作曲家・音楽学者の柴田南雄(1916-1996)による、グスタフ・マーラー(1860-1911)の交響曲概説。巻末の解説は岡田暁生氏(京都大学准教授)が担当。
【構成】
第1部 グスタフ・マーラー-現代音楽への道
はじめに われわれとマーラー
1 マーラーの復活
2 戦後の日本におけるマーラー
Ⅰ ボヘミアからヴィーンへ
1 少年時代
2 「嘆きの歌」
3 「第一交響曲」
Ⅱ 新しい世界への出発
1 「第二交響曲<復活>」
2 「第三交響曲」
3 「第四交響曲」
Ⅲ 成就と崩壊の始まり
1 「第五交響曲」
2 「第六交響曲」
3 「第七交響曲」
Ⅳ 背後の世界の作品
1 「第八交響曲」
2 「大地の歌」
3 「第九交響曲」
Ⅴ 開かれた結末
1 「第十交響曲」
2 マーラーと二十世紀の音楽
あとがき
第2部 マーラー小論
交響曲第一番ニ長調<巨人>
交響曲第五番嬰ハ短調
マーラー・ブームが意味するもの-クラシックの現在
解説
本書は、1984年に岩波新書から出された『グスタフ・マーラー 現代音楽への道』を第1部とし、1980年代後半から1990年代前半にかけて著者が寄稿した短い文章を第2部としてくっつけたものである。2010年はグスタフ・マーラー没後150年にあたっており、それにあわせた文庫化改版であろう。
マーラーという作曲家の特異さは、その主要作品が完成した10の交響曲といくつかの声楽曲だけで占められることにあろう。マーラーを論じるということはマーラーの交響曲を論じるということと同義である。本書では、マーラーの私生活についてはほとんど触れられてはいないが、第1番から始まる彼の交響曲作品を論じることで、マーラーの人生が語られている。
ロマン派の形式という軛から逃れて、交響曲における音楽表現の可能性を切り拓き、最後に交響曲史の金字塔となる畢生の大作「第9番」を完成させたマーラーの前衛性について、繰り返し述べられている。
著者の柴田氏は、各々の交響曲の持つ性格を説明するにあたって、少し横道に逸れながら(例えば日本における曲の受容史)も、サクサクと時に手厳しく評価を下していく。
録音や演奏解釈についての評価には首肯しかねるところもあるが、マーラーという作曲家について簡単に知ることができるので、マーラーを聴き始めて間もない人、興味を持っている人は読んで損は無いだろう。
- 感想投稿日 : 2012年2月18日
- 読了日 : 2010年6月26日
- 本棚登録日 : 2010年8月13日
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