏教説話がかなりの量を占めるそうなのですが、この少年文庫版では仏教説話はほんの少しで、武士が活躍する話、庶民の生活の話、泥棒の話、ちょっと怪談調の物の怪やら幽霊やらが出てくる話と硬軟織り交ぜた物語集になっていて楽しむことができます。

    この本の中にも「キツネにだまされた日本人」の話が複数話収録されていて、それを読むにつけても「日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか」(内山節)という本のことを思い出します。  KiKi 自身、人間がキツネにだまされるな~んていうのは子供騙しのおとぎ話の世界のこと・・・・と考えて過ごしてきた時代が長いんだけど、こうやって昔話で語り継がれてきた「馬鹿しキツネの物語」を読み返してみると、だますキツネもだまされた(と考えている)人間もどこか大らかで、「嘘っぱち」と切り捨ててしまうにはあまりにも生き生きとしていて、「一度でいいから騙されてみたい・・・・」とさえ感じてしまいます(笑)。

  • 今昔物語集より、「成人用の話」でない39編を、原典に沿って現代語訳した本。短い話なので、ただ読むだけでも十分に、独特の面白みが味わえるが、それ以上に高校受験を意識し始めた方々には一推し。受験の古典部で用いられる説話や小噺の、あのヤマやオチがあるんだかないんだかよくわからない雰囲気に慣れるには打ってつけの1冊だ。また、芥川龍之介が主題をとったあの話も収録されているので、次には同シリーズから『羅生門 杜子春』を是非手に取って欲しい。

  • 「大どろぼうの話、いもがゆの話、大きな鼻の和尚さんの話、命知らずの武士の話、きつねや化け物との知恵くらべ…。「今は昔」と語りつがれ、平安時代の人びとの生活と心をいきいきと伝える『今昔物語集』から、ふしぎで面白い39話。中学以上。」

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