ユーゴスラヴィア現代史 新版 (岩波新書 新赤版 1893)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (298ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004318934

感想・レビュー・書評

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  • 女子栄養大学図書館OPAC▼ https://opac.eiyo.ac.jp/detail?bbid=2000054309

  • 巷に流布するセルビア悪玉説とも歴史修正主義とも距離をおき、正確に起こったことの事実とそのメカニズムを分析しようという姿勢に、学者としての矜持を感じた。複雑なユーゴスラビア史が平易にまとまっているだけではなく、学問への姿勢や意義といったものまで伝わってくる稀有な傑作新書だと思う

  • 東2法経図・6F開架:B1/4-3/1893/K

  • 米澤穂信「さよなら妖精」を読んでから募った、もう何年にもなるユーゴスラヴィア現代史への関心。オスマン帝国、ハプスブルク帝国時代の統治から説き起こし、第一次ユーゴ、ドイツによる併合、パルチザン運動、チトーの主導による第二次ユーゴ、内戦、各共和国の独立までが旧版では語られ、新版では、ここ四半世紀の、各共和国の政治的な動き、共和国間の連携の動き、相互の謝罪と和解の動き、民族主義的政党の後退などが描かれる。民族、という概念がいかに人工的で恣意的なものか、というケーススタディーに思えた。見た目も言語も宗教もほぼ差異がないのに、ある日、別の民族として対立の火種があがり、仲良く混在していた隣人同士での殺し合いが始まる。特に、混在の度合いが高かったボスニア・ヘルツェゴビナで顕著だった。多くの要因があり、これというものに帰せないが、政治エリートが民族・宗教対立を煽り、マスコミもそれにのったところが大きな要因だったのでは、と指摘される。また、セルビアのみを悪玉にした報道、政策へも疑義を呈する。参考文献からは、「アイラブユーゴ」「解体後のユーゴスラヴィア」「ボスニア・ヘルツェゴヴィナを知るための60章」「スレプレニツァ・ジェノサイド」は手にとってみたく思った。両親の民族が異なる場合、ある地域の民族的少数者が多数者によるどうか傾向に抵抗する手段として、便宜的に「ユーゴスラヴィア人」を選択する場合も見られた、とあるが、一番多くても「ユーゴスラヴィア人」を自らのアイデンティティとして選んだのは、全人口の10%ほど。チトーの30年以上の施政期でもこれは埋まらなかったのだなあ、という感想。すくなくとも半数以上の人が、自らが○○人というアイデンティティより、ユーゴスラヴィア人というアイデンティティを持てれば、と他国の後世の者からはないものねだりを感じてしまう。著者が、最後に、ボスニアを史前地理的な区分で三地域にわけ、地域共同体からなる連合国家にするのが最善、"「実験国」ユーゴで行われた模索は、「小ユーゴ」に場所を移していましばらく続くことになるだろう。ユーゴスラヴィアの現代史はまだ幕を下ろしていない。"と記した言葉が重く響く。

  • 旧版から25年を経ての新版。
    旧版当時、本書のほかに、千田善「ユーゴ紛争ー多民族・モザイク国家の悲劇」という新書も出ていた。
    千田の「ユーゴ紛争」が当時進行中だったユーゴ紛争の今をジャーナリスティックに描き出したのに対して、本書はより巨視的かつ歴史的な視点で南スラブの状況を解説。
    アプローチはかなり異なりつつ相互に補完しあう内容で、このふたつでユーゴの知識を得た人も多かったんじゃないと思う。
    (ちなみにこの千田善氏、オシム監督の通訳やってた人で、吉田戦車の従兄弟らしい)

    旧版はボスニア紛争の和平合意が成立したくらいで、まだ南スラブの趨勢が不透明のままの状況だった。新版では、旧版後に起きたコソボ紛争やマケドニア紛争などもカバーし、2020年代に至る経過も概観する。
    紛争自体は終わったもののその清算は残っているし、旧ユーゴ南側の諸国のEU加盟の問題もある。その一方で、多民族・多文化の共生の試みも続いているという。こういう紛争後のプロセスはなかなか知ることができないので、複雑で見えにく南スラブの状況をきちんとアップデートした新版出てくれるのはとてもいいことだと思う。

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著者プロフィール

早稲田大学大学院文学研究科西洋史学博士課程修了。1975~77年、ベオグラード大学哲学部歴史学科留学。敬愛大学経済学部、東京大学教養学部・大学院総合文化研究科教授を経て、現在、城西国際大学特任教授、東京大学名誉教授。
専攻は東欧地域研究、バルカン近現代史
主な著作:The 20th Century through Historiographies and Textbooks: Chapters from Japan, East Asia, Slovenia and Southeast Europe (coeditor, Ljubljana, 2018)、『スロヴェニアを知るための60章』(編著、明石書店、2017年)、『バルカンを知るための66章【第2版】』(編著、明石書店、2016年)、『図説 バルカンの歴史』(新装版、河出書房新社、2015年)、『セルビアを知るための60章』(編著、明石書店、2015年)、School History and Textbooks: A Comparative Analysis of History Textbooks in Japan and Slovenia (coeditor, Ljubljana, 2013)、『クロアチアを知るための60章』(編著、明石書店、2013年)、CDRSEE企画『バルカンの歴史――バルカン近現代史の共通教材』(監訳、明石書店、2013年)、『東欧地域研究の現在』(編著、山川出版社、2012年)、『新版世界各国史18 バルカン史』(編著、山川出版社、1998年)、『ユーゴスラヴィア現代史』(岩波書店、1996年)。

「2019年 『ボスニア・ヘルツェゴヴィナを知るための60章』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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