グスタフ・マーラー――現代音楽への道 (岩波現代文庫) (岩波現代文庫 文芸 169)

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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006021696

作品紹介・あらすじ

「やがて私の時代が来る」と自己の前衛性を確信していたグスタフ・マーラー。彼の交響曲は自由で柔軟、感傷的で情感的、また急激な大爆発を起こすなど、近代人の知性と矛盾をさらけ出している。著者はマーラーの作品の背後に非西欧世界にも及ぶ広大な音楽文化圏の存在を見いだし、現代音楽への道を切り開いていった彼の歩みを跡づける。岩波新書版を増補。

感想・レビュー・書評

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  • Amazon、¥834.

  • 作曲家・音楽学者の柴田南雄(1916-1996)による、グスタフ・マーラー(1860-1911)の交響曲概説。巻末の解説は岡田暁生氏(京都大学准教授)が担当。

    【構成】
    第1部 グスタフ・マーラー-現代音楽への道
     はじめに われわれとマーラー
    1 マーラーの復活
    2 戦後の日本におけるマーラー
     Ⅰ ボヘミアからヴィーンへ
    1 少年時代
    2 「嘆きの歌」
    3 「第一交響曲」
     Ⅱ 新しい世界への出発
    1 「第二交響曲<復活>」
    2 「第三交響曲」
    3 「第四交響曲」
     Ⅲ 成就と崩壊の始まり
    1 「第五交響曲」
    2 「第六交響曲」
    3 「第七交響曲」
     Ⅳ 背後の世界の作品
    1 「第八交響曲」
    2 「大地の歌」
    3 「第九交響曲」
     Ⅴ 開かれた結末
    1 「第十交響曲」
    2 マーラーと二十世紀の音楽
     あとがき
    第2部 マーラー小論
     交響曲第一番ニ長調<巨人>
     交響曲第五番嬰ハ短調
     マーラー・ブームが意味するもの-クラシックの現在
    解説

    本書は、1984年に岩波新書から出された『グスタフ・マーラー 現代音楽への道』を第1部とし、1980年代後半から1990年代前半にかけて著者が寄稿した短い文章を第2部としてくっつけたものである。2010年はグスタフ・マーラー没後150年にあたっており、それにあわせた文庫化改版であろう。

    マーラーという作曲家の特異さは、その主要作品が完成した10の交響曲といくつかの声楽曲だけで占められることにあろう。マーラーを論じるということはマーラーの交響曲を論じるということと同義である。本書では、マーラーの私生活についてはほとんど触れられてはいないが、第1番から始まる彼の交響曲作品を論じることで、マーラーの人生が語られている。

    ロマン派の形式という軛から逃れて、交響曲における音楽表現の可能性を切り拓き、最後に交響曲史の金字塔となる畢生の大作「第9番」を完成させたマーラーの前衛性について、繰り返し述べられている。

    著者の柴田氏は、各々の交響曲の持つ性格を説明するにあたって、少し横道に逸れながら(例えば日本における曲の受容史)も、サクサクと時に手厳しく評価を下していく。

    録音や演奏解釈についての評価には首肯しかねるところもあるが、マーラーという作曲家について簡単に知ることができるので、マーラーを聴き始めて間もない人、興味を持っている人は読んで損は無いだろう。

  • マーラーの音楽はよく分からなかったのだけど、これを読んで分かった(分かった気になった)。
    昔、つまり戦前戦後の日本におけるクラシック聴衆のことや、マーラーがどのようにして流行りだしたかということが、最初の方に書いてある。

    各曲の解説はとても詳細で、聴くときの頼りになると思う。(と言いながらまだちゃんと聴いてない。)
    マーラーはユダヤ人生まれで、ドイツ人とは違うという意識をもっており、それが曲の随所に現れてること。例えば、カッコーの音を三度音程ではなく四度音程にしたことが書いてあったり。
    マーラーは交響詩=交響曲の考えのもとで作曲していたこと。
    西洋への違和の表現として唐詩をテクストにもちいたことなどなど。

    20世紀音楽についての考察もある。
    「余談だが、日本の洋楽会にはいまだにこの時代(新古典主義)の演奏様式を理想とする傾向が残存している。」と楽譜忠実主義を皮肉っていたり笑
    音楽界の革新は200年ごとにおこっており、そのときには既存の入れ物がはちきれて使用に耐えられなくなるという。
    ソナタ形式は元来 … 男女の主役の性格を表す第一主題と第二主題を設定し…なんて話は知らなかった。
    ケージの偶然性、不確定性の音楽は、東洋から来てること。
    音楽の革新が起こるはずの現代において、演奏上位、作曲不振の現代音楽の状況がどう打破され、新しい様式が生まれるのかは気になる。
    筆者は武満徹も挙げている。
    武満徹、雅楽、あるいは、エレクトロニカのような響きの音楽がその候補なんじゃないかと勝手に思ったりした。

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著者プロフィール

1916年東京生まれ。
幼時より母からピアノを習い、成城高校進学後、鈴木二三雄にチェロを学ぶとともに高校の文芸誌に音楽批評を寄せる。東京大学理学部植物学科、同文学部美術学科卒業。諸井三郎に対位法と作曲を、齋藤秀雄に指揮を学ぶ。
1946年入野義朗らと新声会を結成し主宰。1949年第1回毎日音楽賞。1957年吉田秀和、黛敏郎、諸井誠らと20世紀音楽研究所を結成。1972年一柳慧、武満徹、高橋悠治らと「トランソニック」結成。1973年「コンソート・オブ・オーケストラ」で第22回尾高賞。同年「追分節考」を作曲し、以後多くのシアターピース作品を発表。1982年第13回サントリー音楽賞、紫綬褒章。1988年勲四等旭日小綬章。1992年交響曲「ゆく河の流れは絶えずして」ニューヨーク公演。同年、作曲と文筆の両活動により文化功労者に選ばれる。
齋藤秀雄、井口基成らの「子供のための音楽教室」(後の桐朋学園音楽科)開設に参加したほか、お茶の水女子大学、東京藝術大学、放送大学などで作曲・音楽理論を講じ、後進を育てる。
作曲においては洋の東西を問わぬ宇宙的な視野に立った音楽世界を提示。放送、新聞、出版を通じて洞察と知的刺激にあふれた旺盛な評論活動を展開。
1996年2月2日永眠。享年79。

「2016年 『柴田南雄 音楽会の手帖』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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