増補 昭和天皇の戦争──「昭和天皇実録」に残されたこと・消されたこと (岩波現代文庫 学術469)
- 岩波書店 (2023年9月15日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (398ページ)
- / ISBN・EAN: 9784006004699
作品紹介・あらすじ
「聖断」によって日本を救った平和主義者――多くの人が抱く昭和天皇のイメージは真実だろうか。昭和天皇研究の第一人者が「昭和天皇実録」を読み解き、「大元帥」として陸海軍を統帥した天皇の実像を明らかにする。「昭和天皇拝謁記」や「百武三郎日記」などの新資料もあわせ検証した補章を付す。(解説=古川隆久)
感想・レビュー・書評
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宮内庁が編纂した「昭和天皇実録」は戦争前後の巻だけ読んだ。副題にあるように、「実録」のサブテキストとして読める。昭和天皇の言動は「実録」で取り上げられた資料にも、またそれ以外の資料にも記録があり、それが取捨選択されて「実録」として出版されたわけだ。
意図してか否かはともかく、「実録」の天皇は一部の例外を除き(例えばポツダム宣言の受諾)、臣下の報告を聞くばかりで受動的な印象を受ける。が、実際にはその時々でいろいろ発言があったようだ。結果としては、日中戦争から太平洋戦争に突き進む過程の中で、天皇は政治、軍事の両方を統括する君主だったわけで、天皇をして単純な平和主義者だったと考えるのは無理があるなあ、と読みつつ思った。史料批判というのはこういうことを言うのか。
戦局の折々に、大元帥たる天皇の裁可が必要だったタイミングはいくつもあった。もしあのとき、そのときに天皇が別の決断を下していたら、歴史はどう変わっただろうか。 -
史書は何を書かないかによってもストーリーを創り歴史として遺す事が出来る。公式伝記「昭和天皇実録」を繙き、重要史料を参照しながら、その編集意図を検討する本書は註釈としての価値あり。天皇が平和主義者だったのは確かとしても、それはあくまで大国との戦争による敗亡を避けんが為で、戦勝している限りは既成事実の追認に吝かではなかったし、自国勢力の拡大にも肯定的だった。太平洋戦争開戦後の作戦への度重なるコメントにも、何とか状況を好転させたい焦燥が見て取れるが、そんな戦争と密接に関わっていた姿が実録に記載される事は無く、歴史とはものの見方だと実証する内容でもあった。ちなみに合理的思考に基づいた昭和天皇の指摘は(時に結果的な過ちを含みながら)政治的にも軍事的も的を得ており、立憲君主としてではなく、もし独裁的強権を持つ存在だったなら、むしろ戦争と敗戦は無かったのではとも思わされた。ただし大日本帝国のシステムはそうでなく、権力の所在がどこにあるか分からない、いわば無責任な国家体制こそが、国家の破滅を招いたと言え、その仕組みの中で天皇が果たし得ただろう役割は、恐らく限定的だった点留意したい。
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東2法経図・6F開架:B1/8-1/469/K
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【蔵書検索詳細へのリンク】*所在・請求記号はこちらから確認できます
https://opac.hama-med.ac.jp/opac/volume/478172