世論 上 (岩波文庫 白 222-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003422212

作品紹介・あらすじ

リップマン(1889‐1974)が『世論』を書いた動機は、第1次大戦後の混乱の原因究明にあった(1922年刊)。にも拘らず我々がこの書を手にすると、あたかも現在を分析し警告を発しているかのような切迫感を覚える。それは、大衆心理がいかに形成されるかを出発点として、人間と環境の基本的な関係を、イメージの概念から明晰に解いているからだ。

感想・レビュー・書評

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  • 1922年に書かれたジャーナリズム界の長老と言われたリップマンの世論。社会学の参考になる図書。
    「ジャーナリズムは大衆を哲学に導く最良の手段」

  • メディア論としてはそれほどでもという印象だが、政治論としてはなお有効どころか、まさに現代的ではなかろうか。ステレオタイプを通して現実世界を認識する有権者たちによる民意をありがたがるのはとてもまずい。牧歌的な民主主義観とはもう決別しよう。その主張は正しい。しかし、ではどうするか、は弱い。それは、現代人の課題ということか。

  • 現代にも通じる名著。政治との距離感に悩む日本にとってはより重みを増しているかもしれない。唯、翻訳物の常としてややまだるっこしい箇所が少なからずある。

  • 労働者たちは政治的意見を表明する機会は与えられたが、自分たちの意見を十分に練る時間も能力もない。人は誰もが自分が何を望んでいるのかを知っている(功利主義)わけではない。労働者たちは政治家の言葉を無批判に受け入れてしまう。簡単に影響を受けてしまう。政治家の顔を何度も見たり、景品をもらったりすると、政治家に親密な感情を抱き、なかば無意識に本能的に非合理的な行動(投票)をしてしまう。同様に、よく選ばれ訓練されたエリートも非合理的である可能性がある。人間の認識は相対的なものでしかない。▼そこで、複数の観念を量的に折り合わせていくべき。自由市場の曲線と福祉国家の曲線を描き、その交点を合理的な判断とする、など。また教育により人間の認識する能力・合理的に判断する力を高めよう。グレアム・ウォーラスWallas『政治における人間性』1908/『大社会』1914
    ※フェビアン協会、創始者の1人。LSE。

    身近な日常生活の中で、私たちは対象に自分で直接触れたり経験したりできる。正確な知識に基づいて行動できる。知識と行動がズレたとしても調整できる。▼しかし、対象との間に時間的・空間的な隔たりがある場合、もしくは対象があまりにも広大で複雑な場合、自分で直接触れたり経験したりできない。対象を把握する代わりに、単純化された対象のイメージを頭の中に描く。現実環境ではなく疑似環境。見てから定義するのではなく、定義してから見ている。新鮮な目で細部まで検討する時間はないし、事前に単純化イメージを通してものを見ている方が安心できるから。▼イメージなので、現実とはズレている。にもかかわらず、私たちはそのイメージに直接反応するため、予想しえない反応が現実から反応として返ってくる。現実に裏切られる。不測の反応は私たちを不安にさせるため、現実を回避するようになる。現実とイメージのズレはますます大きくなってしまう。さらにマスメディアは事実を単純化、印象操作をして報道するため、現実とイメージとのずれを大きくする。▼民衆の合意形成は、直接接触し確認できる環境で可能であり、直接的に正確に確認できない環境では偏見・先入観に支配されるため自立した判断はできない。民主主義の基礎である世論と公衆は形骸化している。従来の人民主権の考え(ルソー、ジェファソン)は直接触れることができる小さな集団における合意形成を想定している。大衆と異なり、エリート(職業政治家など)は政治に直接触れて経験している。彼らに判断を委ねる方がよい。ウォルター・リップマンLippmann『世論』1922
    ※米ジャーナリスト。政治評論家。

  • ①現実と、②現実についての頭の中のイメージ、③現実に対する行動という三角構造があり、②が③に影響を与えてしまうが、②には誤りが含まれる危険性がある。
    集団的なイメージを「世論」と呼んで、〈上〉では誤る要素を一つ一つ分析する。

    第一次世界大戦後の話だが、そもそも現実についての原情報が少ないことや、新聞を読むのに平均15分程度の時間しか割いていないこと、ステレオタイプに当てはまるようにしか入力しないことなど、指摘は今でも当てはまることばかり。

  • この本のこの形式、すごくかたそうに思うでしょ?
    のんのん、読んでおいて決して損のない本ですよ。
    今現在、SNSというお手軽な情報源があるからこそ
    とっても大事なものなのです。

    著者はその恵まれた環境を最大限に生かした
    ジャーナリストといえましょう。
    政治に関しては本当にお墨付きを出さない
    中立という一番立ち位置の難しい場所に
    いた方です。

    そんな方だけありも地には重さが出てきます。
    私たちが陥りやすい偏見がなぜ生まれるかは
    読んでいけば理解できるでしょう。
    どうすればそれを埋められるか?
    自分が変わるしかないんですよ、残念だけどね。

  • リップマン 「 世論 」 世論研究の本

    世論(大衆の意見)は 初めから 国家の恣意が介入した ステレオタイプ(固定観念)に過ぎない という論調。世論による民主政治を悲観視している

    ステレオタイプによって 作られた イメージ(擬似環境)に沿って 人間が行動するのは、ジョージオーウェル「一九八四年」の全体主義の世界そのもの

    ステレオタイプが 頭の中のイメージ(擬似環境)に影響を与え、人間は イメージに反応して 行動する

    ステレオタイプは イメージを左右する固定観念
    *見てから定義しないで、定義してから見る
    *ステレオタイプが確固としている場合 ステレオタイプを支持
    *バラバラに知覚されたものが ステレオタイプによって 寄せ集められる

    擬似環境、行動、現実環境は 三角形の関係
    1.現実環境を反映して 頭の中で 擬似環境を認識〜この時 ステレオタイプは 事実を恣意的に選別→三角形を方向づける
    2.擬似環境を参照して 行動を形成
    3.行動の結果が 現実環境に影響


    行動は 擬似環境に反応しているだけ
    *擬似環境は 与えられたニュース、噂、憶測により成り立つ


    著者が伝えたいのは 民主主義を人間自ら守ること
    *民主主義の前提としての 自己統治力を守ること
    *自己統治力=人間が自分の力で 自己の環境を統御する〜客観的な事実報道によって 自己統治力は回復しうる
    *ニュースと真実を合致させ、人間を再教育すること
    *ニュースの機能=一つの出来事が 起こったことを知らせる合図
    *真実の機能=隠された事実を表に出し、相互に関連付けて 人間が行動できるように 現実の情景を作る

    today & tomorrow 日々の出来事を 人類の進歩から評価し 人々が未来を予見できるようにする

    新聞、ジャーナリズム
    *新聞は 世論を組織する手段としては 不完全
    *世論が機能するなら 世論によって 新聞が作られるべき(新聞が世論を作るべきではない)
    *世論の組織化が 政治学の当面の課題

  • 社会
    政治
    哲学
    メディア

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