人の心に働きかける経済政策 (岩波新書 新赤版 1908)

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  • Amazon.co.jp ・本 (242ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004319085

作品紹介・あらすじ

感染抑止のために行動変容を促す国民の心への働きかけと、デフレ脱却を目的とした人々の期待への働きかけ。この二つの「働きかけ」は、背景とする人間観(と経済学)が違う。行動経済学の成果を主流派のマクロ経済学に取り入れた公共政策を、銀行取付、バブル、貿易摩擦、日銀の異次元緩和などを題材に考える。

感想・レビュー・書評

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  • ミクロとマクロを統合する視点で語られる黒田日銀の姿。この結論は重い。

  • 桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPACへ↓
    https://indus.andrew.ac.jp/opac/volume/1302072

  • 日銀黒田総裁の打ち出したバズーカ砲は、結局空砲だったに過ぎなかったと言う事。
    アナウンス効果が無いと分かってからも、大規模緩和を続けその副作用に苦しむことになる。
    一体何のための施策だったのか、新総裁に期待したい。

  • バブルを研究した著者による、マクロがミクロ化する中で行動経済学の知見を活かすべきという問題意識から書かれた本。前半は行動経済学の概説(コンコルド効果を取り上げ所謂「空気の支配」は日本だけではないとか、「国際協調」「定住外国人」というフレーミング等の面白いエピソードはいくつかある)、後半は黒田日銀の金融政策批判となっており、前後半のつなぎが悪いというがGAPが激しい。黒田批判も行動経済学的観点というのはあまり感じられず、一般論で終わってしまっている印象も受ける。それだけマクロに行動経済学の知見を活かすのは難しいということなのかもしれないが、これからの研究分野なのだろう。
    たしか、コロナ対策の専門家会議で行動経済学の知見を活かそうと大竹文雄先生がメンバーになっていたかと思うが、こちらの方がどうだったのかも気になるので、どこかの新書から出ることに期待。

  • 感染防止のための働きかけとデフレ脱却のための働きかけは、人間観、経済学が違っている。行動経済学の成果をマクロ経済学に加味した政策を行う必要があるが、国民が思うような行動を取るかはわからない。

  • 行動経済学の成果の金融政策、ミクロ化したマクロ経済学のメインストリームへの適応、インフレ目標2%の意義、実質金利=名目金利ー予想インフレ率の解、黒田日銀の異次元緩和の謎解き等。量的緩和の二つの側面、①長期国債を買って長期金利を下げる、②日銀の国債購入による日銀当座預金+現金「マネタリーベース」の供給量増加。

  • マクロ経済学は合理的な個人を前提としているミクロ経済学の成果を取り入れてきた。一方で人間は必ず合理的に行動するとは限らない。合理的に行動しない人間を分析している行動経済学の知見をマクロ経済学に取り入れようと試みた本。

    本書の主な対象は期待に働きかける金融政策。日銀の異次元緩和。

    異次元緩和導入時の日本はグリーンスパンの言う物価安定の状態,つまり「人々が物価変動に対して無関心である状態」であった。期待に働きかけて物価を上げようとしたが,正常性バイアス(人間の心は予期せぬ以上や危険にある程度鈍感)を破ることができなかった。2%というインフレ目標が低すぎたこと,物価上昇の果実(賃金上昇)を示すポジティブなフレーミングもなかったことが指摘されていた。

    あと,物価の財政理論(政府債務の実質価値とプライマリーバランスの収支の割引現在価値とが一致すべき)も興味深かった。ゼロ金利が続く中で,財政収支の予測と物価上昇率を結びつける物価の財政理論のメカニズムによる物価上昇は起こりそうにないが荒唐無稽ではないらしい。財政が危機的な状況でも政府が財政規律を緩めようとしていると人々が感じたときに正常性バイアスが壊れるらしい。

  • マクロ経済学をミクロ化=期待への働きかけ。応用ミクロ経済学となったマクロ経済学。
    行動経済学の誕生と発展。
    この2点がここ50年の大きな変化。

    ドーンブッシュの法則=通貨危機の法則。テキーラ危機の時。通貨危機は永遠に来ないように思えるが、実際に来たら急速に進展する。正常化バイアスが続きそれが崩壊するとパニックになる。

