ナショナリズムという迷宮: ラスプーチンかく語りき

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022502452

作品紹介・あらすじ

国家とは何か、民族とは何か、宗教とは何か、過去と現在、思想と現実。あの佐藤優と、魚住昭による、知的刺激に満ちた世界。

感想・レビュー・書評

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  • 【由来】
    ・はじめてのマルクス

    【期待したもの】

    ※「それは何か」を意識する、つまり、とりあえずの速読用か、テーマに関連していて、何を掴みたいのか、などを明確にする習慣を身につける訓練。

    【要約】


    【ノート】

  • 著者:佐藤優、魚住昭
    装丁:フォルマーデザイン
    初出:『1冊の本』二○○五年七月号〜二○○六年十一月号

    ・2010年に文庫化。
    ・カバーを外すと、迷路模様の図柄が。いいと思います。

    【書誌情報】
    ISBN:9784022502452
    定価:1620円(税込)
    発売日:2006年12月7日
    四六判上製 256ページ
    品切れ・再販未定

     『国家の罠』をはじめ、ベストセラーを連発するあの佐藤優と、『差別と権力』などの話題作で名高いジャーナリスト魚住昭が、日本社会の現状を語り尽くす。ナショナリズム、ファシズム、ポピュリズム。思想と現実の両面から日本現代史を解き明かす好読み物。思想・哲学に通暁する博覧強記の佐藤優と、長い取材執筆経験をもとに、日本の現実を知り尽くす魚住昭との間の白熱の対話。
    http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=7769


    【目次】
    目次 [001-008]
    まえがき 佐藤優(二○○六年十一月十八日記) [009-020]

    1  021
    お金を払ってものを買うのは当然?/国家と貨幣に対するイエスの戦略
    2  035
    ねずみ男のバランス感覚/イスラム教にとっての「罪」
    3  049
    アメリカの「市民宗教」/オウム真理教と時間概念
    4  061
    時間の果てにある世界/可哀想な人を救って「あげる」/オウム真理教が引き起こした事件が内包する問題
    5  073
    イメージ能力の不思議/ナショナルな価値に対する冷笑/ファシズムに足りないもの
    6  086
    陽気な? イタリア・ファシズム/“民族”との出会い
    7  099
    中世の二つの共同体/救世主の時間と空虚な時間/小説と新聞と国民と
    8  111
    喫茶店という水平的な議論の場/ナショナリズムは操作できるのか/沈黙の書?
    9  123
    貨幣になったホリエモン/怪獣大戦争/差別のない社会の罠/盛り上がりに欠ける逮捕劇
    10  136
    野中広務氏と耐エントロピー/国家からは逃れられない?/ナショナリズムの“評価”
    11  148
    収奪方法の転換/“正しい”官僚のお仕事/資本主義国家の“油断”
    12  161
    官僚政治の生じる余地/三○年代を特異期間と見る
    13  174
    中産階級に実体はあるか/変わってゆく官僚階級/想像力とファシズム
    14  186
    論理と心情をこねまわす天才/強烈なピンポイントの攻撃
    15  198
    伝染する知力の衰弱/蓑田胸喜とメディア
    16  210
    丸山眞男の戦争責任論/日本人には「個」がない?
    17  223
    集団主義という“幻想”/思想とは何か

    単行本のための対話――自己相対化への想像力 235
    絶対に正しいものは複数ある

    文献解題(佐藤優) [239-244]
    あとがき(魚住昭) [245-253]




