- Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003108130
作品紹介・あらすじ
頑なに無為徒食に生きて来た主人公島村は、半年ぶりに雪深い温泉町を訪ね、芸者になった駒子と再会し、「悲しいほど美しい声」の葉子と出会う。人の世の哀しさと美しさを描いて日本近代小説屈指の名作に数えられる、川端康成の代表作。
感想・レビュー・書評
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初めて「雪国」を読んだのは高校生の頃。
当時は芸者と高等遊民とのだらだらしたやり取りや、しょせん芸者遊びを描いただけの哲学的慧眼も起きない薄っぺらい内容だろ、とも考え嫌悪感を感じた。こんなものが日本の代表作として海外等で取り上げられていいのか、と。
その後年月を経て、私も少しは人生経験を積み、川端がこの作品を書いていた年齢(30代後半)になって、改めて再読した。
正直に言うと、印象はかなり変わった。
特に私が引き込まれたのは、島村が初秋に温泉街を再々訪して以降の展開。紅葉の頃を迎えて木々が色づき、虫の声が高まって次第に小さくなり、やがて山の上から雪化粧が始まり、初雪を迎え、冬の冷たさが広がっていく… それらの風景の変化に呼応するように、島村や芸者の駒子の心象や距離感も微妙に変化していく…
初読時はだらだらした描写にしか思えなかったのが、一文一文の深い“あや”が一つの織物を織り上げるように場面を構成しているのに(今さらながら)気づき始めた。
一つの織り目だけを凝視していては、布としてもつ“やわらかい感覚”は見えてこない。言葉を追うだけではダメで、言葉のもつ“まわり”の感覚を汲む、ということだろうか。したがって、言葉の字面の意味しか教わっていない高校生では完全読解は難しく、その語彙の“周囲”を読み解く力(人間的成長とも言おうか)が求められるのだろう。
それにしても私の高校時代の第一印象、今読むと青臭いですねー。
この作品は何回も読むことで印象が深まる小説。だから初読時の印象が悪かった人も、しばらく置いてからの再読をお勧めします。
私も新たな発見を求めて、さらに十年くらい置いてから再々読しようと考えています。
(2008/1/18) -
ノーベル賞作家の作品をとやかく言う資格はないけど、各々のシーンの景色や心情の描写は流石素晴らしい。全体の構成がちょっとちぐはぐな感じがするのは、この作品の成り立ちから言って仕方がないのだろうか。
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主語、目的語、時間経過、場所の変化、などいろんなものが省略されているので、ちょくちょく戻らないと筋が追えんかった。。
最後の方の、『いい女だ』と、言われて駒子が怒る場面がよく分からず、ネットで調べていろんな説があることを知った。自分の想像が定説のようではあった。
P32
しいんと静けさが鳴っていた。
シーン、という擬音語は手塚治虫の発明と昔テレビでやってたけどウソだったんやな。。 -
作者あとがきにある「日本の国の外で日本人に読まれた時に懐郷の情を一入(ひとしお)そそるらしい」というのは、まさにこの作品が支持される理由の筆頭なんだと思う。
私は東京生まれ東京育ちだけど、『雪国』の情景に何故かノスタルジーを掻き立てられて、懐かしいような切ないような悲しいような、そんな気分にさせられた。そういう、田舎育ちの人も都会育ちの人も、老いも若きも、日本人が心のどこかに持っている「ふるさと」という概念を美しく描き出し、懐郷の思いを揺さぶる作品であるからこそ、多くの人々の心を強く打ってきたんだと思う。
他の川端作品と同じようにストーリーは特になく、ただ、一瞬一瞬の情景の美しさ、感情の美しさを切り出して、絵画のように描き出してる。
ストーリーを追おうとするとそっち方面の情報量が少なすぎて大変なので、話の状況把握に労力を割くよりも、そのページのそのシーンをそのまま映画のワンシーンを見るように楽しむのが一番良いのかな、と思う。 -
本を美しいと感じたのは初めて、
風景描写が美しい。
このような感受性に鳥肌が立つ
絵の世界のようであり、現実感も漂わせる。
景色に心動かされ悠々自適に暮らす島村、
めいいっぱいに雪国に生きる駒子、
二人のギャップとしんしんと流れる雪国の時間が物語を形作る。 -
駒子も島村も水面下ギリギリのところで何かを堪えているようなところが歯痒かった。
20代のころに読んだ『伊豆の踊り子』はよくわからなかったが、今作は感じるところがいろいろとあった。歳をとったからなのかも。『伊豆の踊り子』読み直そうかしらん。 -
列車の窓に映る葉子や、窓の外を流れていく風景、鏡に映る駒子、火事場の炎など、目に浮かぶような視覚的な描写が印象的。会話は、噛みあっていないようで実はつながっているらしい。
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初めは古臭い物語と思って読み進めていたが、何気ない出来事の連続に引き込まれていき最後の火事で大団円になり、物語は終わった。やはり日本文学としての傑作だと思う。
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なんと寂しい話だろうかと思った。
この物語に登場する人物は皆どこか空虚でそして、それをどこか受け入れていて、諦めている。すべては「徒労」で、秋に死んでいく虫たちのような心境で生きているように感じた。
豊かで美しい情景の描写が、人物の寂寞とした心象を浮き彫りにして、ゾクゾクと迫ってくるものがある。
巻末に川端康成の略年譜が載っていた。
彼は幼くして家族を次々となくして孤独な子ども時代を送っている、そして72歳になって自殺。
ノーベル賞をとった偉人として知られているが、つらい人生だったのかもしれない。