凍てつく海のむこうに

  • 岩波書店
4.24
  • (14)
  • (13)
  • (6)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 161
感想 : 22
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001160123

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 1945年1月ドイツ領下の東プロイセン。医者の助手をしていた21歳のリトアニア人、ヨアーナは、他14人の避難民とともにバルト海経由でドイツを目指していた。東プロイセン人でナチス政権下で絵画の修復をしていた若者フローリアンは、負傷しながらも大事なリュックをもって逃亡中。東プロイセンの農場に疎開していた15歳の少女エミリアは、コートの中に痛みと恥を隠して逃げていた。ヒトラーの熱狂的な信者17歳のアルフレッドは、水兵として避難船ヴィルヘルム・グストロフでの任に就く。

    フローリアンはエミリアがソ連兵に襲われるところを助け、その後ヨアーナたちのグループと会った際に、彼女の外科手術により助けられる。一人で行動したがっていた彼だが、やがて彼女らと行動を共にすることに。ソ連の爆撃に遭いながら、仲間を失いながらも、バルト海を目指し、その向こうにあるドイツを目指して進んでいくが……。

    第2次大戦末期の東プロイセンとバルト海を舞台に、自由を手に入れようともがく4人の若者たちの姿を、それぞれの語りで描くフィクション。






    *******ここからはネタバレ*******

    避難を続ける3人の、あまりに悲惨な状況に胸が痛みます。船に乗れた時、もう歩かなくてもいいし、寒い思いもしなくていいと安心しましたが、タイトルが「凍てつく海の……」ですから、まさかここまでと思うところまで追い詰められていきます。
    でもこれが、現実なんですね。

    救いは、ヨアーナとフローリアンとのロマンス。お互い素性もわからない中に魅かれていく姿は美しい。

    タイタニックやルシタニアほどは知られていないながらも、海運史上最も悲惨な出来事であるヴィルヘルム・グストロフの悲劇は、5千人の子どもたちを含む9千人の人たちが犠牲になったと言われています。

    「失われた物語の探求者」である作者は、「灰色の地平線のかなたに」でデビューしたルータ・セペティス。この主人公リナもリトアニア人でした。
    ヨアーナは、このリナの従妹。「絵の上手なリトアニアの女の子」を描かれたところで、あーなんかこんな話があったなぁと思い出していたら、まさに彼女のことだったんですね。

    児童書として出されていますが、主人公は21歳。大人の読書にも十分耐えます。

  • 第二次世界大戦末期、ソ連軍が侵攻する東プロイセンから市民をバルト海に逃す「ハンニバル作戦」を題材にしたヤングアダルト向き小説。立場も状況も違う4人の若者の視点入れ替えながら物語が進行する。史実を基にしたフィクションだけど、取材を基に徹底したリアリティで描かれている。
    自分がこんな状況に陥ったら、すぐ死ぬだろうなー(^_^;)と思いながら、登場人物たちの強さ、たくましさ、儚さに胸を打たれます。人間てどうしようもないくらい愚かで、でも強くて、美しい。
    私は戦争や貧困、差別を題材にした文学が好きで、それってどういうことなんだろう?かわいそうな人たちに比べて自分は恵まれてるって思いたいだけ??と自問してみたけど、結局、人間の愚かさ、弱さ、儚さを愛おしいと思うと同時に、人間は強く、美しいってことを感じたいからなのだと思う。自分も頑張って生きなくては、と思う。

  • ナチスドイツ占領下の悲しくも生きることに精一杯な人々の声。
    戦争で失うものの1つにある理性を考えさせられる作品です。

  • 読んでいて、つらい、苦しい、寒い。。。

    戦争は、人々の愛する人、愛する物、愛する暮し、全ての愛するものを奪う。庇護されるべき年代をも無惨に傷つける。

    これまでの戦争小説との大きな違いは、あくまで子どもやティーンエイジャーの側に立っている点ではないか。
    つぶさに調べあげる調査力と、それをこのようなフィクションに仕立てる構成力、そして弱者の側に立つ強く柔らかな作者の視点。知られることなく歴史の谷間に埋められたたくさんの大切な命への鎮魂歌のようである。

    今年も終わり近くになって滑り込んできたベスト10当確作品。

  • (╹◡╹)

  • 登場人物4人の視点をスイッチしながら、描かれている。最初は掴めず、迷子になりそうだった。でも、そこはヤング向けだからか、ややこしくならずにうまく描き分けていると感じた。慣れてくると、その視点の変化が臨場感にもスピード感にもなって、どんどん読み進められた。
    戦争は全ての人を傷つける。そう思い起こす作品だった。

  • ソ連軍の侵攻が始まるなか、東プロイセンから避難する人々のなか、外科の助手をしていたヨアーナは同じ目的地を目指す人たち数人と行動を共にしていた。そこへポーランド人の少女エミリアを道ずれにしたプロイセン人の青年が加わる。
    もう一人ヒトラーの言葉に心酔しているドイツ人アルフレッドとあわせて四人の視点が交互に語られ物語が進んでいく。
    それぞれが抱えている心の痛み、秘密は何なのか、無事に目的地につけたとしてその先はどうなるのか、最後まで一気に読んでしまった。
    目の見えない少女イングリットや優しくて強い靴職人の老人など、それぞれの登場人物もとても魅力的だった。

ルータ・セペティスの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×