無援の抒情 (岩波現代文庫 文芸 16)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (261ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006020163

作品紹介・あらすじ

全共闘世代の闘いと愛と孤立をうたい、日常の風化に抗する意志表示として熱い同時代的共感を呼びおこした歌集『無援の抒情』を中心に、その後の歌集より自選した四百首を加えた。

感想・レビュー・書評

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  • 技術的な面ではまだ粗削りで、高い評価を受けられるものだとは思わない。
    けれど、このくらいの生命力のある生意気な年頃の気持ちってつらつらと小難しい言葉で書くよりも、こうやっておんなじ思いをどうにか表現しようとした歌を何個も並べる方がよく伝わる気がする。
    歌集って、そういう一つの思いをどうにか具現化しようとするものだよなぁと再発見できた一冊。

  • 20歳前後の、全共闘世代が一番輝いていた時代の歌から始まり、年代を追って詠まれた歌は、もうそんな時代などなかったかのような世相の中で、いつまでも全共闘をひきずっているようで読んでいて痛ましい。

    迫りくる楯怯えつつ怯えつつ確かめている私の実在
    催涙ガス避けんと秘かに持ち来たるレモンが胸で不意に匂えり
    稚き手白き手選びてビラ渡すその手がつかむものを信じて

    逮捕され、入牢もした彼女の人生は、しかし恋も多いものだった。
    二度の結婚と道ならぬ恋。
    実らなかった初恋。
    年齢を重ねても凛と佇む姿が人を引き付けるのかもしれない。

    生活の疲れを澱とするなかれカールほどけば麩のごとき髪

    いつしか同時代をも詠むようになり

    本は凶器 本本本本本本本本本本本 本の雪崩
    (1995年1月17日……)
    信教もイズムも阿片 魂のエクスタシーを誘える蜜

    そしてついには

    (世界より私が大事)簡潔にただ率直に本音を言えば

    本当に、世の中の人がみんな全共闘なんかなかったようにふるまっていた頃にも、ずっと全共闘をひきずっていたような人だったから、この歌には正直驚いた。

    だって

    私だったかもしれない永田洋子 鬱血のこころは夜半についに溢れぬ

    なんて詠う人だったのだから。


    えらそうに書いていても、知っていた歌は

    ひと恋はばひとを殺むるこころとは風に乱るる夕菅の花


    くらいです。
    ああ、勉強不足。

  • 安倍政権による平和憲法の解釈改憲、所謂『戦争法案』成立が進み、市民が次々と立ち上がっている今。読まれるべき歌集と思う。

  • 学生運動に加えて短歌にも疎いから、活字を追うばかりだったが、その鬱とした心情の断片は感じた。

  • 1960年代後半に吹き荒れた安保闘争のさなかに青春を生き、しかも全学連に全身を投じた歌人がいた。道浦母都子である。「迫りくる楯怯えつつ確かめている私の実在」―これが歌集の冒頭歌である。圧倒的な数と力を誇示する機動隊を前に、その隊列に突入していくのだ。これが歌として優れ、したがってまた我々読者を震えさせるのは、歌が単に時代の証人だからではない。「怯えつつ」という表現に籠められた感情の表出が思わず迸るからなのだ。だからこそ「私の実在」に強い共感性が生まれる。そして、闘争の敗北と抒情の勝利がここに結実する。

  • 好きな歌。

      明日あると信じて来る屋上に旗となるまでたちつくすべし

  • どこかさめて生きているようなやましさはわれらの世代の悲しみなりき

                                      道浦母都子

  • とても好みでした。好きです。
    過感傷にも見えるけど、でも閉じていなくてきちんと歌い上げていて。こんなにまっすぐにロマンを通そうとしていることに尊敬を覚えます。

  • その時代に生まれて熱く熱く生きようとした女のひたむきさが美しい。あこがれます。

  • 私は短歌とか俳句とか苦手な方なのだが、この実感、この生臭さにはもう参った。すごい。「全共闘歌人」の大傑作

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著者プロフィール

1947年和歌山市生まれ。大阪の北野高校時代に「朝日歌壇」に投稿の1971年に近藤芳美を訪ね、80年12月、全共闘世代の心情や理念を率直に歌った歌集『無援の抒情』を刊行、世代を代表する歌人として注目を集めた。81年、同集により第25回現代歌人協賞受賞。その後歌集は、『水憂』『ゆうすげ』『風の婚』『夕駅』『青みぞれ』『花やすらい』『はなぶさ』を刊行、その他の著書に小説『花降り』『光の河』、エッセイ『百年の恋』『たましいを運ぶ舟』などがある。

「2017年 『歌集 花高野 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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