無垢の時代 (岩波文庫 赤345-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (588ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003234518

作品紹介・あらすじ

一八七〇年代初頭、ある一月の宵。純真で貞淑なメイとの婚約発表を間近に控えたニューランドは、社交界の人々が集う歌劇場で、幼なじみのエレンに再会する――。二人の女性の間で揺れ惑う青年の姿を通じて、伝統と変化の対立の只中にある〈オールド・ニューヨーク〉の社会を鮮やかに描き出す。ピューリッツァー賞受賞。

感想・レビュー・書評

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    無垢の時代 - 岩波書店
    https://www.iwanami.co.jp/book/b626366.html

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    ソフィア・コッポラがイーディス・ウォートンの小説をテレビドラマ化|ハーパーズ バザー(Harper's BAZAAR)公式
    https://www.harpersbazaar.com/jp/culture/tv-movie/a32705521/sofia-coppola-custom-of-the-country-edith-wharton-apple-tv-200529-lift3/

  • 書き出しがすばらしい。映画の歴史大作を思わせ、まるで壮大なオペラの幕開けのようだ。しかしそれからしばらくは、19世紀後半のニューヨークの時代背景や、上流階級でのみ通じる複雑なしきたりや人間関係を詳細に描こうとするあまり、私たち現代人からすると退屈ともとられかねず、読み飛ばしたい衝動に駆られるかもしれない。

    だが、そんな読むのに忍耐が必要な描写が続くのは第一部の最後から1つ前の章の第17章まで。そこまでは何とか読み進めてほしい。なぜなら第18章以降、主人公ニューランドとエレン・オレンスカ伯爵夫人の2人が織りなす物語は、ラヴェルのボレロのようにクレッシェンドしていくからだ。
    それは私たちが思い描くような姿での恋とは言い表せられない。同様に愛とも言い難い。だが2人が第18章でお互いの心のうちを告白し合い、その後出会うたびに深められてゆく思慕の念は確かに恋であり愛だと言えるだろう。ただそれらは私たちの通俗的な想像をはるかに越えた姿かたちをしているがゆえに、そう簡単には読み解けないだけだ。
    そうは言うものの、本書の新しい訳文は現代的な言い回しで占められ、(本当にその訳文で原文の本意を満たしているのかという議論はあるが、)500ページ以上というボリュームの岩波文庫としては比較的読み進みやすいはず。

    そして本編最後のページである550ページ目。この物語の最後の2行によって語られるニューランドの行動は、ここまで読み進めてきた読者の期待とまったく正反対のものだろう。しかし彼にとってはこの結末以外は絶対にありえない珠玉のものだ。
    この2行の真意、つまりなぜニューランドがそのような行動をとったのかを理解できるかどうかが、読者自身が人生を味わい深く過ごしてきたかどうかの指標ともなりうるのではないか。まるで自分の人生の密度や深淵さを見積られるようで恐ろしい。だが彼の行動は他人の目や財産やしがらみといった外的要因から一切離隔されており、読者自身に対して自由で正直でinnocenceな生き方をしているかを問いかけているようでもある。

  • 才気溢れ魅力的な妻の従姉妹エレンに惚れるも、退屈な妻メイの巧みな策略と社会規範によって阻まれる話、に見えるのだが、男(ニューランド)側の視点から描かれているのがポイント。美人だが凡庸で頭が悪い、と夫は思っており新婚早々に愛想を尽かすが、裏からはメイの辛抱強さや賢明さが透けて見える。夫とは離婚したというイーディス・ウォートンも必ずやそういう意図で書いているだろう。昔の上流階級がいかにお上品かつ因習に囚われていたかという点も本書の主眼ではあるが、今なら男の軽薄さと愚かさでさっさと二人から愛想を尽かされそう。

  • まだ途中だが、ニューヨーク上流階級の話。これは映画化されたのち原作として読むと面白いやつかも。
    …そして読み終わった。
    そしてスコセッシ(いつも苦手な作品の監督なのだが)がすでに映画化してたとことに気づいた。
    アメリカの歴史があまりにわかってないから、スコセッシの作品もピンとこないのかなー。とこの本を読んで思い当たった。


    1870年代のニューヨークがこんなに「保守的」であったとは。アメリカの歴史をあまりわかっていない為、こんなにも「自分たち」の様式に執着し「自分たち」と「そうでないもの」を意識するとは、と少し驚く。とりわけヨーロッパとアメリカは違う(もちろん違うのだけど)と言うのが興味深い。
    上流階級の人たちの話だから「自分たち」に籠る傾向があるのは理解はできるが。

    ニューランドは「ヨーロッパ的」なエレンに惹かれ自由を希求し、「女性も我々男性と同様自由であるべきだと思います」なのだが、生まれた環境の色々を窮屈と思い同時に良いものだとも思う。
    妻のメイは、そこから出ることなど考えたこともないけれどエレンの魅力はわかる、でもエレンは離婚すべきでないと考える。ニューランドがそうしたいなら、彼が一番好きな人を選ぶのも
    ニューランドを愛しているからそれでよい、とまで思いつめる(でもその時にはその女性がエレンとはわかっていなかったはず)純粋な心はもっていても、「成長(ニューランドの言葉)」は望めないメイ。

    最後の章でいきなり30年がたち、前半で話題にされていた「電話とかいうもの」が実用化されている。そもそも、列車はあるが自動車というものが実用化されてないのが、考えたら当たり前だがちょっとビックリ。必要な場合には自ら手綱を操ることが上流階級であっても行っている(乗馬できるから当然か)。電報はあるがふつうのやりとりはメッセンジャーに手紙を託すこと。人を訪問して会えなかったら持ち歩いている名刺にメモを書いておいてくること。これらは上流階級だからこそなのかもしれないが、そういう方法もあるのね!と新鮮だった。

    あくまでニューランドの視点で描かれているが、彼の気持ちの浮き沈み、突然違うフェーズに入るところなど、非常によく描写されていて面白かった。

    最終章の、「時代遅れなお父さん」(彼と仲良しの長男の言葉)が、いまはこのように変わった、と思う様も、結局は一歩踏み出すことができなかったにしても、基本、進歩(あるいは成長)しようとする気持ち、自由を求める気もちがあった人だから、それほど時代遅れ感はなく、むしろ、何十年も生きると世界は変わるわけで、自分の親(少年時代には空襲があり今は子どもたちにいわれてiPhoneをとぼとぼ使っている)もずいぶん変わった世界を見てきたはず、などと思った。

  • 語り手Newlandは、当時ヨーロッパよりよほど旧弊だった新世界そのものとして描かれる。明日が今日の続きでしかない彼だからこそ、予測不能でつむじ風のようなエレンに惹かれるのだろう。
    時を経て、目の前に機会があるにもかかわらずかつての恋人に再会しないことを選ぶ気持ちは非常に共感できる。過去は過去として、ここからまた新しい人生に踏み出すということなのだ。それぞれに。

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著者プロフィール

Edith Wharton 1862–1937 ニューヨークの名家に生まれ、幼少時よりヨーロッパ各地に居住。中・長編小説22冊、短編小説集11冊、詩集、室内装飾本、紀行文、文学論、伝記などを出版。
代表作は、ニューヨーク上流社会の人間模様を描いた『歓楽の家』(1905)や
女性初のピューリッツァー賞を受賞した『無垢の時代』(1920)、ニューイングランドを舞台にした『イーサン・フローム』(1911)、『夏』(1917)など。



「2022年 『夏』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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