横書き登場: 日本語表記の近代 (岩波新書 新赤版 863)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004308638

感想・レビュー・書評

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  • 「伝統」とは一体なんだろう?何年続けば「伝統」になりうるのか?そもそも伝統とは、なんの根拠もない、その「伝統」と呼ばれる事象が好きな人の妄想でしかないのではないか。
    日本史を辿るたびにそういう思いを強くする事が多いが、今回もその思いを強くした。

    日本はもともと縦書きの文化だった。行は右から左に進む「右縦書き」の文化だ。これは今も残る古文書の類を見ればすぐにわかる。
    では「横書き」はどうか。今の日本に多い左から右に進む「左横書き」はどういう経緯で定着したのか?
    私と同年代くらいの人ならすぐに思いつくと思うが、日本では右から左に進む「右横書き」があったこともよくご存知だろう。そもそも「印象」としては、古いものに右からの横書きが多いと感じているのではないか。
    それでは何故その右横書きは少なくなってのか?

    縦書きが右からだから、横書きも最初は右からだったのだろう。
    欧文はもともと左書きだから、その影響で右横書きが左横書きに変わったのではないか。
    その辺りには、日本の敗戦が関係していて、戦後、日本の「伝統的な右横書き」が、左横書きに矯正されたのでは?

    そういう発想をする人が多いだろう。いやむしろ歴史を知る人こそそういう発想をするのではないか。

    この「横書き登場」は今に残る様々な証拠、浮世絵、絵画、新聞記事とその新聞に掲載された広告類、雑誌やポスター、チラシを丁寧に調べ、横書きがいつ生まれたのか、そして書く方向がどのように変わってきたのかを明らかにしていく。

    簡単に言うと横書きが生まれたのは西洋文化との接触が始まった江戸後期。その時は西洋っぽさだけを取り入れる人たちも多く、右横書きも左横書きも混在していた。
    戦前まで、色々な事情で右横書き、左横書きの盛衰があるが、大日本帝国の旗色が悪くなり始めても左横書きは使われていた。

    そしてこの時期にまさに「右横書き」が「日本の伝統」であるという横書きの歴史を無視した前提を唱えて右横書きを強制する指示が国から出されるようになるのだ。
    しかし、技術書などはそもそも横書きで出版されるものが多いので、そのようなものは例外とするなどの都合の良い「伝統」である。
    この都合のよい良い伝統による認識は戦後も残る。

    横書きの歴史を事細かに調べ、分析された筆者の根気の強さにはつくづく感心する。
    また「横書き」とは何か?という横書きの定義(擬似横書き=1行1文字の縦書きとの区別)なども新鮮だった。

    • 淳水堂さん
      shinjifさん
      こんにちは。

      興味深い本ですね。

      私の場合は、画面上だと横書きでないと頭に入らない、紙の本だと縦書きでない...
      shinjifさん
      こんにちは。

      興味深い本ですね。

      私の場合は、画面上だと横書きでないと頭に入らない、紙の本だと縦書きでないと頭に入らないので(マニュアルとかなら横書きでも大丈夫だけど)、頭がそうなっているんでしょうかね。
      昨今だと「全部横書きにしよう」みたいな声も聞かれますが、私としてはこのまま縦書き横書き混在していってほしいです。。

      >古いものに右からの横書きが多い
      古い看板などで、『場登キ書横』みたいなカタカナと漢字混じり右横書きのものがあると、判読したくなります。
      あとトラックの車体の会社名なども右横書きありますよね。

      興味深い本教えていただきありがとうございます。
      2022/09/10
    • shinjifさん
      淳水堂さん、コメントありがとうございます。
      パソコンの画面だと縦書きが辛いというのは私も同じですね。ただ電子書籍を読む専用のデバイスだと、...
      淳水堂さん、コメントありがとうございます。
      パソコンの画面だと縦書きが辛いというのは私も同じですね。ただ電子書籍を読む専用のデバイスだと、目に優しいせいか、縦書きでも読めるようになりました。

      トラックの車体の件についてもこの本は触れています。元々は船体に船名を書くところから来たものであったという話だったと思います。
      2022/09/10
  • ふむ

  • 左書きと右書きが共存していたのは知らなかった。
    右書きを使わなかった夏目漱石などの考察や豊富な図版があり面白い。

  • 横書きが登場し、横書きの左右が混在していた時代のことや、現在の左横書きに到達するまでの変遷が膨大な史料をもとに描かれている。縦書きにも「左縦書き」があったことにびっくりした。

  • 非常に面白い
    「右横書きが日本古来の伝統で、左横書きは戦後に導入されたもの」という誤った常識が鮮やかに否定される。
    扁額など横長スペースに書かれた右横書き様の文字列が、1行の文字数が1文字の縦書きであったということも素人には衝撃だ。
    どのようにして横書きが始まり左横書きに収斂してきたのか、まさに本書の書名「横書き登場」の「登場」という言い方がしっくりくる。

