ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く (岩波新書)

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  • 岩波書店
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  • / ISBN・EAN: 9784004316442

感想・レビュー・書評

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  • ニューヨークやワシントン、ロサンゼルスだけがアメリカではない。その通り。シカゴをみてもそう思った。

  • 自由貿易と、グローバリゼーションによる、作業の空洞化と、地方の衰退、これこそが、アメリカの病理であり現実である。
    アメリカも緩やかな経済成長を続けている。ただし、白人の高卒以下の層についてはそうではない。死亡率も年々高まっている。
    本書は、トランプの選挙活動を通じて、アメリカの現実を浮き彫りにする。本書は、トランプを指弾するものではなく、トランプを通じて、今のアメリカを映し出してみるものです。

    ・都市部はトランプを拒絶したのだ。
    ・多くは明日の暮らしや子どもの将来を心配する、勤勉なアメリカ人だった。そこには、普段の取材では見えない、見ていない、もう一つのアメリカ、「トランプ王国」が広がっていた。
    ・もう一つのアメリカ。
    ・前回の共和党候補が負けて、今回トランプが勝った州は6つある。具体的には、オハイオ、ペンシルベニア、ウィスコンシン、ミシガン、アイオワ、フロリダの6州である。
    ・フロリダ以外の5州は、五大湖周辺の通称「ラストベルト」(さびついた工業地帯、ラストというのは金属のさびのこと)と呼ばれるエリアに、全体もしくは、部分的に含まれるのだ

    気になったのは以下です。

    ・トランプの演説、身振りが大きく、ラフな言葉遣いの演説に支持者は聞き入り、笑い、歓喜に沸く。使っている英語も簡単だ。なるほど、「小学生レベルの英語」と言われている通りだ。
    ・自分のことを「天才」「本当に頭がいい」「いい人」と真顔で繰り返すが、多くの人は、「また、トランプが言っている」と軽く受け流し、不思議なくらいイヤミになっていない。政治家としては、イヤミにならないことは強い。
    ・サイレント・マジョリティ(声なき多数派)は、トランプを支持する
    ・彼は、ポリティカル・コレクトネス(政治的な正しさ)で批判されることを恐れていない
    ・普通の政治家に任せていては、国は破綻する。問題をありのままに、恐れることなく指摘するトランプが大統領になれば、国を立て直してくれるわ

    ・人間は仕事がなきゃ幸せになれない。日本人もおなじだろ
    ・政治家は長生きするから、簡単に「年金の受給年齢を引き上げる」という。それが許せない。でも、トランプは違う。立候補の会見で、社会保障を守ると言ったんだ。
    ・オバマ大統領も、ヒラリーにも、「あなたに必要なことを、私はあなた以上に知っている」という姿勢を感じる。私はそれが大嫌いです。
    ・「こつこつ働いて、やっと家を買うことができましたよ。中古ですけどね。女房は喜んでくれています」
    ・「私が指導者に求めていることはシンプルです。まじめに働き、ルールを守って暮らし、他人に尊敬の念をもって接する。そうすれば、誰もが公正な賃金が得られて公正な暮らしが実現できる社会です。ビジネス界でやってきたトランプに期待したいのです」

    ・この国には企業経営者のマインドでかじ取りする指導者が必要だ。アメリカも日本も世界も、大きなキャッシュ・レジスターだ。そこに入っているカネしか使うべきでない。そのルールが守られていない。平気で借金を増やす大統領が続いている。それをとめないといけない。企業経営だって、借金ばかりじゃ倒産するだろう。彼には、企業と同じようにアメリカを経営してほしいね。
    ・不法移民や働かない連中の生活費の勘定を払わされていることに、実はみんな気づいていた。問題だと知っていたけれど、自分たちに余裕があり、暮らしぶりに特段の影響もなかった頃は放置していた。
    ・ところが、収入が目に見えて落ち始め、もう元の暮らしには戻れないとわかり始めた頃、多くのミドルクラスが、もう他人の勘定までは払えない、と訴えるようになった。もう十分だ。フェアにやってくれ。限界に達しようとしている時に、トランプが登場した。
    ・トランプは自分のカネで選挙運動している。当選後、特定業界の言いなりになるような政治家とはわけが違う。
    ・トランプは受諾演説でこう強調した。「毎朝、私は全米で出会った、これまでなおざりにされ、無視され、見捨てられてきた人々の声を届けようと決心している。私はリストラされた工場労働者や、最悪で不公平な自由貿易で破壊された街々を訪問してきた。彼らはみな「忘れられた人々」です。必死に働いているのに、その子をは誰にも、聞いてもらえない人々です。私はあなたたちの声です」

