水道民営化で水はどうなるのか (岩波ブックレット NO. 1004)

著者 :
  • 岩波書店
3.28
  • (1)
  • (6)
  • (8)
  • (3)
  • (0)
本棚登録 : 97
感想 : 14
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (72ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784002710044

作品紹介・あらすじ

安心・安全・安価な水――.水道水の「当たり前」は,もう通用しない.水道管は老朽化し,人口は減少.民間企業の水道事業参入で水はどうなるのか.基本知識,「民営化」の懸念,持続可能な実践例などをわかりやすく説明する.

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 令和元年10月1日より改正水道法が施行される(水道法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令)。
    本改正により従来型PFIとは異なるコンセッション方式を自治体が採用出来るようになるという。
    マスメディアでは控えめな報道しかされず、いつしか全く騒がれなくなった。報道によれば、海外では日本に先んじて民間への水道事業運営権譲渡が進められたが、近時、水質悪化、水道料金の高騰など、民間移譲によるデメリットが顕在化し、再公営化に転じているという。
    一住民として、改正法により、自分の住む町の水道事業がこれからも安全かつ安価に供給され続けるのか心配になった。そのためとても気になっていたが、水道法改正によって何がどう変化するのかは、表立った報道が止んで以降、あまり追加情報を得る機会がなかった(※厚生労働省の下記のサイトはあるが。)。
    この小冊子は、ページ数が少なく平易な文章であることから、誰でも手軽に読める。その上で、簡単な水道事業に纏わる基礎情報を分かりやすく整理して、提供してくれている。本冊子は水道事業の未来を考えるための幾つかの視点を学ばせてくれる。また、著者は水道法改正に対する極端で一方的な賛成、反対論を取らず、地域の住民自身に自ら考えさせるような文章に徹するよう努めているように感じられるため、とても良かった。


    厚生労働省の改正水道法に関するサイト
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/suido/suishitsu/index_00001.html

  • 【紙の本】金城学院大学図書館の検索はこちら↓https://opc.kinjo-u.ac.jp/

  • 桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPAC↓
    https://indus.andrew.ac.jp/opac/book/629129

  • 水道法改正以後の水道のあるべき姿について。イギリスやアルゼンチンで進んだ水道民営化が失敗に終わったという認識の下で、2018年12月の改正水道法で導入されたコンセッション方式をどのように運営すべきかということが中心になっている。また、人口減少時代では水道代の上昇は避けられないため、必要に応じて既存設備投資計画の中止も視野に入れるべきとの著者の提言もなされている。

    第一章では日本における、近代水道事業の歴史について触れられている。明治時代の1887年10月に横浜で水道が開業してから、1890年の水道条例によって、水道は衛生目的のために公営事業として行われることが2018年改正水道法までの日本の水道行政の指針だったことが強調されている(8-9頁)。戦後、1957年に厚生省(現厚生労働省)が水道法原案を作成し、同年成立したことにより、上水道を厚生省、下水道を建設省(現国土交通省)、工業用水を通商産業省(現経済産業省)が所管する体制が成立したとのこと(9頁)。

    第二章では、著者は2018年12月に成立した改正水道法について、「どのような社会を作っていくのか」というヴィジョンが不明瞭であったことと、著者自身は、時の安倍政権が進めようとしていた「公から民へ・小さな政府」という流れに反対していることを述べている(10-12頁)。

    著者はさらに、この改正水道法でコンセッション方式が認められたことについて、実質的な水道の運営責任が自治体から企業に移るため、自治体に水道事業に精通した職員がいなくなる可能性を懸念している(20頁)。また、このコンセッション方式が、2013年にアベノミクス第三の矢として、竹中平蔵氏の「水道事業のコンセッションを実現できれば企業の成長戦略と資産市場の活性化の双方に大きく貢献する」(本書21頁より引用)という言葉と共に政府によって推進されていることを強調している(21頁)。

    第三章(25-34頁)ではイギリスのサッチャー政権によって1989年に水道民営化が実施されたことを嚆矢に、フランスやアルゼンチンでも民営化された水道が、イギリスでは経営に大きな問題が生じており、フランスとアルゼンチンでは双方ともに21世紀初頭に再公有化されたことを論じている。

    イギリスの水道民営化の問題点は、水道事業の利益が役員報酬と株主配当に費やされていることである(26-27頁)。

    “……保守党のマイ(←26頁27頁→)ケル・ゴーブ環境相は、「九つの大手水道会社は二〇〇七年から二〇一六年の間に一八一億ポンド(約二兆六二〇〇億円)の配当金を支払ったが、税引後の利益合計は同期間に一八八億ポンド(約二兆七三〇〇億円)であった」といい、水道事業会社は巨額の利益を上げているにもかかわらず、そのほとんどを株主配当と幹部の給与に費やし、税金を支払っていないと指摘しました。
     たとえば、ユナイテッド・ユーティリティー社のCEOの報酬は年間二八〇万ポンド(約四億六〇〇万円)、セバン・トレント社のCEOの報酬は年間二四二万ポンド(約三億五〇〇〇万円)などです。
     さらに「水道事業会社は収益を保証して独占運営する見返りに、経営を透明にし、責任を負わなければならない」と述べ、水道事業会社のガバナンス強化を「オフワット」のジョンソン・コックス議長に求めました。”(本書26-27頁より引用)。