     “佐藤優さんについて説明する必要はもうないだろう。ご承知のとおり、外務省国際情報局(現・国際情報統括官組織)の元主任分析官であり、大ベストセラー『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)の著者であり、いまジャーナリズムの世界で最も注目されている人である。
     私がある編集者の紹介で佐藤さんにお目にかかったのは二○○四年夏のことだ。最初は喫茶店でコーヒーを飲みながら、二度目は 縄 のれんで酒を飲みながら話を聞かせてもらった。
     そうやって何度かお会いするうち、私は佐藤さんの特異な才能の虜になった。すでに『国家の罠』をお読みになった方ならお分かりと思うが、驚くべき知識と思考力の持ち主なのである。しかもそれは大学時代以来の神学の研究で培われ、外交や国際情報戦の現場で鍛え抜かれたものだった。
     これまで難解すぎて私の手に負えなかった政治や社会や思想に関する問題が、佐藤さんの手にかかると、たちどころに解きほぐされていった。噛んで含めるような彼の説明を聞いて「ああ、そうだったのか」と何度膝を打ったかしれない。思うに、佐藤さんはもつれ合った糸の塊をほどく天才なのである。
     そんな人物をただ放っておく手はない。この際、私の頭にずっとまとわりついて離れない重大な疑問を彼の力を借りて解くことはできないものだろうかと私は考えた。
     疑問とは他でもない。この国の運命に関わることだ。私はここ数年、日本の政治や言論や世論のあり方に強い違和感を抱くようになった。たとえば「拉致報道」などに見られるナショナリズムの急激な高まり。イラク人質事件での「自己責任論」の横行。憲法を無視したイラク派兵や改憲への雪崩現象。
     作家の辺見庸さんの言葉を借りれば、日本は「鵺のような全体主義」に覆われていると言わざるを得ない。私は何とかその鵺の正体を突き止めたいと思った。佐藤さんも以前から同じようなことを考えていたらしく、私の申し入れに快く応じてくれた。
     二○○四年末から長いインタビューが始まった。それは日本の過去と現在を見つめながら、国家とは何か、民族とは何か、宗教とは何かという根源的な問いの答えを探し求める旅でもあった。彼の外交官としてのさまざまな体験が貴重な手がかりになったことは言うまでもないだろう。この先、どれだけ時間がかかるか分からないが、目的地にたどりつくまでの知的興奮に満ちた旅を読者の皆さんにも一緒に楽しんでいただけたら幸いである。”