    ちなみに、縦組右開きの本書で表紙が横組みなのは、書名と内容に合わせた洒落で岩波新書としては異例なのかなと一瞬思ったが、改めて本棚を眺めてみたら、縦組右開きなのに表紙横書きの岩波新書も結構あるんだな。青や黄及び古い赤が表紙横書きで最近の赤が縦書きなのかな? 確かに昔の岩波新書の表紙は横書きで最近縦書きに変わったような気もしてくる。
    とすると岩波新書の表紙は横書きから縦書きに、逆方向にシフトしたのか?
    この本を読むまで気にならなかったことが気になる。

    このような傑作、しかも大量の資料に裏付けられた力作が古書でしか入手できないのは、もったいなく残念だ。

  • 38012

  • お世話になった屋名池先生の本。奥様が10ページと読んでくれなかったと嘆いておられました。昔の右横書き(右から左へ)は実は横書きではなく、1行縦書きということでした。へぇ

  • 右から左に、横方向に読んでいく看板やポスターにレトロな趣を感じる。このような形式が一般的であったのが戦前で、左から読む横書きが日本中に広まったのが戦後かなあ、という漠然としたイメージがありました。

    しかし、そうではない、そうではないんだ!
    空海から江戸の蘭学者の横の方向に書かれた文字もあった。そして開国、西洋技術の移入。アルファベットやアラビア数字と共存できる書写方向の必要で明治からどんどん広まっていった左横書き。戦前にはかなり広まっていたんですね。

    結論としては、左横書きは明治以降の西洋技術をまるっと移入した部門や、それらの技術、近代的政府組織に関係のある人たちから使用がはじめられた!で決めてしまっていいとは思うんですが、ビシッとこう!みたいにすぐ結論付けず、例外とか、左横書きから右横書きへという反動現象も紹介されていて、読者に対してフェアに論証が展開されるところが好きです。

    あと、書字方向と時間の流れに対する意識の関連についての考察が目からウロコでした。
    ほんとうに、あたりまえの、珍重されないものって残りにくいですよね。

  • 日本語・国文学を学んだ者にとって、左横書き(左から右に書き進めていく横書き)は「実は一行一文字の縦書」であるという認識があるのだが、それが果たして本当なのか。また、同時に戦後の横書きの急速な普及は政府主導ではなく民間主導の出来事であり、「戦前・戦中は右横書き、左横書きは戦後になってから」というのは伝説に過ぎないことを実例を丁寧に上げながら検証している。本当の意味での横書きは「複数行に渡って書かれていなければ正確に検証できない」という点には盲点を突かれた感。
    余談ではあるが、落語や講談などで文字の読めない町衆が主人公の話がある反面、日本には江戸時代「寺子屋」があったので一般に思われているほど文字の読み書きが出来ない人間は多くないという話も聞くのだが、その実態も明らかのなっているのも読み得した気分になる。
    著者の屋名池誠は自分の一歳年上と同じ世代。世代的に関心のある事は共通点が多いなぁと思ったりして。

  • 縦横、そして横は右横、左横とも使えるという便利な日本語。このようにいろいろな書き方が出来る言語は世界にも類をみないというが、もともと縦書きのみの世界からどのように横書きが導入されてきたのか、その歴史を詳細な記録の研究により明かしたものです。当たり前のように思いながら、横書きが右から始まり、左に一挙に移っていった経緯。もともと1行に1文字単位の書き方が右縦書きだった。そして最初は横倒しの文字で縦書きを行った文書も残っているという。そして右左が国粋主義と国際主義の対立の象徴ともなったという戦時中の話は興味深いです。戦後、1945~48年の間に左横書きに雪崩を打って変化していくのはやはり左が有利だったからなのでしょう。左横書きは決して戦後出てきたのではなく、西洋の語学、数学などを学ぶうちに便利であると定着し、1920年頃から知識階級では用いられていたというし、すでに市電切符その他には使われていたという。一方、国鉄での駅・切符の右から左への切替えが遅れたのは、国粋主義の巻返しに影響されたというのは納得です。左・右が併用された時代も長かったようであり、その時代の文章の読み方の難しさは推して知るべしと思われます。かくゆう私自身も物心ついた頃から左横書き一辺倒であり、特にメモは横書きでないと不可能です。今後、横書きは更に拡大する可能性が高く、書道のみに縦書きが残る時代はそう遠くない将来かも知れません。

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著者プロフィール

昭和女子大学専任講師、大阪女子大学専任講師、東京女子大学助教授、同教授を経て、現在慶應義塾大学文学部教授。
〔専門〕日本語学。
〔著作〕『横書き登場―日本語表記の近代―』(岩波新書、2003年)、『上方ことばの今昔』(共著、和泉書院、1992年)など。

「2015年 『日本語の風景』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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