    また、アルゼンチン水道の民営化については、IMF、世界銀行、アメリカ合衆国からの強い要請の中で行われたものが、市民の反対運動を受けて2006年にネストル・キルチネル大統領によって再公有化されたことが述べられている(30-31頁)。

    “ 二〇〇六年、アルゼンチン政府は、民間企業に譲った水道事業を運営する権利を取り消すと発表しました。キルチネル大統領は、「水が国民の手に戻った。再び社会の財産になった」と強調しました。その後、水道事業は公営に戻っています。”(本書31頁より引用)

    ネストル・キルチネルは自身が学生だった軍事政権時代、軍事政権と戦うゲリラ組織モントネーロスのシンパだったということを述べていたが、そのような経歴を含めて、功罪について賛否は両論ながらも、やはり人民の大統領だったということなのだろう。

    第四章、第五章、第六章は改正水道法下の水道の運用方法についての著者の分析と提言となっている。私はこの分野については無知ながらも、以下の提言には真摯に耳を傾けなければならないと感じた。

    “ いま必要なのはダウンサイジングです。施設を減らしたり、小さくすることです。人口減少に直面する地方ほどダウンサイジングが急務ですが、都市部でも無縁な話ではありません。節水が(←35頁36頁→)浸透し、東京都水道局の料金収入は一〇年前から一三〇億円減っています。東京でも近い将来の人口減が予測されていますから、無用なダム建設などは今からやめるべきです。
     水道は装置産業です。多額の固定費がかかっています。現有施設を有効活用すること、大事に長く使うこと、無駄な設備を廃止していくこと、計画中の施設でも今後有効に使えないなら中止にすることです。”(本書35-36頁より引用)

  •  時々、TVニュース等で水道管の老朽化により破損し水道水が噴き出し道路が陥没する事故が見られます。水道の普及率は98%でほぼ全ての国民が水道水の恩恵を受けてます。

     その水道が設備の老朽化と人口減少により料金の高騰や料金格差がこれから社会問題となり得ます。

     水道管の整備には、キロ当たり1〜2億円程度掛かるといわれ、現在の全国の水道管を整備するのにこのままだと130年掛かるとも言われてます。

     本書のタイトルである、水道事業の民営化ですが欧米等の諸外国では民営化したものの
    利益分配が不透明とか値上げが頻繁に実施され利用出来なくなる等、様々な問題が発生し再と公共事業に戻すという事例も多い。
     
     また、水道水は個人宅の消費だけでなく様々な産業に利用されて居り、水の価格や品質については消費者である我々にもはね返ってくる問題だ。

     本書の提案は、コミニュティ規模に応じた施設の構築や地下水、雨水等の利用、水道管理の広域化による効率化などだ。いずれにせよ真面目に考え行動しないと近い将来大きな問題になる事は間違いない。

  • 開発目標6:安全な水とトイレを世界中に
    摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB50153058

  • 「水道、再び公営化!」に続いて読む。内容はおおむね共通するので事実確認にも良かった。

    貧しい債務国に対し、世界銀行、IMF、欧州中央銀行と欧州委員会やアメリカが、融資の条件として民営化を求める。それに水道が含まれている。という図式が世界のあちこちで見られている。

  • ■一橋大学所在情報(HERMES-catalogへのリンク)
    【書籍】
    https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/1001144924

  • 飲用可能な水がいつでも蛇口から日本では水のありがたさを忘れてしまいそうになる。世界に目を向けると水が争いの原因になるケースが増えているらしい。
    日本ではインフラの老朽化が進んでおりマスコミにも取り上げられることがあるが、上下水道施設も例外ではない。人口減及び一人当たりの水使用量減により水道料金の増収は見込めない中で水道設備のメンテナンスは大きな負担になる。
    とかく「安くおいしい水」が正義のように語ってしまいがちだが問題は根深い。
    日本でも水道民営化が具体化されようとしている。この本が示しているように、水道の現況と課題について市民が自分事として考えねばならない時が来ていることに気づかされる。

  • 2019年7月5日(金)に龍谷大学図書館深草で借りる。

全14件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

学習院大学文学部卒業。出版社勤務の後、ジャーナリストとして独立。アクアスフィア代表。国内外の水問題とその解決方法を取材し、発信。国や自治体への水対策の提言、子どもや一般市民を対象とする講演活動も行う。現在、参議院第一特別調査室客員調査員(水問題)、東京学芸大学客員准教授、NPO法人地域水道支援センター理事、日本水フォーラム節水リーダー、ウォーターエイドジャパン理事。著書に『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)『水は誰のものか』(イマジン出版)『67億人の水』(日本経済新聞出版社)ほか多数。

「2014年 『通読できてよくわかる 水の科学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

橋本淳司の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×