    現在バイアスの罠
    現在バイアスが強いと、現在の満足を優先する度合いが強い。ダイエットが失敗する理由。
    国民に現在バイアスが強いと長期的に好ましい政策が選ばれない。
    サンクコストの罠=コンコルド効果。サンクコストを避けたいだけでなく、生み出した責任から逃れたいため。責任者の判断にバイアスがかかる。

    人間の判断はストーリー性がある=ナラティブエコノミクス。AIにはない。AIは過去にとらわれず、最適手を選ぶ=AIはエコンと同じ。人間は流れを重視するがAIは一番の急所を突いてくる。
    人間は社会規範が重要=罰金と補助金が中心ツールになる。保育園の遅刻の際の罰金は逆効果だった。社会規範と市場原理は綱引きをしている。

    「ジョンブルは敗北に当たっても気高く振る舞う」プリンスオブウェールズのトーマスフィリップス提督が脱出せずに船とともに沈んだ逸話。実際は日本軍の創作=社会規範を形成した。

    プロスペクト理論=価値関数は非対称。損失を重く見る。
    表現の選択や選択肢の見せ方をフレーミング、この設計を選択アーキテクチャと表現した。ナッジのダークパターンも存在する。

    行動経済学的な人間像
    利益の喜びよりも損失の痛みを強く感じ、過去の出費が無駄になることをもったいないと感じ、判断の責任を取ることを避けるために傷口を広げる。現在の快適性を優先しがちで、ちょっとした異常は無視し、行動に当たっては社会規範という他人の目を意識する。選択肢がどう示されるかで判断は変わるため、企業や政府の意図的な誘導に従いやすい。

    中国は日米貿易摩擦に学んで、対米貿易戦争で譲歩はしない。要求に従っても対米黒字は減少しなかった。

    日本は自然減50万人で移民20万人、差し引き30万人の減少。定住外国人=移民のおかげで人口減少が緩和されている。外国人は日本と同化を望んでいると考えている。移民からの軋轢は少ない。現在バイアスに囚われていないか。特に外国人子女に対する教育が遅れている。

    ウイルスの感染拡大とストーリーの拡大には類似性がある=ナラティブエコノミクス

    自然利子率とは完全雇用が過不足なく実現できる需要を引き出す実質金利水準。

    中央銀行が経済の先行きを決めるのではなく、構成員の期待が先行きを決める=期待への働きかけが必要な理由。インフレ目標の設定。しかし、一般人はそもそも金融政策に関心があるのか、という疑問。
    インフレ目標を与えて中央銀行の政策の独立性を保つ、という形に収れんし、インフレが収まった。
    インフレ率が目標より低い場合は金融緩和を強化、しかし金融緩和による金利の低下の本質は需要の前倒しに過ぎない。長い目で見れば中立的。補助金と同じ。成長戦略ではない。

    政府の現在バイアスがインフレに結び付くことから、中央銀行に独立性を与えた。デフレが恒常化した状態では、政府の現在バイアスはインフレには現れない。中央銀行の独立性への疑問。

    グリーンスパンの物価安定の定義
    物価の安定は経済主体が経済的な意思決定における一般物価の予想される変化を考慮しなくなったときに得られるもの=2%などの数値ではなく、物価をきにしなくなっている状態を安定という。健康と同じ。健康について意識していないときが健康。
    物価の安定について正常化バイアスが働いている国では、この定義は成立している。

    物価の測定は、付加価値が計量化困難なものになり、技術革新や新製品の登場により、困難になっている。ヘドニック法、など。
    消費者の個人の生計費の変動は、使い方により消費者物価指数とは異なる。若年層より高齢者のほうが上昇を感じやすい。

    異次元緩和の出発点は2012年。金利誘導を長期金利まで広げる、マネタリーベースの供給量を増やす。=長期国債を購入することで両方の目的を果たす。
    買いオペ=資金供給=金融緩和、売りオペ=資金吸収=金融引き締め
    当座預金の付利は、資金余剰を当座預金に吸収するから売りオペと同じ。補完当座預金制度の仕組みでペナルティーが発生するから、マイナス金利で資金を貸すメリットが生まれる。現金に換えて保管することは事実上できない。
    マネタリーベースの増加効果は、それ自体では効果はないが、期待に働きかける効果がある、と考えられた。

