悪魔物語・運命の卵 (岩波文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (279ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003264812

感想・レビュー・書評

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  • 20世紀ロシアの作家・劇作家ブルガーコフ(1891-1940)による中編二作。どちらも、ロシア文学特有のあの重苦しさとは異なり、どこか現代的に洗練されているようなユーモアと軽快さを感じる。彼の作品の多くは、ロシア革命後の社会を風刺していると見做されたため、ソヴィエト当局から長らく発禁処分を受け続け、その完全な復権は彼の死後半世紀近くを経たペレストロイカ期まで待たねばならなかった。

    「悪魔物語」(1923年)
    日常性の齟齬・断線・反転・崩壊を描いた不条理なスラップスティック劇。文体とその展開のもつテンポが、小説的と云う以上に、演劇的・映画的・アニメーション的であるという印象を受けた。一文ごとに動作や場面が目まぐるしく切り替わっていく様子は、ドストエフスキーの物語に於けるあの冗長冗漫な展開の仕方とは、対照をなす。これは、写真や映画など新しいテクノロジーの発達がもたらした新しい知覚経験の、文体への反映であろうか。この作品のドタバタぶりは、人間性とは異なるどこまでも sachelich な論理で動く巨大な機構であるところの、あらゆる人的連関が物象化されてしまっているところの、人間的な自己同一性の保持もままならないところの、ソヴィエト官僚制に対する戯画のようにも読める。

    「運命の卵」(1925年)
    奇妙な赤色光線を浴びて大量発生した新生物が人間たちに襲い掛かるという、SFパニック劇。前半はどこかコミカルで喜劇的な調子で展開していくのだが、後半の新生物を発見する場面からは雰囲気ががらりと変わり、緊迫感とスピード感が一気に増して物語が走り出していく。この作品もやはり映画というメディアに向いているのではないか。赤色光線とそれを浴びて凶暴化した新生物は赤軍の、ペルシコフはレーニンの、それぞれ暗喩であるとされているが、この風刺はそれほど巧く機能しているようには読めなかった。

  • 「悪魔物語」は、悪魔というより悪夢のような不条理もの。マッチ工場をクビになった男が工場長に文句を言ってやろうと思っただけなのに、なんだかよくわからないソックリさんが現れたり、あっちこっちたらいまわしにされたあげく何も解決しないままジェットコースターのように不幸にまっさかさま。面白かったけど、なんていうか、問題がいっこうに解決しないので若干ストレスが溜まります(苦笑)。

    「運命の卵」はSFテイストで、「悪魔物語」とどちらが面白いかと聞かれればこっちのほうが圧倒的に面白かった。動物学者のペルシコフ教授が、研究中に偶然にも細胞の成長(増殖?)を促進させると思われる赤色光線を発見。同じ頃、たまたま鳥の間で伝染病らしきものが流行、ロシア中の鶏が死んでしまって卵も手に入らないという状況になり、教授の研究に目をつけた男が、赤色光線を使って国外から取り寄せた鶏の卵を大量に孵化させようともくろむ。

    ところが取り寄せたその卵が鶏ではなく蛇やらワニやらダチョウやらのものだったから大変。光線によってモンスターに成長したそれらの動物が、ものすごい勢いで増殖しながら人間を襲い始めて街はパニック。結局思いがけないかたちで事態は収束するものの、ただの研究おたくなのに巻き込まれて酷い目にあう教授がとにかく気の毒。

    後半の、軍隊でさえ歯が立たない怪獣大行進っぷりは、映画化とかしたらちょっと面白そう。でもハリウッド大作というよりは、ドイツ表現主義の時代の、モノクロサイレント映画のチープさ、斬新さが似合いそうな。

  • 不景気なマトリックスみたいな話と不景気なバイオハザードみたいな話が載ってました。中々オモロかったです。


  • アメリカン・ニューシネマかSFのような、怒涛の急展開と不条理、100年も前に書かれたものとは驚くばかり。
    新聞社ビルの屋上にあるスクリーンに映像が投影されるのは当時のソヴィエトの技術で可能だったのか、それともSF的な創作なのか、2021年の日本人には判断つかないなあ。電気銃は一瞬テーザーを連想したけど、鳥を撃つくらいだからおそらく電気エネルギー弾のようなSFなのだろう。

  • 「悪魔の」不条理で足元グラグラする感じが「原因はわからないがロシアはこわい」。こええこええ、と読んでいたら、途中からちっさいオジサン出てきて、また不条理なこと言う。!あ!そっか!これ、デヴィッド・リンチの「ロスト・ハイウェイ」なんだ!そっか!意味はなくて雰囲気味わう系ね!

    なんかこの冷たい湿気る感じ、こないだ読んだザミャーチンぽいな、と思ってたら、表紙に名前書いてあった。ほらねー、意外とハズレてないんだってば。


    「運命の」冒頭だけポール・トーマス・アンダーソン「マグノリア」だった。怖かった。

  • ドライブ感満載の不条理アクション2編。
    60年代アメリカの作家が、20年代ソ連の作家のふりをして出版した…と言われたらすごく納得できるのだけれど、これが本当に共産主義政権下の作品というのだから驚きだ。
    「運命の卵」の方は50年代の映画にありそうなSci-Fiエンタメ、「悪魔物語」のほうは少し前衛的だったが、どちらも読者へのサービス精神にあふれたポップな作品で読みやすかった。

  • ブルガーコフの作品の中では、比較的おとなしい内容かもしれない。訳者による丁寧な注釈により、当時の様々な学界、ひいてはロシア社会の風刺がふんだんに盛り込まれていることが理解でいるのだが、知識不足でわからない面も多い。しかし、悪魔物語の着想は、初期の筒井康隆がよく書いていたような不条理SFの原型のようで、時代を先取りしていたのだなと感じた。

  • 亀山郁夫先生の本で触れられていたブルガーコフ、「悪魔物語」の方はカフカっぽい。「罪と罰」などロシア文学でもよくある不条理系でまぁこんなものなのかなと。すごかったのは「運命の卵」、比較的抑えめな前半から始まってペルシコフ教授のテンションとともに話は高みに向かう。ロックが自分が作り出したものと出会う場面の緊張感、奥さんが死ぬ描写は凄まじい。終盤のパニック映画のような展開は圧巻。1920年頃の作品とは思えません。

  • う〜ん、想像をはるかに超えるファンタジーだった・・・「運命の卵」はまだしも「悪魔物語」の方は、まったく理解できなかったなあ。

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