  • 現在、領土問題・靖国問題などが継続的にキナ臭い状態であり、国旗国歌の問題なども政治家のカードとして使われているようなフシもある。

    何でか知らないが、駅から結構遠い我が家の近くにはロシア領事館があり、北方領土の日など1年に何回かは右翼屋さんたちが非常にウルサイお仕事をされている。

    彼らを見ていると、ステロタイプなナショナリズムにはゲンナリせざるを得ない。

    これらを煎じ詰めると、自分の身を呈して国を守るという英雄的行動に出てしまう。

    自分の命をかけるわけだ。

    ヒロイズムは逆説的に考えると、相手にもそれを強要してしまうということにもなる。

    つまり他者の命も軽く考えてしまうということにつながる。

    その線分上に自爆テロとかがあるとは考えないが、それも考えるべきではあろう。

    又、基本的に忌避されるものに「ファシズム」がある。

    反射的にヒトラー・ムッソリーニ果てはスターリンまでを連想してしまう。

    自分の中では、強権的な全体主義としての認識しかなかったが、どうも違うらしい。もっと複雑で難しいので解りません。

    例えば、佐藤優さんが言うには、ファシズムには「優しさ」が不可欠であると。

    どうもブラック企業の理論にも相通じてしまうようだが、「優しさ」がないとガス抜きができないということらしい。

    かつて小泉総理にはその「優しさ」が欠けていたために、ファシズムにならずにすんだとも言えると説明されている。

    ナショナリズムの自己犠牲が浸透していくと、全体主義を容認していくことにもなる。

    これは難しいね。

    なんせ、全会一致ほど気持ち悪くてアブナイものもないと思うし。
    盲目的にならずに、右も左もなかよくけんかしてるのがいいと思うんですけどね。

  • ――――――――――――――――――――――――――――――○
    社会民主主義の本質は、ソ連型共産主義を阻止することだ。(…)資本主義がそのままスクスク育っていくと格差が激化して、社会主義革命への指向が生まれる。これを阻止するために国家が経済に介入して、所得の再分配を行い資本主義システムの維持をはかる。(…)ソ連・東欧社会主義の体制崩壊により、資本主義にとって、ソ連、東欧などの現実に存在した社会主義モデルはもはや脅威でなくなった。そうなると資本の論理が露骨にでてくる。もはや福祉政策は資本の増殖にとって有利でない。12
    ――――――――――――――――――――――――――――――○
    社会民主主義は警察国家型の管理システムと相性がいい。スイスやスウェーデンが自由な国であるというイメージが日本では強いが、実態は監視が社会全体にいきわたっている。両国は第二次世界大戦中、中立国だった。中立国はスパイ活動の舞台になる。そのため、一方の陣営のスパイ活動が一線を超えると、他陣営が「中立違反だ」との口実で侵攻してくる可能性がある。そこで国内に徹底的な監視網を作り上げた。その伝統がいまも生きている。13
    ――――――――――――――――――――――――――――――○
    イスラム教に「原罪」意識がないことが重要だと思います。たしかにキリスト教の中にもテロリズムはあります。北アイルランド紛争がそうですね。しかし自分の行いや考えは正しいんだと思っていても、「原罪」意識が破滅的な地点にまで到達することを止めてくれます。(…)イスラム教は人間が楽園から追放される前に神様と和解してますから。「自分の考えや行為は神様に由来している」と信じた時点で「正義」に転化しやすい。46
    ――――――――――――――――――――――――――――――○
    「未来」という考え方が、アメリカの福音派にみられる特徴です。フリーメソジスト教会も福音派のひとつです。プロテスタンティズムの標準的な解釈では、神様は天にいて、人は地にいます。その間には絶対的な断絶がある。神と人をつなぐところに唯一、イエス・キリストがいます。(…)ブッシュさんたちのプロテスタンティズムは、なぜか天上にいる神様が人間の歩んでいる歴史の果て、つまり「未来」にいるんですよ。(…)未来にいる神様に少しでも近づこうとすべきで、それを妨げる悪がいればそれと戦うんだという構成になっています。55
    ――――――――――――――――――――――――――――――○
    これは神の意思に反することだ。これ以上放置しておくと彼らの魂が汚れ、復活できなくなる。いま皆殺しにすれば、最後の審判の日に彼らも永遠の命を得られるかもしれないと。(…)「救済」という発想はひとつ間違うととても恐ろしいものになるんです。その発想の源泉は新約聖書にあります。一〇〇匹の羊がいて、九九匹は群れをなしているが、一匹だけ外れている。その一匹を群れの中に連れ戻すべく、羊飼いは努力をするんだと。(…)こういうキリスト教の思想に対して決定的な異議を唱えたのが、近代の自由主義思想なんです。70
    ――――――――――――――――――――――――――――――○
    中世ヨーロッパでは、まず何よりも「救われたい」という意識があったんだと思います。今が苦しいから早く来世で楽になりたい。キリスト教の場合、イエスがこの世に現れたことをもって、未来における人類の救済は約束済みなんです。終末が来ることが恐ろしくないのです。(…)そんな世界観ですから歴史を原因と結果の無限連鎖ととらえるような考え方は生まれなかったのではないかと私は見ています。(…)いわば現在、過去、未来の区別がない永遠の物語です。105
    ――――――――――――――――――――――――――――――○
    国家=官僚は気付いたのです。経済政策として掲げた新自由主義の行き過ぎに、です。(…)法律のグレーゾーンを衝いて利益を上げたり、場合によっては違法行為を行ってでもタックス・ヘブンに富を移すことだってあります。つまり、日本に籍を置く個人や企業が経済力を上げても、国家は十分に潤わない、さらに言うならば国家を支える官僚が潤わないのです。(…)「ホリエモン的なるもの」に国家を潤わせない理念型があると官僚が見なしたのでしょう。新自由主義のシステムをこのまま放置することは国家を弱体化させることになる。154
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    官僚や軍人の役割を考えると、彼らは社会から生まれたものでしょうか。(…)この両者は国家から生まれているんです。国家から生まれているんだけれども、社会の中に入ってきて、社会から徴税や徴兵といったかたちで収奪したり、物を買って生きているんです。もともと社会にいた人間が国家公務員試験を受けて官僚になったり、職業軍人になるということは、社会からドロップアウトしてしまうということなんです。市民社会の外側に位置する階級だということです。178
    ――――――――――――――――――――――――――――――○

  • ラスプーチン かく語りきシリーズ 第1弾

    佐藤優の寄稿しているものではなく、作家魚住氏との対談の本。

    思考とは何か、民族とは何か、国家とは何か、官僚とは何か、

    歴史の必然と繰り返しを指摘しながら、その上での指摘が非常に興味深い。佐藤優著の「国家論」も読んだが、どうしても1人であると話が難しくなるが、魚住氏が生徒役をつとめることで、例話などで理解することができる。

    国家や政治の本日を紐解くためには1冊だと思う。

  •  産業資本主義社会においてナショナリズムというある種の社会的病理は避けがたいものである。というのも産業社会においては、高度な教育(読み書き能力・階層の流動化・個人の匿名化を前提にしているからである。