    ・みんな起こっているのは、雇用の喪失が主な原因と思う。共和党も民主党もどっちも、グローバル化への対応で失敗した。アメリカの勤労者を陥れたのよ。
    ・オレたちアメリカ人は、給料から社会保障費も税金も払う。不法移民は何でも負担を逃れる。母国にドルで送金すれば、何倍もの価値になるから、安くても働く。ここで生まれ育ったアメリカ人が、この競争に勝てるわけはない。

    ・ついえたアメリカン・ドリーム。私が「アメリカン・ドリームを実現できそうですか?」と聞くと、多くのトランプ支持者は力なく首を横に振った。
    ・アメリカン・ドリームとはそもそも何だろう。誰にとっても生活がより良く、より豊かな、より充実なものとなり、各人がその能力ないし達成に応じて機会を得ることができるような土地の夢。出自はどうであれ、まじめに働いて、節約して暮らせば、親の世代より豊かな暮らしを手に入れられる。今日より明日の暮らしは良くなるという夢だ。

    ・いま新しい技術者を募集しているが、集まらない。応募者はくるが、水準に達していないんだ。「いい仕事がない」と嘆く労働者は多かったが、「求める人材がいない」という声ははじめてであった。「雇用を取り戻す」と言い切ったトランプが大統領になっても、かつてのような時代はもどってこないだろう。

    結論
    ・私が出会ったトランプ支持者とは、このように日本のどこにでもいるような、普通の過程のお父さんや職探しになやむ若者たちだった。
    ・グローバル化と技術革新が明日の雇用にどんな影響を及ぼすのかなんてわからない。労働者の権利を守るはずの労働組合も弱体化し、組織率も下がるばかり。政党が労働者の権利保護を唱える声も小さくなっている。アメリカン・ドリームを信じるには現実が厳しすぎ、立身出世物語にもすっかり現実味がなくなった。
    ・グローバル化する現代社会において、アメリカの異変は対岸の火事ではない。先進国における、ミドルクラスの行方、再配分のあり方などを当事者として考えていきたい。

    目次

    はじめに
    記者が歩いた「トランプ王国」
    プロローグ 本命はトランプ
    第1章 「前代未聞」が起きた労働者の街
    第2章 オレも、やっぱりトランプにしたよ
    第3章 地方で暮らす若者たち
    第4章 没落するミドルクラス
    第5章 「時代遅れ」と笑われて
    第6章 もう一つの大旋風
    第7章 アメリカン・ドリームの終焉
    エピローグ 大陸の真ん中の勝利
    おわりに
    付録 CNN出口調査の結果(抄録)

    ISBN:9784004316442
    出版社:岩波書店
    判型:新書
    ページ数:240ページ
    定価:880円(本体)
    発売日:2017年02月03日 第1刷発行

  • トランプ関連書籍を読み始めてこれが4冊目になりますが、これまでの3冊と比較すると圧倒的に質が高いと感じました(その他の3冊の書評については私のレビューをご参照ください)。大統領選挙の1年ほど前からトランプ候補の支持者が多い地域への足で稼いだ生情報、非常に参考になりました。日本のテレビだけを見ていると、トランプを支持している女性なんて1人もいないかのような報道ぶりでしたが、現実は米国女性の41%はトランプを支持している。しかも本書に登場するトランプ支持者の女性は、変人でもなんでもなく、実直に働いてきた人々、という印象を受けました。より正確には「トランプ」という個人が支持されているわけではなく、これまでの既存政治家、エスタブリッシュメントへの反感がいかに大きいか、自分自身の生活をなんとかしてくれ、という強い思いを本書から感じました。

    本書の最後にも著者が問いかけていますが、これは米国の民主主義の終わりの始まりなのでしょうか。この問いは本当に難しく、トランプ政権の誕生は行きすぎた資本主義に対する民主主義の逆襲という見方もできるわけですが、その結果として選ばれたトランプが民主主義を弱体化させるかもしれない、という皮肉な結果も十分ありうるわけです。つまり民主主義的な手続きを経て、民主主義を衰退させる指導者が選ばれてしまった、という可能性です。日本の将来を考える際にも非常に示唆が多い良書だと思います。

