八月の光(上) (岩波文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003232385

作品紹介・あらすじ

「あたし、アラバマから来たんだ。すごく遠くまで」自分を棄てた男を追って、ひとり旅する娘。白人か黒人か、自らの血に苦しむ孤児院育ちの男。狂信者として排斥された元牧師。相容れぬはずの三つの物語が、運命に導かれ、南部の田舎町で邂逅する。

感想・レビュー・書評

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  • 『アブサロム、アブサロム!』があまりにも面白くてヨクナパトーファ・サーガを制覇しようと『響きと怒り』までは読んだのに何故かその後この『八月の光』を読もうと思わないままはや数年、岩波文庫から新訳で出たので「そうだ、まだ読んでなかった」と急に思い出し今更手に取りました。やっぱりフォークナーはいいなあ。登場人物を掘り下げるのに性格ではなく祖父母のルーツから語りだされる回りくどさ、にも関わらずいつもとても面白いと思ってしまう。この文体の魅力はいったいなんなんだろう。

    さて本作も主要舞台はヨクナパトーファ郡ジェファソン。しかし主要人物のほとんどはこの町に流れついた余所者なので、他の作品と共通の登場人物はほぼいない(と思う)。アラバマからリーナという女性がやってくるところから物語は始まる。リーナは妊娠しており、自分の夫となるはずのルーカス・バーチという流れ者の男を探している。第三者が話を聞く限り、その男が自分が妊娠させた女性に対して責任を取るつもりがあるとは到底思えず、嘘をついて女から逃げたことは一目瞭然なのだけれど、もはや暴力的なまでに純粋で愚かなリーナは、ルーカスの嘘を信じ、彼を追い続けている。そんな彼女に皆親切にせずにはいられない。ルーカス・バーチと名前が似ているためリーナに間違えられたバイロン・バンチという男もその一人。真面目で誠実だけれど非モテの彼はリーナに一目惚れ。彼女の力になろうとするが、どうやらルーカスと思しき人物ブラウンは、クリスマスという名の怪しい男と犯罪にかかわっており、ある女性が殺され屋敷は炎上、ブラウンは逮捕される。

    ここまでは実はほんの序章。ここから時間を遡り、クリスマスに孤児院の前に捨てられていたジョー・クリスマスという男の、すさんだ生い立ちが上巻のほとんどを占めている。出生は不明ながら黒人の血が半分流れているかもしれないクリスマスの孤独と劣等感、南北戦争は終わっているけれど南部ではまだ黒人差別は激しい。孤児院時代のトラウマ、養子先の両親マッケカーン夫妻との確執、年上のウエイトレス・ボビーとの恋愛と破滅、そして流れ流れて辿りついたジェファソンでの、ミス・バーデンとのいびつな恋愛関係。母親のような年齢の女性ばかり好きになるクリスマスは一種のマザコンでありながら、無償の愛を注がれると疎ましくなる反抗期の少年のような精神を脱しきれない。こんな生易しい言葉で言い表したくないけれど、とても「かわいそう」だ。

  • William C. Faulkner(1897-1962)

    ヘミングウェイと並び称される20世紀のアメリカ文学の巨匠であり、南部アメリカの因習的な世界を様々な実験的
    手法で描いた。『サンクチュアリ』『八月の光』『アブサロム、アブサロム!』など、1949年ノーベル文学賞受賞
    ミシシッピ州の田舎町に4人兄弟の長男として生まれる。祖父母ウィリアム・クラークは弁護士として名を挙げ、南
    北戦争の際には義勇軍の隊長として出征。戦後は弁護士の傍ら、事業や議会に進出し、小説も書くなど、幼いフォ
    ークナーの尊敬の的だった。ロストジェネレーションの作家である。

  • 身重の世間知らずな女性が自分を捨てた夫となるべき男を追って旅に出た。そんな話かと思っていた。ロマンス小説かと。
    全然深い。
    主人公は出生を呪われた私生児。彼のモノローグの間に絶望と人間への希望が交差する。人種差別と禁酒法の時代にテーマも重苦しいが読後感は意外と爽やかだ。
    それは一番辛いはずのリーナが人生を肯定的に捉えていること。
    カポーティの冷血を思い出した。
    知る限りフォークナーの最高傑作だ。

  • 上下巻、共に読んだ。土地の空気や、血縁といったものを意識した評価が多い印象こそあるのだが、私の中ではフォークナーは、ジェイムズ・ジョイスや安部公房に近い印象がある。Wikipediaなどを見ていると中上健次や大江健三郎、阿部和重など錚々たる顔ぶれに影響を与えたということもあって、血の作家、南部の作家として読む人が多い印象があるが、私の中では完全に「意識の流れ」の作家である。ヨクナパトーファの土地のシリーズもので作品を作ってはいるものの、ヨクナパトーファ自体は架空の土地で、その架空の世界を舞台に物語が展開していくというこの世界観の作り込み方は、『皇国の守護者』にも比すべき、現代のファンタジーやSFの世界観の作り込みに近いものを感じた。

  • 差別(という言葉を言ったり書いたりする事自体)が嫌いな私にとっては非常に苦痛な一冊だった。
    これが当時アメリカで行われていた黒人差別の空気なのか。
    絶望感もなく虚無感さえなく、ただただ当然の様な雰囲気が漂う。
    今では誰も口にしない古く汚い言葉が頻出するので感覚がおかしくなりそうだった。
    日本にいる自分にはあまりに隔絶されている世界だと感じた。
    注47の「ミシシッピ州では、蛍は四月頃からあらわれる」が何となく頭に残った。
    ウェイトレスの女の口癖? である「ほらほら」(それと誰かの「あらあら」)が何を言いたいのか理解できない。
    これはどのような結末になるのか想像ができない。
    結局何もかも事態は好転しないのではないのだろうか。
    と思ってしまう位のどうしようもない物語だった。

  • ↓貸出状況確認はこちら↓
    https://opac2.lib.nara-wu.ac.jp/webopac/BB00234620

  • アメリカ南部の黒人の血が重苦しく漂っているような感じがする。これからどのような展開が繰り広げられるのか、まだ先は長そうだ。

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著者プロフィール

一八九七年アメリカ合衆国ミシシッピー州生まれ。第一次大戦で英国空軍に参加し、除隊後ミシシッピー大学に入学するが退学。職業を転々とする。地方紙への寄稿から小説を書きはじめ、『響きと怒り』(一九二九年)以降、『サンクチュアリ』『八月の光』などの問題作を発表。米国を代表する作家の一人となる。五〇年にノーベル文学賞を受賞。一九六二年死去。

「2022年 『エミリーに薔薇を』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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