- Amazon.co.jp ・本 (303ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003104286
作品紹介・あらすじ
絶対の存在であった文学上の師鴎外の死に続き、「わが青春の夢もまた消えにけり」という痛恨事、関東大震災が荷風を襲った。翌年、45歳の荷風は、幼い一時期を過ごした下谷の家、そこに住んだ母方の祖父鷲津毅堂やその周辺の、時代の潮流に背を向けた幕末維新の漢詩壇の人々を、大きな共感をもって描く。
感想・レビュー・書評
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1926(大正15)年作。
荷風の小説の中ではかなり異色作。
荷風にとって文学における生涯の師と仰いだ森鴎外が亡くなったのは1922(大正11)年7月9日。翌年『渋江抽斎』(1916)を読んでひどく感銘を受けたらしいのが、『断腸亭日乗』に見える。その2ヶ月後には自身の母方の祖父に当たる鷲津毅堂の伝記を書こうと思い立つ。
そうして生まれた本書は、その書き方からしてほとんど鴎外の『渋江抽斎』の模倣と言って良い。荷風の小説にしてはかなりいかめしい文体で、『日乗』に見られるような漢語が頻出する。特に江戸後期の漢詩人たちを描いているので、彼らの漢詩漢文が大量に引用されるのである。
岩波書店の荷風全集は基本的に注記が無いので、これで本作を読むのは私には無理があった。そこで岩波文庫版で読んだのだが、これは漢詩漢文のあとに注として読み下し文が挿入されている。それでも、漢語の意味がしばしば分からない。もう今の世代は漢文が苦手なのだから、ここは更に詳しい注記を添えてほしかった。
そんな訳で苦労する読書だったが、作品自体、やはり鴎外の二番煎じという感を否めない。師をそのまま真似してたら師を超えられないだろう。が、これも荷風にとって重要な作品であったらしく、史実に即すため1950(昭和25)年に至るまで何度も何度も改訂を施している。
むしろ荷風の随筆にしばしば現れる漢文趣味が如実に全編にわたって呈示された本書は、やはり私には馴染みにくいものがあった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
13/11/03、神保町・長島書店で購入(古本)。