  • トランプがアメリカにムーブメントを起こした過程を、トランプの支持者がいるエリアに入り込んで取材をしながら生の声を届けている。

    指示者の感情や背景を押さえながら、臨場感を持って書いているので、次に次にと引き込まれるように読んでしまった。著者の文章技術に脱帽。

    アメリカで問題になってる不満は、日本など他の先進国でも同じ現象ではないだろうか。一生懸命目の前の仕事に働いていれば、そこそこの生活を堪能できた時代から変わってしまっている。
    所々にも出てくるように、情報技術に基づく職業は確かに利益を生み出す業界であるけれども、雇用や街、生活を作り出す点では、製造業は違っていて、には違う指標が必要だ。

    一方、サンダースについて。彼も、結局、現場の人々の生活や社会行動には課題認識を持っている。ただその伝え方がトランプとは異なっていたと言うだけだろうか。

    ソガ氏(サンダース)のコメント:
    昔は多くの人がテレビで同じ情報を得ていたが、最近は自分の情報を選り好んで、自分と同じ意見の人としか話さないから、不満を持つ人同士がどんどんつながるようになった。

  • 先入観を持たず現地で聞き取りを行うジャーナリズムを感じさせる一冊。グローバリズムによって経済状況が向上したのは、先進国の上流階級と途上国の中間層であり、没落したミドルクラスのエスタブリッシュメントに対する反感をうまく集めたのがトランプ。高卒でもミドルクラスになれたという状況が例外的なものだったということを踏まえ、アメリカという共同体をどう維持するかは引き続きの課題といえる。

  • 新聞社のニューヨーク駐在記者がトランプ支持者が多いラストベルトやアパラチアを歩く。出会った人たちの声から見えてくるアメリカの今、そして大統領選の結果。
    これからもこういう時間をかけて生の声を集める取材が必要だと思う。

  • トランプさんを支持する人はどういう理由かを迫った書籍です。
    現地の人の訴えが分かるため、貴重な本です。

    ラストベルトの人々の訴えは日本と全く同じだと思い、危機感を感じます。
    基本的には、移民問題による雇用の減少がテーマとなっております。著者は統計データに基づき、トランプへの疑問や反対意見も挙げてますが、賛同できるところとできないところがありました。ですが、そこも含めて良いです。

    私は、この本の反対意見も踏まえた上でトランプさんを支持しています。

    この本で取材に応じておる現地の人々が、日本人より人情が溢れている感じがして、凄い好感を持てました。
    現地の人の声で、「テレビが伝えるアメリカはエスタブリッシュメントばかりだ」「映画で見るアメリカはニューヨークやロサンゼルスばかりだ」という言葉には、確かにそうだと胸を打たれました。移民問題や人種差別問題が多く取り上げられ、少しずつ改善はしていってますが、裏では忘れ去られた白人の人々が貧困になっていることは見向きもされません。
    あと、アメリカ国民の政治への関心がとても強いです。私の周りでは選挙に行かなきゃだめだとという考えを持っている人は多いですが、政治についての関心は他国と比べて本当に低いと思います。テレビやネットを見てなんとなく投票するでなく、国の命運をかけているという自覚を持ち、できる限り勉強をして投票をしてほしいです。

    もしアメリカに行く機会があれば、この本で登場をした人々の街を旅行して地域貢献をしたいです。

  • 面白かった!廃れていくラストベルト。細っていくミドルクラスこそトランプを支持したんやな。反エスタブリッシュメントがキーワード。

  • ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く (岩波新書) 新書 – 2017/2/4

    アメリカン・ドリームが死んだ先にあるものは現状への怒りだ
    2017年5月20日記述

    金成隆一(かなりりゅういち)氏による著作。
    現在、朝日新聞ニューヨーク支局員。

    1976年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。
    (大学の恩師は久保文明氏)
    2000年朝日新聞社入社。
    大阪社会部、米ハーバード大学日米関係プログラム研究員、国際報道部などを経て、ニューヨーク特派員。
    教育担当時代に「教育のオープン化」をめぐる一連の報道で第21回坂田記念ジャーナリズム賞(国際交流・貢献報道)受賞。
    好物は黒ビールとタコス。
    他の著書に『ルポMOOC革命―無料オンライン授業の衝撃』がある。

    2015年11月~2016年11月まで
    アメリカの特にラストベルト周辺、アパラチア山脈の人々へのインタビュー、連載記事をまとめた本。
    TVの特集などでトランプ支持者について何となくわかった気になっていたけれども、本書を読んで問題はより根深く深刻であることがわかった。
    トランプが強かったのはバーニーサンダース上院議員に人気があったのとつながっていた。
    本書では第6章でサンダース支持者について紹介している。
    可能であればサンダース支持に関してもより深く取材し記事を読んでみたかった。