    ブレイクイーブンインフレ率=物価連動国債の価格から市場の予想インフレ率を推測するもの。量的緩和のために低下した。=市場はこれ以上の手段がないことを見切った。家計も異次元緩和には興味がなかった=グリーンスパン的物価の安定状態。

    正常化バイアスのために、2%程度の物価上昇では期待インフレ率は上がらない。
    フレーミングとして、賃金の上昇と一体である説明が必要。しかし、実際は賃金は下落している。

    2016年のマイナス金利導入は、サプライズの試みだった。市場はむしろ拒絶反応をおこした。銀行株の下落、ベア凍結、預金のマイナス金利への不安、など。
    昭和の時代は、公定歩合の操作について嘘をついてもいい、という常識。近年では、サプライズは無用な市場の混乱を招く。丁寧な市場との対話がよいとされる。

    物価上昇につながるフレーミングとナッジが必要だった。賃上げのアンケートを取る、など。選挙の前に選挙に行くか尋ねると、投票率が上がる。賃上げと物価上昇をセットにするフレーミング。

    物価指数は真の物価動向に比べて高めになりやすいバイアスがある。
    実効下限金利状態の長期化は不可能ではない。
    2%のインフレ目標は、国際標準ではない。

    市場が需給ギャップにあまり反応しなくなっている理由として、情報の処理能力には限界があるため、という合理的無関心の可能性がある。グリーンスパン的には物価の安定には望ましい状態。無理にそれを覆すのは本末転倒ではないか。

    フェルドスタインの消費税の連続的引上げ(所得税を下げて税収的には中立にする)によってデフレを脱却する方法=現金給付と組み合わせればマイルドな物価上昇予測を持たせることができる。しかし消費税をデフレ脱却に使うことはできなかった。むしろデフレは日銀の問題としておいたほうが都合がいい。

    金融政策は実効下限金利の壁があるが、財政政策ならインフレ率を挙げられるのではないか。MMTへの関心とともに中央銀行の財政ファイナンスに注目が集まっている。

    シムズの物価の財政理論。債務に無関心だからこの手法による物価上昇は起きそうにない。人々の危機感を程よく煽ることはできない。正常化バイアスが崩れれば一気にパニックになる。

  • 20220327読了。著者の翁邦雄氏は長年日銀の金融研究所に所属しており、現在の黒田日銀による大規模な金融政策やインフレ目標政策には批判的な立場。本書は行動経済学の成果をもとに「異次元緩和」を検証している。主流派のマクロ経済学には人々の心や期待に働きかけるという視点が必要だと主張している。「主流派の」と明記しているのは著者の主張が現在の経済学の本流ではないということを意識しているということか。
    本論ではないが、あとがきで昨年急逝した池尾和人氏を悼む文章があった。私はその部分が一番心にしみた。一応経済学の徒、としては池尾先生の著作は読んでいたし、講演も聞いたことがあるので、個人的にも大変残念に思っている。

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著者プロフィール

1951年生まれ。74年、東京大学経済学部卒業、日本銀行入行。83年、シカゴ大学でPh.D.取得。以後、筑波大学社会工学系助教授、日本銀行調査統計局企画調査課長、企画局参事、金融研究所長等を経て2006年、中央大学研究開発機構教授に就任。
09年、京都大学公共政策大学院教授。17年より法政大学大学院政策創造研究科客員教授、京都大学公共政策大学院名誉フェロー。
主著
『期待と投機の経済分析』東洋経済新報社、1985年、日経・経済図書文化賞受賞
『金融政策』東洋経済新報社、1993年
『ポスト・マネタリズムの金融政策』日本経済新聞出版社、2011年
『経済の大転換と日本銀行』岩波書店、2015年、石橋湛山賞受賞
『金利と経済』ダイヤモンド社、2017年など

「2019年 『移民とAIは日本を変えるか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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