日本の近代建築 上: 幕末・明治篇 (岩波新書 新赤版 308)
- 岩波書店 (1993年10月20日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (267ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004303084
作品紹介・あらすじ
開国とともに西洋館がやってきた。地球を東回りにアジアを経て長崎・神戸・横浜へ。西回りにアメリカを経て北海道へ。こうして日本の近代建築は始まり、明治政府の近代化政策とともに数多くの作品が造られてゆく。上巻では、幕末・居留地の西洋館から和洋折衷の洋館、御雇建築家による本格建築を経て、日本人建築家が誕生するまでを描く。
感想・レビュー・書評
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もはや建築の小説みたいで、楽しみながら読むことができました。
流れに沿って、日本の近代建築の概要もつかむことができ、良かったです。 -
幕末にヨーロッパの建築様式が入ってきてからの建築様式の流れを説明している本です。今まで個々の建物の様式を説明することは有っても、この本のようにヨーロッパから東回りで入ってきた様式と西回りで入ってきた様式が日本で出会うとか、世界を股に掛けたスケールで様式の変遷を語る本には出合ってなかったので、とても分かりやすく感じます。とりあえず下巻も買いましたので、引き続き読み進めます。
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日本が西洋の建築、いわゆる近代建築を導入しはじめた幕末から明治時代を通して、いかに西洋建築を学び、建物を建てていったかを詳細に綴った本。
著者は建築史の第一人者ともいえる藤森照信先生で、多くの建築家と建物についてわかりやすく網羅するとともに、その流れるような文章に引き込まれる。
ただ、かなり初期の建物や意匠は、文章だけではなかなかイメージできないものがあり、読み手の努力を要する。
下巻(大正・昭和篇)と合わせて読むことにより、日本の近代建築史の流れを概観できる良著。 -
建築様式に着目した近代建築史。
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ずいぶん前に下巻を先に読んだ。
上巻も気になってはいたけど、この度、やっと入手できた。
明治初期の、西洋建築が導入された時期から、辰野金吾ら、日本の建築家の第一世代が生み出される明治三十年代までが扱われている。
コロニアル様式の伝播(右回りルートと、左回りと)の問題や、疑洋風のデザインのことは面白かった。
それから、この時期に日本に渡ってきた西洋人の建築家がどんな人たちだったかも面白い。
富岡製糸場を手掛けたバスチャン、銀座煉瓦街を作ったウォールトスらは、「冒険技術者」とされていた。
世界を渡り歩き、専門家のいない土地で、建物の設計だけでなく土木工事も、治水事業、都市計画、建材の開発などなど、何でも手掛けた人たち。
やがて日本のような新開地でもお払い箱になってしまい、新たな街に活路を求めて移っていく人たち。
建築の向こうに人が見えると、やはり面白くなってくる。
名前をよく聞くコンドルについても、いろいろなことを知ることができた。
コンドルの功績は鹿鳴館のような建物を作っただけではなく、日本に建築科を育てるための教育を体系立てたという。
日本の芸術に傾倒し、永住までしたこの人が、作品の遍歴を見ていくと、特に晩期に様式の混迷が見られるという。
異文化に生きた人の足跡が伝わってくる話だと思った。
札幌時計台のあの木の板を横に張り渡して作った壁を、下見板というそうだ。
そんなことも、この本で知った。
あれはアメリカから、簡単な方法で建てられる寒冷地にも耐えられる工法だそうだ。
だから学校建築や、北海道の洋館などに使われたという。
あの素朴な感じにわけもなく惹かれる。
なんか懐かしい感じがする。 -
明治から第二次世界大戦終戦までの間の日本の近代建築を12群38派に分類し、その来歴、特徴、影響などを解説している。
日本の近代建築を網羅的に、且つこれだけ細かく分類し、わかりやすく整理した本はないのではないかと思う。
ヨーロッパで生まれた様々な様式が地球を東回りと西回りで地球を回り、明治の初期に、ちょうど裏側の日本で合流し、多様な建築が混在する特異な建築文化を作ったという点が、非常に興味深かった。
明治の初期というのは、官による文明開化の動きによってつくられた公共建築だけでなく、大工や職人が海外の様式を見よう見まねで勉強して作り上げた学校や役場などもあるという点も、当時の息吹を感じられる話で面白い。
上巻は主に江戸末期から明治中期までの話。下巻が明治末期から大正・昭和の内容をまとめている。 -
建物という構造物とそれについての事実を平明に語りながら、人間と時代が立ち上がってくる、下手な歴史小説よりもよほど素晴らしくわくわくさせてくれる本。幕末、日本みたいな辺鄙な地で「建築家」として活躍していた外人は、うっすら思ってはいたけどやはりアカデミックな建築家というより、冒険家であり山師であって、彼らの作った洋風建築は結構でたらめだったんだなーとか(だから明治初期の文明開化の興奮が落ち着くと、日本の偉い人たちは彼らが造った建築が何か変だぞと気づいてしまうあたりがおかしい)。コンドルが晩年に手がけた岩崎久弥邸を詳細に見ることでコンドル先生の人となりが伝わってくるとか。ベックマンとエンデによる官庁集中計画の壮大さとか。辰野金吾(国会議事堂の戦いがすさまじい)、片山東熊(迎賓館のエピソードがおかしくも哀しい)、妻木頼黄(ドイツ派。辰野との闘争エピソードが面白い)、彼らの章についてエピローグで明治国家とのかかわりが語られる。司馬遼太郎の本のようにグッと来る。
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特に建築を専門的に学んだわけでもない一般読者が日本の近代建築史を俯瞰し知るうえで非常にわかりやすい一冊だ。
日本の洋館に見られる「ヴェランダ」と「下見板張り」は世界のどこからどういったルートで日本に伝達したのか、という興味深い話から、文明開化の混沌の中で生まれた建築と建築家もどきの話、コンドル以前のお雇い外国人とコンドルの違い、辰野金吾をはじめとする日本の建築家たちが「イギリス派」「ドイツ派」「フランス派」に大別できるという話・・・。
建築が好きで、いろいろ見たり聞きかじったりしてなんとなく知っている人名はあれど、こうやって体系だって読むと「そうだったのか!」という目からうろこがぼろぼろあって興味深かった。
読み応えあり。