    著者はプロローグにあるように米大手メディアのトランプ番記者にトランプが大きく伸びる理由を教えられた。
    このことが大きな示唆として取材のはずみになったに違いない。
    しかしこの番記者、トランプの遊説先を地図に落としてみるなど分析に優れている。

    本書を読むとウォール街、シリコンバレーなど一部の地域しか1990年代の好景気の恩恵を受けていなかったことが分かる。
    野口悠紀雄氏が指摘するような米は日本と違い新産業が生まれ新しい経済構造があるという指摘を読んだりすることもある。
    しかしそれはあくまで米の一部に過ぎないのだ。
    むしろ大半の州はそうではなかった。
    本書を読んでいてまるでバブル崩壊後の日本の不況と大差が無いではないか。
    あくまでアメリカはアメリカ合衆国であり多くの国の連合体だということを再認識した次第である。

    増えない給料、老朽化するインフラ、工場移転で地場産業が無くなり孫世代の就職先が無い。
    白人中年層の寿命が短くなっていること。
    広がる薬物汚染。
    インタビューしていた3人組女子大生の内、1人が夢は学費を返済することだと返答していたのには驚いた。
    アメリカン・ドリームは完全に死んでいる。
    ミドルクラスの象徴でもあった長期休暇を取って家族旅行に行くことも出来なくなっている。

    多くのミドルクラスが貧困層に陥る中、企業献金に頼らず労働者、生活者、有権者の為の政治を求めている。
    トランプの行った敵意を焚き付ける方法は正しいとは思わない。
    それでもトランプ躍進、サンダース躍進の背景問題が解決に向かわない限り、既存政治の延長線はあり得ないだろう。
    それは次のアメリカ大統領選挙でも同様だろう。
    その辺りを踏まえた政策が民主党にも求められているのではないか。

    とは言っても著者の指摘するように製造業や石炭産業の復活などあり得ないとは思う。
    メキシコ国境沿いの壁建設も資金面で
    難しいかもしれない。ただ人々は簡単には国境を越えれないし簡単に転居出来る訳でもない。
    (逆に言うと転居を厭わず動ける人の強みも見えた気がした)

    非常に難しい問題だ。またそれは日本にも当てはまる問題だ。
    夢を失った地域は活力を失う。
    夢を喪失せず希望を見いだせる社会を築く為には
    何が出来るのだろう。
    放置して時間が解決する問題ではない。

  • 2020年の大統領選挙を経た2021年の現在から見返してみると、まさしくこの5年間に議論されていたことを2015年の段階で浮かび上がらせていた見事な取材力だと感じる。

    MBA留学中に知り合ったアメリカ人のうち最も親しくなった友人がインディアナ州出身であった。他の多くのアメリカ人達が東西沿岸部出身であることに対して、彼は彼自身のことを他のアメリカ人達とは少し違うと言っていたが、まさにその背景はこの本で描かれているラストベルト、アパラチア山脈地方のバックグラウンドによるものであった。

    彼の話を聞いた際にも感じた事柄であるが、アメリカを外から見る際にはこういったデモグラフィーの違いによる多様な背景があることを念頭においておかなければ見方を誤るだろう。
    実際に2020年の大統領(選挙人)選挙でも依然トランプは7000万票以上を集め、2021年1月のキャピトル・ヒル襲撃を経て退任したあとも熱烈な支持者を集めている。かの共和党でさえもトランプ退任後もトランプ人気に配慮した政党運営をしなければならないことは、今後のアメリカ社会におけるデモグラフィーの動向がアメリカ政治、ひいてはスーパーパワーをバックグラウンドとした国際社会への影響にも強い影響を及ぼす可能性を示唆しているだろう。

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著者プロフィール

金成 隆一(カナリ リュウイチ)
朝日新聞編集委員
朝日新聞経済部記者。慶應義塾大学法学部卒。2000 年、朝日新聞社入社。社会部、ハーバード大学日米関係プログラム研究員などを経て2014 年から2019 年3 月までニューヨーク特派員。2018 年度のボーン・上田記念国際記者賞を受賞。著書『ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く』(岩波新書)、『記者、ラストベルトに住む』(朝日新聞出版)など。

「2019年 『現代アメリカ政治とメディア』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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