中世神話 (岩波新書 新赤版 593)

著者 :
  • 岩波書店
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004305934

作品紹介・あらすじ

伊勢神宮外宮に祀られる豊受大神。イザナギ・イザナミが国生みで使った天の瓊矛。この記紀神話に登場しない神と国生みの呪具を主人公にして、「天地開闢」「国生み」「天孫降臨」の物語が中世的変容を遂げる!中世神話創造の謎を解くスリリングな文献探究。

感想・レビュー・書評

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  • いま、国文学の世界では、「中世日本紀」に注目が集まっているそうです。奈良・平安の時代までに成立した神話を元に、中世になって解釈、再構成されたテクストが、俄然脚光をあびているのです。それらを総称して「中世神話」と呼び(中世日本紀は厳密にはその一種とされます)紹介、分析していく本書は、まさに現在の中世日本紀ブームの嚆矢といってもいいでしょう。そこには、記紀神話とは驚くほどかけ離れた神々の姿が、展開されています。
    政治、社会、そして土地制度にも見られるように、日本の中世は「混沌」という語がよくその姿を示しているように思いますが、中世の神道をめぐる状況も、その例にもれるものではありませんでした。たとえば、本書で主に取り上げられる「神道五部書」は、伊勢神道の根本文書とされますが、そこには、内宮にたいする外宮の優位を主張するために書かれた、という一般的な説明ではカバーできないような世界が広がっています。そこには、本地垂迹説、密教、そこから派生した両部神道といった、さまざまなファクターが複雑に絡んできます。私のそれまでの「神道五部書」の理解を、本書はきれいに叩き壊してくれました。
    天地開闢、国生み、天孫降臨という3つのテーマを扱う本書ですが、その内容は恐ろしく難解です。それは、あまりなじみのない中世仏教の教説がこれでもかというほど神話に入り込んでくる、という理由もありますが、紹介されるテクストのどれもが、「神仏習合」という一語にはとても収斂できないような、無秩序さと多様さを孕んでいることが一番の原因でしょう。そこにはもはや、あの聞きなれた記紀神話の面影を感じることすらできそうにありません。神社の縁起に、普通に「不動明王」や「牛頭天王」のモチーフが出てくるのです。これを混沌といわずしてなんと表現できるでしょうか。
    しかし著者は本書の最後に大きく方向転換をし、北畠親房の「神皇正統記」を旅の終着点として提示してきます。そこにはそれまでの大混乱がうそのような、天皇につながる一本道のシンプルな神話があるばかり。南朝の正当性を叫ぶために混沌をことごとく排除した、政治性の高いテクストを見ながら本書を閉じるとき、それではいったい中世神話とはなんだったのだろう、という思いにとらわれます。けれど同時に、無秩序と混沌に満ちた中世神話は、裏を返せば、神話を創造するという自由な行為と、語り直しの無限性という側面とを示しているのではないのか。そうも思えてきます。
    一筋縄では理解できないからこそ、そこに魅力がある。著者の強烈なメッセージが、本書全体から発せられているようです。

    (2008年6月 読了)

  • (後で書きます。笙野頼子作品を読み返したくなった)

  • 2020年4月18日購入。

  • 素人が読むにもかなり良い。

    大学の「日本の宗教と芸能」の参考書として使用。仏教的な本地垂迹説のもと解釈、再構成された日本の神話を解説する。神話そのものは断片的にしか紹介されないが、その裏側が見えて興味深い。
    前半は宗教家達の“神話作り”が中心だが、中盤からは民間信仰も取り上げられる。現在のお祭ともつながる、天王様、翁、花祭など授業で扱われるテーマが数多く言及される。新書の限られたページながら色んな要素が詰まっており難しい話なのに構成が工夫されていてテンポよく読み進められる。
    伊勢神宮にまつわる話が多く、旅行などで行く前に読むとおもしろいかもしれない。

    目次
    1.中世神話への招待
    ○屹立する水の神
    2.中世の開闢神話
    3.御饌の神から開闢神へ
    4.水徳の神=豊受大神の成立
    ○天の瓊矛と葦の葉
    5.大日如来の印文神話
    6.天の瓊矛のシンボリズム
    7.葦の老王の物語
    8.地主の神と今来の神
    ○降臨する杵の王
    9.稲の王から杵の王へ
    10.天の瓊矛とその行方
    11.猿田彦大神と大田命
    ○終章
    12.伝世されなかった神器

  • 神仏習合下の中世において語られていた日本神話、所謂「中世神話」を紹介した書。伊勢神道における「天地開闢」、「国生み」、「天孫降臨」の物語を中心に、中世神道が古代(記紀)神話をどのように変換していったのかを概説する。
    本書は、中世神道書などに見える日本神話を具体例を挙げて紹介したものである。主に取り上げるのは伊勢神道系の神話であり、水と葦(霊物)による天地開闢、外宮祭神豊受大神の変容、大日如来の印文発見譚と天の瓊矛の変奏、「杵の王」としての天孫など、記紀神話のテーマを用いながらそれとは異なった神話世界を活写している。これらのエピソードは追っていくだけでも楽しく、豊受大神が本来の神格(御饌の神)を捨てて根源神(天御中主神)として語られていく経過、独鈷や心御柱、果ては創世の物実たる「霊物」となっていく天の瓊矛の様相など、中世神話の多様な側面を見ることができる一書となっている。話が様々な方面に飛びがちな点はあるが、中世神話の世界に触れるには最適の書であるといえる。

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著者プロフィール

1946年生まれ。早稲田大学第一文学部中退。和光大学名誉教授。日本宗教思想史専攻。私塾「成城寺小屋講座」主宰。主な著書に『中世神話』『大荒神頌』『変成譜――中世神仏習合の世界』『異神――中世日本の秘教的世界』、編著に『諏訪学』などがある。

「2022年 『摩多羅神 我らいかなる縁ありて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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