生きて帰ってきた男――ある日本兵の戦争と戦後 (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004315490

感想・レビュー・書評

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  • 普通の日本人から見た第二次世界大戦を描いている。
    リアリティを感じる。

  • 社会学の研究者である小熊英二さんが、自身の父(小熊謙二氏)が辿った、戦争、勾留、闘病、労働などの人生を、膨大な資料、インタビューから理解・構築し、詳述した一冊。著者自身があとがきに書いており、かつ読み始めるとすぐ理解できるように、これは単なる「戦争体験記」ではない。随所に、当時の日本の状況を表す統計データやその他の文献引用などがなされており、小熊謙二氏という1人の人生を通して、戦前から現在に至るまでの日本社会の変化に触れられる。まさに、1人の主体としての「経験」と、それを客観的に、ときには批判的に補足・検証する「資料、データ」とを結合させた研究活動であると言えよう。
    もちろん、本書の内容を読み、その時々で小熊謙二氏が何を感じていたのか、極限の状況に追いやられたとき、どのように振る舞ったのか、などという事実は、「人間とは何か」という途方もない問いに対して、確かな一側面を与えてくれる。ただ、個人的に本書を読んで最も感じたことは、「(特に社会科学において)真実を解き明かすヒントは、社会に規定され、日々行動する個人の中に、その多くが隠されているのかもしれない」ということである。本書の中でも言及されているように、歴史として語られるものの多くは、語ることのできる社会的階級にいる、もしくは語らざるを得ないほどの熱量を持っている個人、集団のみである。つまり、貴重な知見、経験を携えているにも関わらず、社会的階級が相対的に低く、自ら語るインセンティブも持ち合わせていない人は、歴史に反映されないのである。
    この気づきは社会科学の研究に携わる身として、非常に重要な示唆を与えてくれた。もちろん、安易な解釈主義に陥ることは避けなければならないが、そのものが動態的に変化する社会を捉えようとする限り、完全な真実を掴むためには、膨大な研究を行い、多様な視点から分析を試みる必要があるということである。こう書くと、シンプルに思えてくるが、これが難しい。どのような人が言っていることも、どのような些細な情報であっても、その裏に何かメカニズムが存在していると信じ、全てから学ぼうとする姿勢こそが研究者に求められているのかもしれない。もちろん、全てを自分1人で行うことは、人間という生物の特性上、不可能である。だからこそ、あらゆる分野の研究者と対話し、全体で知を前進させていく必要があるのである。
    ここまで、自分が得た示唆ばかり書いてきてしまったが、本書の締めの一言は、純粋に、希望を与えてくれた。引用して、感想を終えたい。

    「さまざまな質問の最後に、人生の苦しい局面で、もっとも大事なことは何だったかを聞いた。シベリアや結核療養所などで、未来がまったく見えないとき、人間にとって何がいちばん大切だと思ったか、という問いである
    「希望だ。それがあれば、人間は生きていける」
    そう謙二は答えた。」(p.378)

  • 歴史を学ぶということは、社会についての知識を増やすということであるが、個人歴史の場合は、自らの生き方を振り返る貴重な機会になりうる。

  • 頭ガツン。これから生きていく上での指針を与えられたように感じるほど、示唆に富む。読んで良かった。

    →「今、考えさせられる!?『生きて帰ってきた男』」
    https://blog.goo.ne.jp/mkdiechi/e/e10e1b2a8b55c6a5daba2a17f8be7fa4

  • 生きて帰ってきたある日本兵の戦前戦後史。

    センチメンタルに、あるいは大仰に語られがちな戦前戦後史を、ある1人の生涯を軸に語っている。

    そのため、月並みな感想だが、この本を読むことで戦前戦後史に対して違った見方を得ることができる。或いは、歴史に対して違った見方を得ることができる。

    その時の人が、どう感じ、どう生きたかは、いわゆる歴史書では知ることができない。当時世間を賑わせた出来事であっても、その時代に生きた一部の、或いは多くの人にとってはどうでも良いことだったのかもしれない。そのような実感を考えることなく、歴史を語ることは非常に浅いことなのかもしれないと感じる。何故なら、歴史を作ってきたのは、他ならぬその時代に生きた人々だからである。

    他の本で、著者は、戦争責任に対して、誰もが被害者であり加害者でもある、というより、それすら整理できないのが戦争なのである。という趣旨のことを述べている。おそらく、著者のこの考えは、この本と通ずるところもある。なぜならば、この本の語り手である謙二も、戦争の加担者でありながらも、その責任がどうであるとか、考える暇もなく、時代の流れに巻き込まれていたからである。

    なんとなく、「この世界の片隅に」に通じる気がする。

    読み物としても興味深いし、誰でもない1人の目線をもとに歴史を描き出すという試みの本という目線から見ても、非常に良い本。

  • 某所読書会課題図書.小熊謙二の波乱万丈の一生を普通の人の視線で描いた長編だが、戦前の庶民の暮らしぶりや上からくる規制を巧みに交わす生き方が具体例で示されている.小生の記憶と合致する、高度成長期の話も正確な記述と相まって楽しめた.あとがきにもあるが、サラリーマン的な生き方は人口の一割弱だという指摘は重要だと感じた.大多数の人々は、自分たちの人生を自分で切り開いてきたのだ.政府を当てにしないで.それにしても敗戦直後の我が政府の無責任さは憤り以上のものを感じる.

  •  この国の「戦後」について考えようとする人は、これを読んでからにしてほしい。でたらめで、ご都合主義がハヤリらしいが、いつの時代にも、人生をまじめに生きようとする人間はいるのだし、社会に翻弄されながら、人間であることを、誠実に貫こうとして生きている人はいるのだから。
     どういう目的か知らないが、そういう人間をバカにするような「知性」は終わっていることを思い知らせてくれる。
     若い人が書いていうことに、明るさを感じた。えっ、もう若くない?

  • 面白くって2日で読んだわー!
    著者の父親の聞き書きを基にした、20世紀前半に生まれた名もない日本人男性のライフヒストリー。
    北海道への移住、上京、就学と就職、徴兵。シベリア抑留。帰国後の困難な再就職と結核治療。景気の上昇。結婚と仕事の成功。マイホーム。
    昭和初期、小学校を出たら日銭稼ぎでも働くのが当たり前だった。話者は早稲田実業中学に通ったが国公立の滑り止め的存在。月謝を払って高等教育を受けられる人は限られていた。
    庶民レベルでは戦争賛美はみんな案外冷ややかだった。学校の先生や一部のインテリは批判的だった
    シベリアでは零下35度になると、屋外作業が中止になったが冬でもダムの凍結除去など外で働かされた
    抗生物質が使えるまでは、結核治療のために肺や肋骨を切除する外科手術が行われていた
    1957年までガス、水道なしの下宿暮らしだった

    話者は最晩年になって、日本兵として徴兵され、シベリアに連行された朝鮮人の抑留仲間が起こした賠償裁判に協力する。たとえ勝てない裁判と分かっていても、公の場で一言言わせろ。人としての気概を感じた。

    著者は日本の近現代社会史の専門家だけれども、戦争や生活の記録として残された書物が、特定の学識層の経験に偏っていたり、個人の感性でバイアスがかかっていることをたびたび感じ、普通の庶民がどう生きたかを残したいと思ったそう。

    この本のように、私の家族のライフヒストリーも残したいな、と思った。

  • 生きて帰ってきた男――ある日本兵の戦争と戦後 (岩波新書)

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著者プロフィール

慶應義塾大学総合政策学部教授。
専門分野:歴史社会学。

「2023年 『総合政策学の方法論的展開』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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