清朝と近代世界――19世紀〈シリーズ 中国近現代史 1〉 (岩波新書) (岩波新書 新赤版 1249 シリーズ中国近現代史 1)
- 岩波書店 (2010年6月19日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004312499
感想・レビュー・書評
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後書きに「清朝の後半期について、その生き生きとした時代像を描き出したいというのが、本書執筆の最大の動機だった。ともすれば単に衰亡の過程とみなされがちな歴史をとらえ直したい。」(231頁)とあるように、康煕・雍正・乾隆3代の聖君の時代が終わり、白蓮教の乱とともに18世紀を終えた清朝は、まさに坂を転げ落ちるように19世紀を通過したような印象を持ちます。アヘン戦争と南京条約、虎門寨追加条約に望夏条約・黄埔条約、アロー戦争(第2次アヘン戦争)と天津条約・北京条約でヨーロッパ勢に蚕食され、頼みのロシアもアイグン条約・北京条約で東北地方に進出してきます。同治の中興・洋務運動と入っても後人からみれば不徹底な改革で清朝の限界を感じ、西太后が政治の混乱に拍車をかけ、極めつけは日清戦争による敗北とその後の列強による中国分割。高校世界史に登場するこの頃の中国の事項を並べたら、まさに19世紀の清朝は「衰亡の過程」です。しかし、中央政府の混迷は必ずしも国全体の衰退というわけではありません。この時期の中国における「地方分権」的性格は溝口雄三先生が『中国の衝撃』(東京大学出版会 2004年)などで述べているところですが、会館・公所や郷勇など地方による自助・自衛など地方の動きはむしろ活発な動きをしています。さまざまな立場の人が、それぞれの状況に応じてヨーロッパの「近代」と対峙または適応しようとし、そして激しく移りゆく流れにのまれ、逆らおうとする、19世紀の中国とはそんな時代だったのでしょう。
それにしても、この時期における世界の一体化は近年授業でも必ず取り上げられるテーマですが、この本を読みそれをつくづく感じました。フランス革命に対し対仏大同盟を提唱したイギリスのピット首相は実はマカートニーを清朝に派遣した人物であったり、アメリカの黒人奴隷使用によるプランテーションで栽培された綿花を購入する際の決済として発行された手形が巡り巡って中国貿易を行っているイギリス地方貿易商人の本国への送金手形になっていました。アヘン戦争には自由党の大人物グラッドストンが反対し、アロー戦争には穀物法廃止で授業でも登場するコブデンが反対しています。同治の中興の背景に、オーストラリアやカリフォルニアで金鉱が発見されたことによる銀余りがあったことも目からウロコでした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
中国近現代史の起点として、19世紀の清朝を多面的に描いている。混乱と没落というイメージで捉えられがちの清末だが、自己変革の試みがいろいろ展開されていたことが述べられている。清朝曾国藩の日本観が興味深かった。沖縄県の成立を巡る過程についても記述されていて、沖縄問題を考えるうえで参考になった。新書ということもあり読みやすく、非常に水準の高い清末史の概説書である。
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19世紀、清朝末期の歴史を外交、社会、文化等を中心に概説する。
清朝末期には太平天国の乱を筆頭に他にも数多くの騒乱が散発しており
清朝政府は逐次対応できていた点など
はじめて知るような内容も多く、楽しむことができた。
何より本書は語り口が非常に平易で読みやすかった。 -
中国近現代史の始まりを清朝後半の歴史からスタートさせることは、そう自明なことではない。日本史の場合、徳川日本を近代国家の始まりと見なせないのと同様でもあり、またそれとは大きく異なるとも言える。そこが難しい。
本書は清朝後半から日清戦争までが叙述されているが、アヘン戦争から一直線に滅亡へと傾いていったわけでは必ずしもないことがよくわかる。清朝もさまざまな近代化への挑戦をおこないつつ、続く「中国」へと変貌を遂げていくのであるし、清末の経済発展の動向も見落とせない。#釐金(通行税の一種)などもこの時期に登場した比較的新しいものであることをはじめて知った。
またハワイの王様も清朝を訪問し、アジアの連帯を説いたりしたなど、周辺地域やそれと関係の深い諸国の叙述も興味深い。 -
2010/12/13-
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いまに連なる中国現代史の始まりとしての清代、という視点はなかなか新鮮でした。多少の理解はあったものの、いわゆる同治中興の頃、清朝もなかなかしたたかに外国政府(西洋列強)を向こうに回して、やりあっていた部分は特に興味深く、面白く読めました。