  • 国家主義者・佐藤優の国家、ナショナリズムについての本。
    貨幣は国家権力の最たるモノ。国家主義を嫌う左翼の方が、貨幣・金銭に執着するようだ。右翼の方が執着しない。
    国家=官僚は収奪するために存在する。
    マルクスは課税=官僚機構という構図を見ていないが、この官僚機構こそナショナリズムを発病させる原因だ。
    ホリエモン事件は、新自由主義の隆盛に伴い、富者が増え、それが国家の税としてなかなか入ってこなかった状態に業を煮やした官僚が仕組んだもの。
    さらに大統領制導入、天皇に踏み込んだホリエモンに検察当局(=国家)が危機感を抱いたのだ。
    公権力の危機管理の発想として、明らかなガセでない限り、事情を必ず聞くというスタイルがある。
    官僚は社会の変動、混乱があると自己保存に陥る。
    情と理を混ぜた討論はキケンだ。

  •  佐藤優氏の著作を読むのはこれで2冊目。ウーム、麻薬のような習慣性に取りつかれそうだ。麻薬じゃマイナスイメージが強いから、「知的強壮剤」と命名しておこう。佐藤氏の言論は、大半の人々に「無知」を自覚させる。しかも、完膚なきまでに。その反動として、読者を次なる佐藤本に向かわせるのだ。もう、「先生」と呼びたくなっちゃうよね。

     <a href="http://d.hatena.ne.jp/sessendo/20080621/p1" target="_blank">http://d.hatena.ne.jp/sessendo/20080621/p1</a>

  • もと外務官僚の佐藤優氏とジャーナリスト魚住昭氏の対談形式による思想から現在の政治にいたるまで幅広い内容を扱った本

    思想とは何か、また思想だと思っているのもが実は対抗思想であるという話から、ライブドア事件は国家と貨幣の暴力性から生まれた事件であると言う話、さらにはキリスト教とイスラム教の原罪意識の違いをおさえた上でオウム真理教の考え方、ブッシュとビンラディンが根底では似た思想を持っているという話など多岐にわたる

    またファシズムとは何か、小泉政権は『やさしさ』がないと言う点でファシズムではないという話から、戦前の1930年代から終戦までの日本の思想の移り変わり方、またその時代の現在への連続性に対する考察など

    以前、『武器なきインテリジェンス』で佐藤氏のことを知ったが、彼の分析は非常に高度で、彼のバックボーンである神学、またインテリジェンスが大きな影響を与えていると思う。美濃部達吉や丸山真男にいたるまで細かく分析していることに驚く。彼の著書は非常に面白いが、ある程度、歴史、思想などに精通していないとその面白さが半減してしまう。自分自身、13〜16章の理解が難しかった。参考文献を多く挙げてくれているので、この本をキッカケにさらに学ぶことができるのがうれしい。

  • インテリジェンスの話ではないが、かなり佐藤ワールドに引き込まれた。
    やっぱり、きちんと積み上げている人は、自分の視点でものが話せる。

    内容は、やっぱりかなり重たい。
    思想とは、民族とは、国家とは、官僚とは、そして宗教とは。
    盆休みくらいののんびりした時間がないとなかなか
    読み進めるのは大変。

    だけど、極力わかりやすい言葉で書かれていると思う。

    「コイン2枚でコーヒーが買えることに疑念を持たないことが
     『思想』なんです。そんなもの思想だなんて考えもしない、
     当たり前だと思っていることこそ『思想』で、ふだん私たちが
     思想、思想と口にしているのは『対抗思想』です。」

    「マルクスが解き明かしたことの中でも重要なのが『国家』と
     『貨幣』の機能だと思います。両者とも人と人との関係性から
     生まれてきたものなのに、人の意思に構うことなく人を動かす
     ことができる。それほどの暴力性を帯びていることを明らかに
     しました。」

    「官僚は、収奪する階級だという見方に、昨今の官僚機構の
     ありようが、すとんとはまるような気がするんですよ。
     ただし、民主主義と情報化が進んだ現代社会では再分配と
     いう装いをとらないと、国家の存続する権利が担保されない。
     だから、現代国家においては柄谷さんが言うように、国家=
     官僚機構は『収奪し分配する機能』に必ずなるのです。」

    こういうのが延々と続いてる。
    なかなか、骨太で、論理的に話を進めるという点でも
    勉強になりました。

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著者プロフィール

1960年1月18日、東京都生まれ。1985年同志社大学大学院神学研究科修了 (神学修士)。1985年に外務省入省。英国、ロシアなどに勤務。2002年5月に鈴木宗男事件に連座し、2009年6月に執行猶予付き有罪確定。2013年6月に執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて―』(新潮社)、『自壊する帝国』(新潮社)、『交渉術』(文藝春秋)などの作品がある。

「2023年 『三人の女 二〇世紀の春 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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